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建物の強みを生かしながら街と繋がり、アーティストや地域の可能性を広げる場へ。 -旧 藝大寮活用プロジェクト 滞在者インタビュー後編-

omusubi不動産では「旧 藝大寮活用プロジェクト」と題して、2022年3月に閉寮した東京藝術大学(以下、藝大)の学生寮の利活用の方法を探るプロジェクトを展開しています。

これまでに、松戸や藝大にゆかりのあるアーティストによるテスト滞在やイベントなどを実施してきました。
(プロジェクト実施の背景や、過去のイベントの様子は「#旧藝大寮活用プロジェクト」よりご覧ください。)

今回は、旧藝大寮にテスト滞在した4名へのインタビューの後編をお届けします。後編では、それぞれが感じる旧藝大寮の利活用の可能性や、今後この場所でやってみたいことなどについてお聞きしました。
*前編はこちら

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人が交わる場所を旧藝大寮の中につくる

ーこれまで皆さんの滞在の様子をお聞きしてきましたが、これからのことについても伺えたらと思います。具体的に皆さんがここでやりたいことってありますか?

石原朋香さん(以下石原):今回なかなか他の滞在者の皆さんと知り合う機会がなかったのですが、それぞれ面白い活動をされている方ばかりだと思うので、皆さんとコミュニケーションする場が欲しいですね。単身棟の共同キッチンとかでやりたいです。

山際悠輔さん(以下山際):そういう声かけをするのってなかなか難しいですよね。
個人的には、自然と会話が生まれるような空間の使い方ができたら良いんじゃないかと思っていて。例えば、コワーキング的に使える部屋があるとか、どこか1部屋をギャラリーにして、滞在者が展示やワークショップをやる場所があっても良さそう。もっと色々な人がクロスオーバーする空間があったら面白くなりそうだなと思います。

葛西柊摩さん(以下葛西):僕も最初にどう声をかけて良いのかわからなくて。どんな方がいるかわからなかったので、少し誘いにくかったんですよね。もしかしたら寮長的な人がいても良いかも。何かしたいなって思った時も相談できそう。

ーそういう役割やルールづくり自体を滞在者自身が担うことってどう感じますか?

山際:それができたら理想だと思うんですけど、どう始めるのかが難しいですよね。特に僕が滞在している夫婦棟は、生活するだけなら自分の部屋だけで完結できてしまうので、他の人とルールを決める必要性があまりなくて。

尾藤直哉さん(以下尾藤):僕らの部屋で、本棚に自分の好きな本を置いて、NORMALのメンバーが誰でも読んで良いようにしているんです。そういうのを共有スペースでやっても良いのかなと思いました。「あれ読んだよ」みたいな感じで、自然と会話も広がりやすいですよね。そういうところからスタートしてコミュニケーションが広がっていったら、滞在者でルールづくりを行うことも考えられるかもしれないです。

ー確かに面白そう。管理ありきではなくて、自分のおすすめ本を置いておくとか制作の場を共にするとか、そういうところから始められるといいですよね。

石原:私はもっと部屋の改装ができたら良いんじゃないかなと思いました。私が滞在していた部屋も、前住んでいた人の痕跡がすごく残っているんです。それはそれで愛おしいんですけど、これから滞在する人たちが塗り替えていく、より生きている部屋にできたら面白いんじゃないかなと思いますね。

期間限定滞在で滞在者の幅を広げる

葛西:僕は学生なので、場所を使える時期が限られるんです。長期休暇中は色々活動したいけど、授業が多い時期はなかなか来ることができなくて。だから、短い期間で滞在できる仕組みがあるとありがたいなと思いました。

石原:学生のために「この時期は家賃無料」のような枠を作っても良さそうですね。

山際:学生や若手が入りやすい仕組みは良いですね。僕はもっと下の世代と知り合いたい気持ちがあって。関東で学生生活を送っていないこともあって、こっちでの学生とのつながりがほとんどないんですよね。ちょっとした仕事や、自分が専門外のことを紹介できる環境があったら良いなと。

石原:以前長野県の松本市で、「アーティストの冬眠(*1)」というアーティストインレジデンスに参加したことがあるんです。通常レジデンスは成果発表までやることが多いんですが、「冬眠」だからインプットだけでもOKっていう仕組みだったんですね。
私は散歩したり美味しいものを食べに行ったり、一緒に参加した人と話したりしながら、結局、旅行記のようなZINEを作ったんです。その後も松本で子ども向けのワークショップをやったり、繋がりも継続していて。短期間でも「冬眠」をやったことで次を考えられるようになったというのが大きかったなと感じています。だから滞在目的をインプットに絞るのもありかもしれないなと思いました。

