「塩狩峠」読んだよ!

「塩狩峠」を読みました。
結構前の小説で驚きました。

この小説、結論から言えばすごくすごく良い!小説なんですけれども、その理由が説明できないんですよね…。
感想に何書こうかな~と考えていたんですけど、思い付かないんですよね、良い意味で
言葉では表現できないのですが、善きお話でした。

士族の家に生まれた永野信夫の幼少期から物語は始まります。
そこから成長過程が描かれているのですが、友人とのやり取り、祖母の死や母らのキリスト教信仰、想い人を追って北海道に行ったこと、そこで経験したこと…などが描写されています。

内容としては、個人的には道徳や倫理を問うような台詞が多かったのが印象的です。
例えば、信夫が町人の子供と遊んでいて怪我をした時、「町人の子なんかに叩かれやしないやい!」という旨の発言をし、父に「人に上も下もない」と叱られます。
お父様の対応は当然なのですが、時代が時代なので(作中は明治時代です)珍しいことだと思います。
学歴だなんだと何かと階層をつけたがる我々の身にも染みる台詞です。
その他、悪天候を理由に軽い口約束を破ろうとした時、父に「約束は必ず守れ。どうでもいい約束を簡単にするな」と言われます。
LINEが普及している現在では、「雨やばいし今日のはナシにしよう」などと言えますが、当時はスマホは疎か携帯も勿論ありません。
結局信夫は約束を守り、そこで掛け替えのない親友と出会うのですが、道徳のお話だな…と思いました。
こう見るとお父様、とても立派な方ですよね。

また、この小説はキリスト教に関する描写が多いように感じました。
(あとがきで知ったのですが、この永野信夫はキリスト教信者の実際の人物をモデルにしているのだそう。著者の三浦綾子さんもキリスト教信者です。)
信夫の母と妹は敬虔な信者ですし、父もそれなりに信仰していますし、後に出てくる信夫の想い人も信者です。
なので、所々に聖書の一節が記されています。
西洋芸術との関連からキリスト教に興味を抱くことはあったものの、あの分厚い聖書を読むのが嫌で何も知らない私ですが、このように容易に説明してくれる書籍であれば学べるのでは…?!と思いました。
というか、普通にキリスト教入信を勧める資料として優れていると思うんですよね。
キリスト系の私立中学の課題図書にすべきでは?くらいに思っています。
そのくらい、嫌味な感じではなく、自然な感じでキリスト教の良さが表現されています。
信夫自身も初めはキリスト教を良く思っておらず、徐々に信仰に至った身である、という点が効いているんですかね。

信夫は親友(父に言われてしぶしぶ約束を守った時以来親交を深めたあの子)の妹(ふじ子)に恋をするのですが、彼女は重い病気を患っていました。
(結核と何かだった気がします。当時ではまず治らないと言われていたのだそう。)
そんな治るかどうかも分からない、治るとしてもいつ治るのか分かりもしないような相手の快復を、信夫は待ち続けます。
ふじ子の兄である親友にも「止めておけ」と止められたり、その間に健康な女性との縁談があったり、転勤したり、一家の長男として結婚・出産・母を支えることが求められていましたが、信夫は忍耐強くふじ子の快復を待ちます。
これ、とても深い愛の物語ですよね。
現代とは違い、当時は家系の存続のために一家の長男の責任はとても重かったはず。
健康な女性と結婚し、子供を持って家を存続させ、父母を支える、ということが求められていました。
(もっとあるのかもしれません。)
そのような事情があり、かつ途中良い縁談の話があったにも関わらず、信夫はふじ子を想い続け、「ふじ子が快復するまで待つし、しないのであれば自分は結婚しない」とまで言い切ります。
彼が自分勝手なようにも見えますが、こんな男性は今の世にもいないと思います。
清らかで良質な恋愛物語…という感じでした。

結局、信夫の支えの甲斐あってか、ふじ子の体調は良くなり、晴れて結婚することになりました。
その時、ふじ子は札幌、信夫は旭川に住んでいたため、信夫は電車で札幌まで向かいます。
その途中、塩狩峠を越えている最中に信夫らの乗っている車両が前方車両から切り離されてしまい、登ってきた道を落ちていってしまうのです。
信夫はハンドブレーキで車両を止めようと試みますが、完全停止はできません。
このままでは車両が脱線して多くの乗客が命を落としてしまうと考えた信夫は、脳裏にふじ子が浮かびながらも、車両を止めるために自分の身を線路に投じるのでした。

あらすじから信夫は最後命を落とすことは知っていましたが、何か間違いが起きて生き残らないかな…とずっと思いながら読み進めていました。
残念ながら生き残ってくれませんでした…。
勇敢な死というか、名誉な死であると思いますし、信夫は偉大だと思いますが、願わくばふじ子と結ばれて幸せな人生を歩んで欲しかったです…。
ふじ子自身にも幸せになって欲しかったです。
ここではサラーっとしか信夫とふじ子の二人三脚の様子は記していませんが、二人が支え合う様は本当に読んでいて応援したくなるものです。
こんなに悲しくなる物語があるものでしょうか…。すごくすごくショックでした。

「一粒の麦、地に落ちて死なずば、唯一つにて在らん、もし死なば、多くの果を結ぶべし。」
一粒の麦も、穂についたままではたった一粒ですが、地に落ちて芽を出せば沢山の麦が生ります。
信夫の犠牲によって多くの乗客が救われました。
誉められた行為なのでしょう。
ですが、名誉ある死とか何とかはどうでもいいので、私は信夫には生きていて欲しかったです。

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