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【漫画評】諸星大二郎自選短編集

ときに異端と評される諸星大二郎の作品には、独特の画風もさることながら、他の作家にはない「世界観」がある。本書に収録された諸作品も「諸星ワールド」が全快だ。

物語の舞台設定は「古代・神話モノ」から「近未来・惑星モノ」など実に多様。ただ、本作に限らずどの諸星作品にも共通しているテーマがある。

それは、人間が理性で把握できる世界には限界があり、そのすぐ向こう側では「人智を超えたものの力」がつねに働いているということ。こちらとあちら、このふたつの世界をいかにつなぐのかが、作者の腕の見せ所であり、他のホラー作家やSF作家では容易に真似できないところだ。

現代人がとっくに塞いだ(つもりになっている)「隠れた通路」を、作者はいたるところに発見し、あらためて辿り直す。そしてまた、ここではない何処かへとつなぎ直そうとする。それが、読者の心の奥底に潜む「不気味なもの」への感性を呼び覚ますのだ。

古代から人類が感じ取ってきた「人智を超えた大いなる力」を、カタチにして表現すること。折口信夫のいうように、それが「藝術の本義」であるとするならば、諸星大二郎は異端どころか本流の「藝術家」なのかもしれない。


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