ーそれは学生だけじゃなくて、社会人が対象になっても良さそうですね。

石原:年齢とかあまり関係なく、ショートステイ的なものがあるといいのかもしれないですね。

キュレーターの必要性

尾藤:アーティストインレジデンスとして使うのであれば、松戸のPARADISE AIR(*2)と差別化する必要性もありそうですよね。
僕たちはPARADISE AIRと旧藝大寮と両方滞在したんですが、PARADISE AIRは街との接点を提供してくれたのが印象的で。こちらは空間的なところや、他の滞在者とのコミュニケーションがポイントになるように感じました。

山際:ここだったらあえてアート以外のジャンルの人に入ってもらうとかも良さそうですよね。農家とか職人とか、より生活に近いような文脈も持つことができたら面白いかもしれない。入居審査的なものを設けても良いかもしれないですね。

尾藤:プログラム化となると、どうやって運営していくかということがポイントになってきますね。

石原:そうすると改めて寮長さんというか、キュレーションチーム的な立場の人たちが必要な感じがしますね。利用者の生活面でも、この場を面白くしていく上でも、役員というか、町内会みたいなものがあると良いのかな。

地域との接点のつくりかた

ー今回のテスト滞在中に個展やワークショップをやったり、外の人と繋がる機会があった方もいると思うのですが、そういう場についてはどう感じましたか?

山際:外と繋がることは、やっぱりあった方がいいと感じましたね。
僕は普段材料をホームセンターで買ったりするんですけど、この間在庫がなかった時、近くの材木屋さんを見つけて材料を切ってもらったんですよ。旧藝大寮の話をしたらすごく面白がってくれて「捨てちゃう材料もあるからぜひ使って欲しい」って言ってくれて。
この旧藝大寮が認知されて地域と繋がっていくことで、滞在するアーティストやクリエイターの活動が広がっていくと思うんですよね。

石原:ここはチェーン店のホームセンターもあれば個人店もある。周りにものづくりに関わる人もたくさんいて、「何か一緒にやりませんか」って声をかけたりもしやすくて。ものづくりをするのにバランスが良い場所だと思いますね。
だからこそ、すごく意識的に繋がるというよりは、自然な形でご近所づきあいみたいな関係性になるのが理想なのかなって思います。

山際:ただ一方で、繋がりが多すぎても制作に集中しにくい人もいると思うので、どのくらい開くのかという線引きは必要だと感じていて。2ヶ月に1回外の人も呼ぶイベントをやるとか、あらかじめ頻度を決めておけば幅広い人を受け入れられるのかなと思います。

葛西:僕らは大学生なんですけど、その立場からこうなったら良いなと思っていることがあって。自己紹介でも言ったんですが、僕たちは空白の高校時代があったんですね。

山際:それ気になるな(笑)。

尾藤:いや、本当に何もなかったんです(笑)。ずっとファミレスで「何する?」って話し続けて、テスト期間に入って企画が立ち消えるっていうことを繰り返してました。

葛西:そこからPARADISE AIRに滞在することになって、それからの広がりが大きかったんです。PARADISE AIRにいたということで、周りに「アート活動をしている人たち」という印象を持ってもらえる。自分たちも部活のグループから一歩抜け出した感じがあるんです。
だからここも「あの旧藝大寮で活動している人ね」って周りの人に認識してもらえる、一つのネームバリューみたいなものに繋がっていったら良いなと思いました。

石原:その感じは私もわかります。去年、取手にある「VIVA(*2)」っていうアートスペースで活動していて、その時に「アソシエイトアーティスト」っていう肩書きをもらっていたんですね。その肩書きがあることで、VIVAに来る人たちとの繋がりが自然とできて。「旧藝大寮レジデンスアーティスト」みたいなのも定着したら良いですよね。
それなりの時間がかかると思うんですけど、そういう肩書きのようなものによって私たちアーティストが活動しやすくなるんじゃないかなとも思います。

様々な滞在の選択肢が多様性を生む

ー今回はテスト事業として皆さんに滞在してもらっていましたが、今後続けていく上では家賃や利用の仕組みも重要だと考えていて。その辺りのご意見もお聞きしたいです。

山際:今僕が住んでいる部屋は、部屋だけなら普通のアパートとあまり変わらないので、この辺りの家賃相場を目安にして良いんじゃないかなと思います。
アトリエなどの共有スペースについては、人によって使い方に違いが出てくると思うので、オプションで利用料を支払って使うといった方法もあるんじゃないかなと。ただできるだけ自由に使える方がコミュニケーションは生まれやすいと思うので、そこが難しいですよね。

石原:アトリエや談話室が滞在者で継続的に使える利用体系はどうかなと。時間ごとに専有する仕組みだと、使う度に設営するのがすごく大変なので、「滞在者は継続的にものを置いていてもOK」だとすごくありがたいですね。アトリエを使わない人でも、「一緒に暮らしているアーティストをサポートしたい」という思いでシェアできると、新しい関係性が生まれるかもしれないし。

