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地方短歌大会を楽しむ


金沢駅10時

 ぎりぎりである。しらさぎ51号の金沢駅到着が10時5分、通知されていた会場への送迎バスの発車が10時15分。新幹線開通後はじめて降り立った見知らぬ駅を、早朝から4時間弱も鉄道に揺られかたまった身体で、オレンジ色の服を着た案内人の指示ボードに従って早足で歩く。小雨の降るなか数台の観光バスのなかから「いしかわ百万石文化祭歌人大会」と掲げられた観光バスを見つけ、乗車する。歌人大会? バスは10時17分に発車した。
 11月19日(日)、いしかわ百万石文化祭2023短歌大会が西田幾多郎記念哲学館で開催された。

きのくに短歌の祭典

 私の短歌大会投稿時代はほぼコロナ禍と重なるため地方短歌大会への参加は数回しかない。そのなかでも2021年きのくに短歌の祭典で、私は地方短歌大会に魅了された。
 表彰式のあと選者の選評があった。とにかく選者のみなさん、持ち時間を守らない。そのため時間が押す。選評より残り時間の方が気になってくる。会場はざわつく。受賞者席の前列が県歌壇の重鎮席である。当初の予定では登壇して選評を話すはずだったのに大会直前で外来選者優先のため役を下ろされた県歌壇の重鎮たちが、ざわつきに乗じて不満をおしゃべりしはじめる。受賞者は選評よりそのおしゃべりの内容が気になる、といった具合だった。こういうわちゃわちゃ、好きだな、と思った。
 きのくに短歌の祭典で偶然にも私は地方短歌大会の内幕を味わえた。無賃の奉仕者によって支えられている、かなりいい塩梅な共同体がそこにある。そして、地方歌壇からそういったものが失われてはならないと確信した。失わせないためには、知らないとならない。

大会案内

 2022年の美ら海おきなわ文化祭では管見の限り短歌大会はなかった。その翌年のいしかわ百万石文化祭は短歌大会の募集があった。5月中旬に応募して、三井修選者賞の通知を受け取ったのは10月2日である。行くかどうか迷ったけれど何事も経験だと「出席」に◯をつけ投函した。路銀は各所へ頭を下げればなんとかなる。
 通知には「※2週間ほど前には大会当日の詳しいスケジュール表を送ります」と書いてある。でも11月6日になってもそれは届かない。11月13日にも届かない。気になったので、メールをした。返信は「業務がかさみご案内の送付が遅れている」とのこと。事務局の方から詳細のPDFをメール添付でいただき、石川県歌人協会の方から丁寧な電話をいただいた。金沢駅の歩き方も分かった。

いしかわ百万石文化祭2023短歌大会

 冬の雨の降るかな、かほく市の西田幾多郎記念哲学館へ観光バスは着いた。近くには日本海が横たわり、内灘闘争で高名な内灘もある。コンクリート剥き出しな記念哲学館のホールは熱気であふれんばかり。詩吟とあいさつのあと、まず、永田和宏さんによる湯川秀樹・河上肇・西田幾多郎の短歌についての講演を聴いた。肉眼で永田和宏さんを見るのははじめてだった。2週間後の朝日歌壇についてのサプライズを聴いた。

講師の永田和宏さん

 昼飯のあとは2階の喫茶テオリアでぜんざいを食べた。午後の総評&選評は輪島太鼓の演奏からはじまった。選評はひとり5分の持ち時間であったけれど当然それでとどまるはずはなく、私は手に汗を握った。しかも会場の入賞者・入選者・一般参加者に配布されたのは入賞作品が印字されたペーパーだけであり、秀逸・入選も掲載されていた冊子は配布されていない。午前には想定した数の冊子が記念哲学館になかったようで配布されなかったのだ。しかし選者はその秀逸・入選の歌への選評も話しはじめ、歌が手元にない会場はざわついた。そして一般の部だけで持ち時間の5分を使ってしまう選者もいて、私は手に汗を握った。それだけで地方短歌大会を十分に堪能できた。
 ただ、鈴木英子さんの選評が聴きやすく要点もまとまっていて時間丁度だった。きのくに短歌の祭典での林和清さんの選評を思い出させた。

空の庭

 会は賞状授与も含めて時間通りに進み閉会した。これは進行役など実行委員会のみなさんのご尽力の賜物だろう。帰りには受付で秀逸・入選の歌も載った冊子をちゃんともらえた。観光バスで記念哲学館をあとにし、金沢駅へ向かった。

三井修選者賞

 実行委員会や参加者のみなさん、お疲れ様でした。大会の運営について勉強させていただいたし、明日への活力をいただきました。

この星に水があるのは悲しみをうすめ流してわかちあうため 甲太郎

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