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NUMBER GIRLの解散に寄せて

12月11日(日)をもって、NUMBER GIRLというバンドが解散した。

1.私にとってのNUMBER GIRL

私はNUMBER GIRLというバンドが好きだ。好きになったきっかけは全く覚えていない。が、何を言ってるか聞き取れない(歌詞をちゃんと読んでも意味はわからない)変な歌詞と、爆音轟音で耳が痛くなるような音に夢中になった。
代表曲「透明少女」のMVに突如出てくる「ギターによる焦燥音楽、それ、すなわち、ROCK」というフレーズは、まさにこのバンドの音楽性を表している。このフレーズを考えたのはおそらくギターヴォーカルの向井秀徳だろうが、こういう印象に残り、かつ誰も発したことのない言葉を作るのが本当にうまい。見た目はよくいるメガネをかけたおじさんなのに、芸術センスが光る天才だ。
幸運なことに周りの友人にもNUMBER GIRL好きが多く、再結成した後にバンドで「透明少女」をコピーしたり、何度かライブに行ったりした。
また、とあるバーで「向井秀徳NIGHT」が開催されることになり、職場の先輩に連れて行ってもらったこともあった。向井秀徳が好きともなるとやはり音楽に詳しい方が多く、とても楽しかったのを覚えている。
こうしてNUMBER GIRLは私の音楽人生に無くてはならない存在となっていったのである。

2.解散ライブへ

私はそんなNUMBER GIRLの解散ライブ「無常の日」に行ってきた。今年2022年8月14日(日)のライジングサンにおける解散発表直後、どんな手を使ってでも行くと誓った解散ライブ。解散する最後の瞬間までを全て目に焼き付ける、もうそれはファンとしての義務だった。
解散ライブというものに行くのは初めてで、一体どんなライブになるのか想像もつかなかった。
端的に言うと、見事な解散だった。潔く、爽やかな最後だった。仲違いや年齢による衰えではない、全てをやり切ったとしか思えない解散である。
3時間近い熱演の中、不思議と涙は出なかった。むしろ解散発表をライジングサンでのライブ中に聞いたときのほうがひどく泣いた。きっと今回のライブで解散するという覚悟が自分の中でできていたから泣かずに済んだのではないかと思う。今思うと、ライブの最初から最後まで一度も途切れることなくNUMBER GIRLの最後の姿を見ることができてよかった。

ライブでは31曲を3時間近くに渡って演奏してくれたた。
バンドの代表曲で今回なんと4回も演奏した「透明少女」、「ドラムス、アヒトイナザワ!」の口上と手数の多いドラムソロから始まる定番曲「omoide in my head」、イントロで中尾憲太郎の直線的なベースが体に重くのしかかる「鉄風 鋭くなって」、向井秀徳の魂の叫びが響く「I don't know」、「みんなで踊ろうチビッコサンバ」でおなじみ「CIBICCOさん」など、どれもこれも名曲ばかりの解散ライブだった。

3.どうしても個別に書いておきたい曲

(1)TATTOOあり

そんな名曲だらけのライブのハイライトは、「TATTOOあり」だろう。個人的にライブで最も聴きたい曲でもあった。ライブ終盤にイントロが流れた瞬間の盛り上がりときたらこの日1番のものだった。絶対そうだった。その怪しげなギターの音を待ちわびたファンの悲鳴にも似たものすごい歓声がアリーナ中に響き渡った。
この曲は、田渕ひさ子のアウトロのギターソロが見せ場だ。暴れるギターを押さえつけるように、その一方で何かに取り憑かれたかのようにギターを弾く姿、まさにロックギタリストとはこういうものだと見せつけるようだった。田渕ひさ子はほかにも様々な見せ場を持っているが、「TATTOOあり」のギターを弾くために生まれてきた、そう思わせるくらいこの曲のギタープレイは神がかっていた。
ちなみに、このとんでもない演奏がもう聴けなくなるのかと思うと悲しくなり、一瞬泣きそうになったがなんとか堪えた。

(2)NUM-AMI-DABUTZ

まだまだ聴きたい曲があった。後期の傑作「NUM-AMI-DABUTZ」、この曲は最初から最後までかっこいいのだ。本当に好きな曲だ。どれくらい好きかと言うと、会場にあったデジタルメッセージウォールに「ナムアミダブツ」と書くくらいだ。恐らく、宗教関係者以外で日々「ナムアミダブツ」と発するのはNUMBER GIRLのファンくらいしかいないだろう。

