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【アニメを観よう】平成アニメ20選・後編

引き続き後編では平成後期の15年,すなわち2004年から2019年4月までの作品から10タイトルを選びます.作品のバラエティが多く,絞るのが大変でした(選考基準(らしきもの)は前編に).


1.2004〜2008年

(1)『蟲師』(2005)

©漆原友紀/講談社・アニプレックス

後編トップバッターは『蟲師』です.原作は漆原友紀さんの同名漫画.舞台は江戸〜明治期の架空の日本とのこと.主人公である蟲師のギンコが旅の道中で出会う人と蟲との物語.基本的に1話完結で回が重ねられていくシリーズ.

作品における「蟲」とは昆虫のことではなく,通常人には見ることのできないという点ではあやかしに近い存在です.もっとも,妖と異なり蟲は生き物で,生命の源のようなものといわれています.これを見ることができ,蟲の知識を活かし生業とする者が「蟲師」.

本作の魅力はヒューマンドラマ要素が至高であること.よく目にする珠玉のエピソードの数々とはまさに本作にふさわしい文句でしょう.個人的には実の息子をどうしても愛せない母親のエピソードなどが印象に残っています(2期『続章』第十八話「雷の袂」.同第14話「残り紅」もいいですね).

また絵が美しいです.背景含め全て手書きによるもの.派手なアクションは皆無ですがキャラや虫にはしっかり動きがついており粘り気のある作画がとても映えます.落ち着いた環境でじっくり観たい作品です.

エヴァ声優からは,伊瀬茉莉也さん,沢城みゆきさん,岩男潤子さん,坂本真綾さんらがゲスト参加されています.

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(2)『BLACK LAGOON』(2006)

©2006,2010 広江礼威・小学館/BLACK LAGOON製作委員会

続いて『ブラックラグーン』.原作は広江礼威さんの同名漫画です.タンクトップ姉さんが銃を撃ちまくるクライムアクション.舞台は世界の裏社会が密集するロアナプラというタイの架空の都市.そこに事務所を設ける何でも屋「ラグーン商会」が,請け負った仕事ついでに事件に巻き込まれていきます.3期計29話.

派手なガンアクションと癖のあるキャラクターたちの粋な掛け合いが魅力です.今回のリストの中で唯一の暴力アニメで,想像より過激だったので苦手な方はご注意ください.

クライムものは得意なジャンルではないのですが,それでも第1話で「見れるぞ」という感触があり,おしゃれなED曲が流れて確信になりつつあったところにクレジットで驚きました.筆者には予想外のお名前を見つけたからです.

それは片渕須直さん.本作には監督・シリーズ構成・脚本,ときに絵コンテ・演出で関わっています.少しこの方について触れます[末尾註1].

片渕さんは1960年生まれで庵野秀明さんと同世代です.前回紹介した『GUNSLINGER GIRL』(2003)にも第5・6話で絵コンテで参加していました.これだけだと拳銃撃つアニメを作る人という印象かもしれませんが,なんといっても彼の代表作は『この世界の片隅に』(2016)です[註2].これは大戦中広島で暮らす人々を描いた作品で,観てない方には履修義務が直ちに発生する名作です.

そもそも彼は『母をたずねて三千里』(1976.高畑勲監督)といった「世界名作劇場」のような作品を作りたいと話されています(小黒祐一郎『アニメクリエイター・インタビューズ』(講談社,2011年)).実際に彼は同シリーズの『名犬ラッシー』(1996)で監督を務めることになります.

アニメ業界では絶滅危惧種は言い過ぎでも貴重な存在だと思います.これで筆者が驚いたのもお分かりいただけるでしょう.まさか犯罪・暴力の『ラグーン』で日常の機微に関心のある同氏をお見かけするとは思わなかったわけです.

『ガンスリ』『ラグーン』とも当時所属していたマッドハウスが制作していた関係で回ってきた仕事だと推察しますが,この作品間のギャップ.とはいえこのギャップ補正を差し引いても『ラグーン』はおもしろいし,何よりしっかりしています.これまで紹介してきた,あるいはこれから紹介する作品同様,基本的に謎に思えたり残念なカットがありません(あったとしても編集等で上手く目立たないようにしている).

ついでに紹介したい劇場版作品があります.前回,劇場版は宣伝に力が入っているし金ローあるからリストに加えないと断りましたが,一応「本作品は、30数館という小規模で公開され宣伝もほとんど行われなかった」(Wikipediaより)ので例外として(!)取り上げます.

