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61歳母、留学22日目。~変化~

3週間の語学学校を無事卒業、ホームステイの滞在も終えた母。
これから2週間はシドニー、ケアンズ、メルボルンと一人旅がはじまる。
まずはシドニーで4日間。
語学学校に通っているときは毎日慌ただしかったかもしれないが、これからは市内のホテルに滞在し、改めてシドニーでゆっくりできる時間だ。
 
シドニー散策の1日目。
「今日はどうしようかな。。ハーバーブリッジに行ってみよう!」
そう思い立ち、電車に乗った母。
 
シドニーのオペラハウスに並んで有名なハーバーブリッジ。
全長1000m以上の長い橋で、車道の横には歩道がある。
この橋を歩いて渡るのも一つの名物なのだ。
 
橋を渡りながら振り返ってシドニーの町を見てみると
この3週間の思い出が蘇ってくる。
毎日この景色を見ながら通った学校、
シドニーに着いた最初の頃、迷い不安だった自分、、
こうして見てみると、この日は景色が違って見えたそう。
3週間という時間が心を軽くしてくれた。
辛さや苦しさで泣くことはもうなくなった。。
必死だった3週間を終えて
母の気持ちが変わり始めたようだった。
 
・・・
 
実は今からちょうど10年前、私も母と同じくシドニーに滞在していた。
当時20歳。初めての海外長期滞在。一人渡航。語学学校。ホームステイ。英語はほとんど喋れない。
母と同じ環境に置かれていたので、話を聞いていると共感できることがたくさんある。
その一方で、20代の私と60代の母が経験することは全く異なるんだなと思い知らされる。
どんなふうに感じるか、どんな人に巡り逢うか。。。
同じ場所にいても、人それぞれ、こんなに違うんだな、、と実感させられる。
 
母は出会う人の多くに「この歳で留学とは、勇気ありますね・・・!」と言葉をかけられるらしい。
「いえいえ、、全然英語も喋れないのに来てしまって・・・。毎日苦労の連続なんです。。」と答える母。
それでも61歳で異国の地に飛び込んでいる姿を見て驚かれるようだ。
 
この話を聞いて、私が今までに出会った、ある人のことを思い出した。
少し私の話になるけれど、、、
 
その方は私がバックパッカーで一人旅しているときに出会った女性。
今から7年前に中央アジアのキルギスを旅しているとき、ゲストハウスの相部屋で出会った。
どこから来たのか聞いてみると、カナダ出身とのこと。
彼女はフランス系なので英語はあまり得意ではなく、簡単な英会話ができる程度だったが、話を聞いてみると長く旅をされている方だった。
 
私も今まで色んな旅人に出会ってきたのだが、この方は他の旅人とはひとつ違うところがあった。

それは、かなりお年を召されている方だったこと。
 
見た目は小柄なおばあちゃん。
優しくて穏やかな話し方。
決してハキハキしているような雰囲気ではなく、柔らかい物腰の方。
しかし、見た目とは違ってとても体力のある方で、私は3日ほど彼女と一緒に行動したのだが、キルギスの田舎にホームステイしたり、馬のトレッキングをして山を散策したり、滝を見にいくツアーに参加したりした。
 
私とはかなり歳が離れていたけれど、すごく居心地が良かった。
 
旅の最中、彼女と色んな話をした。
旦那さんを数年前に亡くしてからは一人で旅に出ているそうで、一年のうち半年はカナダの家に帰り、半年はゆっくり世界を旅しているとのこと。
ホテルに泊まるような旅行ではなく、バック一つで身軽にゲストハウスに泊まりながら、地元の文化や自然に触れるのが好きなのだという。
 
ただ、私は彼女と一緒に旅をしていてずっと疑問に思っていた。
何歳なんだろう・・・?と。
彼女の見た目では歳がよく分からない。。
歳を聞きたいと思っていたが、なんとなく聞くタイミングを失ってしまった。
 
すると、ちょうど彼女のパスポートをちらっと見る機会があった。
めくられた顔写真のページに書かれた生年月日。
そこに書いてあった数字を見て驚いた時のことは一生忘れられない。
 
え・・・? 75歳・・・?

私は自分の計算が間違っているのかと何度も疑った。笑
しかし間違いではなかった。
 
私は75歳でバックパッカーの旅をしている女性に出会ったのだった。
 
衝撃的だった。
 
自分が知っている75歳のイメージと大きくかけ離れていた・・・

75歳だから、
年を取ってるから、
危ないから、
自分にはできない、やらない、、
 
そんな世間一般が思ってしまいそうな考えは、この方には一切感じられなかった。

自分の好奇心に素直に従い、
世界の見たことのないもの、
触れたことのない経験をしてみたい。

単純な好奇心だけが彼女の行動を突き動かしていた。
 
「世界の色んな場所を見てみたいと思ってるの」
キルギスのローカルバスに揺られながら、彼女はそうつぶやいた。
 
身軽に旅すること、好奇心に素直に行動すること・・・
今までに出会ってきた旅人の中で、一番印象に残っている人。
当時20代前半だった私にとって、彼女との出会いは自分の考え方に大きく影響を与えてくれた。
 
自分がこれから先、50年の歳を重ねたとき、
こんな純粋な気持ちをもっていられるだろうか?

~だからやめよう、~だからしないほうがいい、
そんなちっぽけな言い訳で自分の行動を制限する必要なんてないんだ・・・

やりたいことを、やってみよう
ただそれだけでいいんだ・・・
 
正直、この75歳の女性の出会いがあったからこそ、私は母に留学を勧めることができたのかもしれない。

もし、20代の時の私が60代の母のような人に出会ったら、、
同じような驚きを抱いただろうか?
 
私自身、このオーストラリア留学を母に勧めた張本人ではあるが
この留学をきっかけに母に一人旅に行けるような人になってほしいと思っているわけでもなく、
英語が喋れるようになってほしいとも思ってはいない。
この1か月を通じて期待している帰着点はない。
 
ただ、やってみたいという母の気持ちを少しでも応援できたら、という気持ち。
そして、母にどんな変化があるのか見てみたい、という好奇心。
今まで日本で平凡に暮らしていた61歳の人間がいきなり異国の地に飛び込んで生活したらどんな化学反応を起こすのか?
この経験を通じて、日本に帰ったとき、世界がどんなふうに見えるようになっているのか?
その価値観の変化を聞きたい。
ある意味、壮大な人体実験をしている。笑
 
と、、今回は私の話を書かせてもらったのだけれど、、
母の留学を通じて、過去の自分を振り返るきっかけをもらっているように思う。
今までの旅行記は書き貯めているのだけど、なかなか人に伝えることもなく、心の中にしまって忘れかけていた。
しかし記憶の宝箱を開けてみると、色あせていない気持ちが蘇ってくる。
その時に感じたことをまた追体験できるような、そんなきっかけをもらっているような気がする。
 
さて、これから2週間、母はシドニーからケアンズ、メルボルンへ一人旅に出発する。
母にとって、どんな出会いがあるだろう?

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