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ピンク色の虎と暮らす

ピンクタイガーアイという石を買った。腕につけられるようになっているタイプのものである。この周り口説い言い方は、「数珠」と言いたくない僕の精一杯の抵抗である。

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以前、仕事運や金運が欲しい時に普通の虎目石を買ったのだが、見るからにエネルギーが強かったその石は、つけると仕事場ではハキハキシャキシャキ動くことが出来たが、その分人が離れて行ったと感じた。いつもにこやかに接してくれる人たちが誰も来てくれないのだ。一度つけて、外して、またつけると同じ。何度か試した結果、やっぱり虎目石をつけている時は「強気で動けるけど人が離れていく」と感じる状況になった。この結果を踏まえて僕が出した結論は、「虎目石をつけると強気で仕事ができるので、確かに金運と仕事運はあがるのだろうけど、強すぎて人が寄って来ない」そういうものだった。ただ、虎目石が悪いというわけではなく、僕と虎目石の相性が悪いだけなのだ。僕が弱すぎて虎に喰われてしまうのか、あるいは僕の行きたい場所と虎が行きたい場所が違うのか。

とにかく僕にはこの虎を扱うことができなかったのだ。虎使いにはなれなかった。

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そう思っていたので、幾ら虎目石が美しく輝いていようが僕はもう2度と手に取ることはしていなかった。だけど先日、別の石を探していて入ったお店にピンク色の虎目石があったのだ。もちろん、ピンクタイガーアイという石の存在は知っていた。けれど僕は、虎目石はどんなものであろうと、もう手に取らないことを決めていたのだ。

だけど、僕の頭にふとあることが閃く。「虎目石をつけていれば人が寄ってこないのだったら、これをつけて出かければ、街の人たちは皆んな僕を避けるようになるから、快適になるのではないか?」と。

前に持っていたのは茶色の方だったけど、ピンクのものなら少しは強さも和らぐのではないか、と。何よりこのピンク色はあめちゃん的なピンク色だ。

僕はその石を買って帰ることにした。

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ピンクのトラはとてもよく働いてくれた。まるで番犬のよう。いや、番虎。人混みで人がぶつかりそうになると、あちらから避けてくれるし遠くからでも気づいて避けて道を開けてくれる。店や街で嫌な思いをすることが格段に減った。

が、そんな僕はすごく嫌な感じの雰囲気になっているのではないか?トゲトゲしくて近寄り難いから、みんな避けてくれるのではないか。と少し不安になったので、仲の良い人に聞いてみたら「いつもと何も変わらないけど、何だかラクそうだね」と言われた。そうなんだ、楽なんだよ。と言うわけで対人関係も何の問題もなさそうだったので、僕はこのピンクの虎を連れ歩くことに決めた。

仕事でお客さんと話す時も、いつもより元気にノリよく、相手にビビりすぎず話せるようになった気がする。そうなると仕事も楽だ。

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虎は僕を守ってくれているんだと思った。

初めに虎目石を持っていたあの頃の僕は、大層自己評価が低くてその結果、周りの人にもぞんざいに扱われることが多かった。そんな環境にいた時、僕が急に強そうになって近づいてこなくなった人たちは、僕にとって本当は必要のない人間関係だったのだろう。僕が自分より弱そうだから接触していたのに、急に自分と同等あるいは強そうに感じたものだから無用に近寄らなくなったのだ。そんな人間関係なら、本来は必要ないはずだ。

ピンク色の虎目石は、僕にとって必要のない人には牙を剥き、必要な人の前では大人しくしている。

僕はこのトラたちは、強すぎて力が制御できず、怖い存在だと思っていた。けれど今は違うとわかる。トラたちはとてもやさしく僕のために寄り添ってくれていたのだ。

トラのおかげであめちゃんは気を張っていなくても、「女王様」で いられる。逞しい体にならなくても、みんなが先に避けてくれるような女王様。そんなわけで、鮮やかなピンク色も合間って、このピンクタイガーアイは僕とあめちゃんにとって「女王様の石」でもある。

少し怖かったけど、とても優しいピンク色のトラが僕たちの新しい友達になった。



(2021年7月16日)

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