赤字でバッチリ「ナムアミダブツ」と書いた


この曲は曲紹介からかっこいい。今回は「今売り出し中の若手バンドを紹介いたしましょう。NUM-AMI-DABUTZの登場だ!」だった。自慢ではないが、「若手バンドを紹介」と言った時点で私はこの曲だと確信していた。ちなみに、ほかのライブだと「ショーパブ上がりの実力派、NUM-AMI-DABUTZの登場だ!」とか「さあ、今年度のモストビューティフルブッディスト、栄光に輝きましたのは、NUM-AMI-DABUTZです!」になる。最高に意味のわからない曲紹介だ。
さて、アヒトイナザワの「ナム・アミ・ダブ・ツ」のカウントから始まるイントロがこれまた不思議な音でかっこいい。一緒にライブに行く友人と会うとその度になぜかこの曲のイントロを歌って爆笑している。傍から見れば変人極まりないが、我々はこの曲のイントロが持つ中毒性の虜なのだ。
そして最初の歌詞「現代。冷凍都市に住む 妄想人類諸君に告ぐ」から早速向井秀徳の世界観が爆発している。解散前にスッキリに出たときに歌詞付きで紹介されていたが、果たして歌詞があったところで意味がわかるのか…!?と思わざるを得なかった。しかし、そんなことがどうでもよくなるくらいかっこいいのだ。意味わからないけどかっこいい、ロックとはそういうものだと信じている。
この曲が終わったとき、向井秀徳が「早っ!」とセルフツッコミをしていた。この曲はテンポが早くなるくらいかっこいい曲なのだ。

(3)Iggy Pop fan Club

そして、20年前の1度目の解散ライブで最後に演奏された「Iggy Pop fan Club」。今回も終盤で演奏された。
この曲を解散発表したライジングサンで聴いたときにはボロ泣きしてまともに聴けず後悔していたので、今回はちゃんと聴くことができてよかった。
今回一緒に見に行った友人が1番好きなラブソングは「Iggy Pop fan Club」だと言っていた。エモいという言葉が生まれる前からエモいラブソングだ。
「あの曲を いま聞いてる 忘れてた 君の顔のりんかくを一寸 思い出したりしてみた」の部分は歌詞メロディ共に切なく、その後の叫ぶような「思い出してる」の一連の流れが完璧なのだ。この一連の流れはやはり生で聴くに限る。

4.声出しについて

再結成後のNUMBER GIRLの活動期間の大半は声出しができない状況だった。今回はマスク着用の上で声出しができた。最後の最後に声出しが間に合って本当によかったと思う。
「解散しないでくれ〜」とか「ひさ子さーん」とか「1億円あげるから!」といった歓声(野次?)を出したわけではないが、「omoide in my head」のイントロで「オイ!」と叫んだり、「透明少女」や「日常に生きる少女」のイントロで「1,2,3,4」とカウントすることができ、バンドだけでなく周りのお客さんとの一体感を感じることができた。最後のライブだからか、会場全体で声もかなり大きく聞こえた(はず)。
ちなみに、1回目の解散ライブをした札幌ペニーレーンのキャパ約500人に比べて、今回のぴあアリーナMMのキャパは約12,000人、たしかに声も大きく聞こえるはずだ。それに、こんなにもNUMBER GIRLが好きな人がいるのだとうれしくなった。
そして何より完全に後追いの人間としては、解散前のライブアルバムに収録されたこういった叫びやカウントを、自分も一緒にできたことがうれしかった。
きっと今後発売される映像作品にもこの声は収録される。NUMBER GIRLの歴史に一瞬でも自分が刻み込まれたのだ。

(公式の映像ではないけれど、20年前のラストライブでの「omoide in my head」の「オイ!」の観客の声が1番大きいと思うのでこの曲の前の名MCと併せてぜひ聴いてほしい。)

