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諏訪大社上社本宮 布橋・入口御門保存修理工事見学会

上社本宮で進める重要文化財保存修理事業の1期工事で、入口御門いりぐちごもん布橋ぬのはしの屋根を「こけらぶき」にする。昭和に行った前回の銅板ふきから変更するのは「作り直した後に一番価値がでる方法」だからとのこと。来年5月の完成を目指す。

工事規模

上社本宮には21棟の重要文化財(重文)がある。今回の事業(2019~25年)は16年に追加指定された重文10棟のうち9棟と、附(つけたり)指定された1棟の計10棟を対象に行う。設計監理を文化財建造物保存技術協会(東京)、施工を田中社寺(岐阜市)が担当するとのこと。(Nagano Nippo

こけら葺きとは

こけらぶきは、国産材を手割りで縦24・2センチ、横6センチ以上、厚さ3ミリにした「平葺板ひらふきいた(こけら板とも言うらしい)」を竹くぎで固定して重ねていく工法。布橋の屋根(406平方メートル)にはスギ材の板を約30万枚、入口御門の屋根(82平方メートル)にはクリ材の板を約9万5000枚使用するとのこと。平葺板の素材は他にさわら檜葉ひばなど油分や粘着力のある赤身材が使われるとのこと、今回は入手できる素材で選んだとの解説があった。

平葺板の作り方と効果

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配布資料にある通り、こけら板は大きな原木を25cm弱ほどの輪切りにしてバームクーヘンを人数分切りそろえるように分割した後、その直径面を更に細かく割ってゆく工程をたどる。解説だと16mm弱の板を更に半分、更に半分と割って暑さ3.75mmの板を一セットで4枚作るとあった。確かにこれから葺く前に積んである平葺板は4枚づつが幅の違いで重ねて置いてあった。

板を割る時は、柾目に沿って自然に割れたものとなっている。葺いたときに敢えて微妙な『隙間』を作ることで空気の流れを取り入れ濡れた場合にも乾燥しやすいという。これを加工板でやってしまうとぴったりした接地面の毛細現象で逆に水を吸ってしまったり、目が切れていると劣化しやすくなるためとのこと。木材の良い側面をしっかり利用した技法といえる。また、雨水が入らないようにすることを『雨仕舞いあまじまいを良くする』という言い方をしていたことも印象的だった。

職人さんが4人並んでちょうど肩幅の倍の範囲を受け持つような間隔で並び平葺き板を葺き込んでいた。少しずらした2枚の板を左手で抑えながら、竹釘(爪楊枝よりも一回り太く、半分くらいの長さ)を口に含み、左手は常に板を抑えながら、専用の金槌を右手で掴みつつ、竹釘を1本づつ掴んではたたき、掴んではたたきを繰り返す。所々は真鍮釘も使い強度を維持しているように見えた。職人さんが作業している場所を離れ、入口御門側に移動した場所では蓑甲みのこうや谷部分(屋根の端で丸まっている部分)は平葺きがきれいに角度を与えられて丸くカーブしている部分はきれいな工芸作品を見たときの感動があった。


葺込み銅板

平葺板を何段か敷く過程で、帯状の銅板を含めていた。見学は屋根面を間近に観察できるため、隙間から銅板の反射が目立って感じる。銅の利用は社寺の銅板葺に見られる通り見慣れたものであるが、こけら葺きの工法でこのように利用するのは主に腐食防止を目的にしているとの見解だった。解説では明確にその効果については不明としていたが、今のこけら葺きの工法では普通に導入されている素材のようだ。このような研究資料も見つかった。ここでは木の表面の腐食防止する効果の可能性を言及していた。


杮(こけら)と柿(かき)

こけら葺きの「こけら」を漢字で「柿」と書くため、柿の木を使った工法に勘違いしがちだがどうやら本来は柿の木の柿という字ではないようだ。一般的な柿のつくりは鍋蓋に巾の5画だが、巾の上に横棒を足した4画で全く別の漢字だったようだ。

身近な場所にいながら、見たようで見ていなかった部分を再認識できる今回の参加は、また地元を好きになるきっかけになった。

参考資料

岩﨑社寺工業株式会社 屋根葺技術
田中社寺株式会社 (今回の葺き工事を担当している会社とのこと)
社寺建築の豆知識 
「杮葺き(こけらぶき)」は「柿(かき)の木葺き」ではありません 
「布橋」諏訪大社本宮の長廊 (八ヶ岳原人さんのサイト)
こけら落とし (Wiki)

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