葛西:役割を担ってくれる人の滞在費を下げるという方法もありますよね。例えばさっき出てきたキュレーションチームみたいなものって、やっぱり滞在者自身がある程度関わる方が面白くなると思うんです。そこに参加したり、寮長的な役をやってくれる人はその分金額が下がるみたいな仕組みもあるんじゃないかなと。

石原:どんな人が滞在するかということと料金は関係してきますよね。ここは滞在する人が一緒に作っていく場所だと思うので、それを含めた制度と料金設定が必要になりそう。

尾藤:あと、やっぱり学生だと収入があるわけではないので、その辺りは難しいところがありますね。そういう意味でも、期間限定の学生プランみたいなのがあるとすごくありがたいなという気持ちはあります。

緩く互いの接点が生まれる場へ

ー皆さんの残りの滞在期間中に旧藝大寮でやってみたいことってありますか?

葛西:やっぱりお別れパーティーをやりたいです。

山際:初めましてでさようなら、みたいな会になりそうだね(笑)。

石原:「藝大寮最後の夜」、再演しますか。リアル最後の夜。

山際:廃材とかでセット作って。そういうのもできそうですね。

葛西:僕らの展示で使ったLEDバーを照明にしたりして(笑)。

石原:私はここでミュージックビデオを撮った自分のユニットのライブもやりたいんですよね。

尾藤:じゃあ僕は音響やります。

山際:こういうクリエイターやアーティストが集まる場があれば、すぐ「じゃあ僕やります」みたいな話になるんですよね。

尾藤:今の感じ、すごく良いですよね。旧藝大寮自体がまるっとこういう雰囲気になっていったら面白いなと思いますね。

*1 アーティストの冬眠 
アーティストに春までの英気を養うために”冬眠”の機会を提供することをテーマに信州で行われているレジデンスプログラム。https://www.facebook.com/artist.in.hibernation/

​​*2 PARADISE AIR 
松戸駅前に位置するアーティスト・イン・レジデンス。国内外から多数のアーティストを受け入れ、制作活動を支援する。旧藝大寮プロジェクトには、イベント企画・参加アーティストの紹介を中心に携わっている。https://www.paradiseair.info/

*3 たいけん美じゅつ場 VIVA 
取手で行われている「取手アートプロジェクト」内のコンテンツの1つとして、JR取手駅構内に設けられたスペース。ライブラリや工作室のほか、講座やワークショップなども行われている。https://www.viva-toride.com/

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実際に旧藝大寮に滞在した方からリアルな声を聞くことができた今回のインタビュー。

インタビュー終了後も、「こんなことお願いできたりする?」「これやってみたいですね」と話に花が咲き続けた今回の座談会の皆さんの様子が、これからのこの場所の空気を表しているように感じられました。

そして今回のインタビューを通じて、場の使い手の視点から見た旧藝大寮の可能性、そして創作の場として建物を利活用していく上でのポイントとして、以下のようなことが見えてきました。

○制作と居住空間が一体となった”元藝大の寮”としての強み
・共同の制作空間と個別の居住空間が同じ敷地内に存在する「元藝大の寮」という建物の性質によって、制作と居住の空間を程よい距離感で分けることができ、活動のクオリティを上げることができる
・広さ、高さのある制作空間が、より自由なスケールの作品を生み出す

○創作に取り組みやすい地域性
・材料の調達のしやすさや、クリエイターに理解のある人々の存在など、ものづくりに取り組みやすい環境がある
・「住宅地」という生活に近い地域に位置しており、芸術表現をするアーティストにとどまらず、農や食に関わるクリエイターやものづくりの職人など広いジャンルを受け入れられる可能性を持っている

○滞在者の活動の可能性を広げる接点づくり
・イベントの開催など、周辺地域と接続できる場を設けることが、滞在者の創作活動の幅を広げる
・イベント開催にあたっては、頻度を決めるなど、各滞在者の特性や制作環境を踏まえた設計が必要とされる

○多ジャンルのアーティストやクリエイターのコラボレーションを生み出す仕組み
・期間限定プログラムや、滞在テーマを絞ったプログラムにより、多様な属性・ジャンルの滞在者が集まる場とする
・滞在者同士のコラボレーションは、日常の自然なコミュニケーションから生まれる。そのための環境や運営の仕組みを設計することで、新たなクリエーションを生み出す

こうして見えてきた可能性について、滞在者だけでなく、地域や行政、関係する企業とともに体制づくりや事業性を含めて話し合っていくことが、この場所の次のステップになりそうです。

このインタビューの他にも、「旧 藝大寮活用プロジェクト」が持つ可能性について深める対談を行いました。その様子も追ってご紹介していきますので、どうぞお楽しみに。

文章・写真:原田恵

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