5.ライブタイトル「無常の日」

今回のライブのタイトルは「無常の日」。向井秀徳はライジングサンでの解散発表で「諸行は無常である」と言っていた。そう、どんなものにも永遠はないのである。今日存在しているものが明日急に無くなるかもしれない。
だからこそ、平凡のように思えてしまう日々を、何気ない一瞬一瞬を大切に生きろと向井秀徳に言われた気がしてならない(本人はそんなこと思っていないと思うが)。
ちなみに向井秀徳本人はライブ後に以下のようなツイートをしている。

(ビロリンマンとは、向井秀徳がライブ中おもむろに取り出し、ほかのメンバーが一糸乱れぬ演奏している中、ひとりで手足を伸ばして遊んでいた人形である。今日解散ライブだよ!!!と誰しもがツッコんだ瞬間である。)

6.NUMBER GIRLは無常の旅に出た

とにもかくにも、NUMBER GIRLは解散し、4人はそれぞれの活動に戻った。解散ライブでメンバーが今後の予定を言っていた光景は解散ライブらしくない物珍しいものだった。
向井秀徳は再結成の目的を金(とライジングサンに出ること)だと言っていた。これはきっと本当にそうなのだろう。
また、向井秀徳がよく言う「繰り返される諸行無常」という言葉がある。これはつまり裏を返せば解散という状況ですらいつまで続くかはわからないとも考えられる。そう、あくまでNUMBER GIRLは「無常の日」を境に私たちの前から姿を消しただけなのだ。言うなれば、無常への旅に出たようなものだ。
だから、無常の旅を終え、また稼ぎてえと思ったら、いつでも福岡市博多区からやってきてほしい。「ギターによる焦燥音楽、それ、すなわち、ROCK」に魅了された人間として、そのときをいつまでも待っている。そしてその頃には、真の目的である金稼ぎにもっと貢献できるような財力を手にしていることを心から願う。

7.(追記)透明少女とは

(ライブ本編とは関係ないので追記)
なんと今回4回も演奏したNUMBER GIRLの代表曲、「透明少女」は個人的に思い入れのある曲だ。単純に好きな曲とはまた別のものである。
この曲はギターヴォーカル向井秀徳の「あの娘は透明少女」という口上から間もなくギター田渕ひさ子の激しくも爽やかなギターが鳴り響き、その後ドラムスアヒトイナザワの「1,2,3,4」のカウントと共にベース中尾憲太郎の力強いベースが加わり、バンドの演奏が始まる。
さて、なぜ思い入れがあるかというと、ドラマーとして初めてステージに立ったときにバンドで演奏し、そのときのある光景が今でも忘れられないからである。
ドラマーの私は前述のようにやはりイントロでカウントをするのだが、そのときにメンバーがドラムの方を向く。そう、まさにそのときのメンバーの楽しそうな顔が忘れられないのだ。その初ライブ以降、いろいろな曲を演奏をしてきたが、そのときの顔ほど輝いているものはない。この曲の持つキラキラさ・爽やかさに負けないような素敵な顔をみんなしているのである。
下手くそでも、ド緊張していても、この瞬間は誰しもがバンドを、音楽を楽しんでいる。もちろん自分もいい顔をしているのだろう。普段メンバーの顔を見ることのないドラマーだからこそ余計に印象深いのかもしれない。そのときのことは今でも当時のように思い出すことができる。
ただひとつ言えるのは、ドラムを始めたばかりの人間がやる曲ではなかった。アヒトイナザワの手数の多い暴れ馬のようなドラムプレイを初心者がコピーするのはあまりに無謀だった。でも楽しかったことは間違いない。
この曲はバンドをやっている人間、そして聴いている人間をも輝かせる、とてつもないパワーを秘めている。「透明少女」とはそういう曲なのだ。
今回の解散ライブの最後の最後の曲は誰もが予想していたようにやはり「透明少女」だった(4回も演奏するとは誰も予想できなかったと思うが)。きっと最後の最後は全員を笑顔で終わらせるために。
ところで結局、透明少女とは一体誰なのだろうか。謎は解明されていない。そういえば、向井秀徳は2021年に開催された「MATSURI SESSION」での「透明少女」の口上で、「もし透明少女に会ったら伝えてくれ。必ず迎えに行くって」と言っていた。
そうだ、NUMBER GIRLはまだ見ぬ透明少女を迎えに無常の旅に出かけた、そういうことにしておこう。

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