『マイマイ新子と千年の魔法』(2009)

© 髙樹のぶ子・マガジンハウス/「マイマイ新子」製作委員会

原作は高樹のぶ子さんの自伝的小説『マイマイ新子』(2003年連載開始)です.昭和30年頃の山口県防府を舞台にした名作劇場感漂う作品です.普通に遊んでいる子どもたちがすごく楽しそうなのですが,どうしてそのように描けるのか.片渕さんの力量が存分に発揮されています.劇中何度もハッとさせられました.

この作品が評価されたことが『片隅』につながりました.そして『片隅』制作のためにスタジオMAPPAが設立されます.こうした経緯を踏まえると片渕さんにとって『マイマイ新子』は転機となる作品だったといえます.

MAPPAといえば最近少年ジャンプ原作を立て続けに手がけて快進撃中の制作会社でご存知の方も多いはず.元々は『片隅』ひいてはそれを作る片渕さんのための会社だったことは知っておきたいところ.

というわけで『ラグーン』と合わせて『マイマイ新子』もチェックし,そのギャップに驚きつつ異なる毛色の作品をしっかりものにする監督の手腕を讃えましょう.

ラグーン公式サイトはこちら



(3)『電脳コイル』(2007)

©磯光雄/徳間書店・電脳コイル製作委員会

次は『コイル』です.前回紹介した『ポケ戦』で名前の挙がった磯光雄さんの初監督作品,にして傑作です.バケモノアニメーターは監督やらせてもすごかった,という活躍ぶりはどうしても宮崎さんや庵野さんを彷彿とさせ,この方に期待している人は多いと思います(アニメーターとしての磯さんについては例えば前編の『ポケ戦』添付資料を参照されたい).

舞台は,電脳メガネというネットに接続していろいろ映すことのできるアイテムが普及して11年の近未来.メガネを通して表示される電脳空間,そこで使用する電脳アイテム,そしてハッキングを主とした電脳戦という魅力溢れる世界設定.小学校6年生の少年少女たちが最後の1年を駆け抜けます.少し先の未来アイテムという発想は10年後の世界を予想して作られた『パトレイバー』に近いものがあります.

ストーリーは主人公である2人の転校生,小此木優子(通称ヤサコ)と天沢勇子(通称イサコ)のうち,イサコが絡むメインストーリーと基本的に1話完結のドタバタエピソードとで進んでいきます.

ちなみにこの2人に前回紹介した『灰羽連盟』のラッカとレキの面影を感じるのは筆者だけではないはず….

基本的に話が抜群に面白いのですが,もう1つの魅力に電脳ペットなるものがあり,絶妙にダサいデザインに萌えます.願わくばグッズの再販….

そして監督がド級のアニメーターだからか,作画スタッフが豪華です.筆者は作画についてはわからないのですが,それでも井上俊之(敬称略以下同じ),本田雄,押山清高,板津匡覧という面々が常駐する体制は指摘せざるを得ません.そのお仕事の結晶体,原画集『電脳コイルビジュアルコレクション』(現在は復刊ドットコム発行)は今でも重版を重ね続けており,作画でも注目すべきことを物語っています.人が走るシーンなどは気持ちいいです.

なお,磯さんはこの作品のあと15年の時を経て『地球外少年少女』(2022)を発表したところです.前回紹介の『プラネテス』以来のガチンコ宇宙ものです.

コイル公式サイトはこちら



(4)『夏目友人帳』(2008)

次は『夏目友人帳』です.緑川ゆきさんの同名漫画が原作.某痛み止め薬じゃないですが『夏目友人帳』の半分はやさしさで出来ているといっても過言ではありません.

内容は,生まれつき霊力の強い主人公・夏目貴志が,祖母の遺品である「友人帳」をきっかけにあやかしと関わり合っていきます.人と妖の交差からこんなにもドラマが生まれるなんて知りませんでした.

基本的に1話完結.どの話も素敵なのですが,個人的には祖母夏目レイコが関わる回が好きかもしれません.上の画像奥のセーラー服の方が回想で見られる生前のお姿.

本作では声優にも触れるべきでしょう.夏目貴志役が神谷浩史さん.画像の狸猫,通称ニャンコ先生が井上和彦さんです.作品の世界観にこのお2人は欠かせない存在になっています.あと音楽も雰囲気にぴったりで素晴らしいです.

エヴァ声優からは石田彰さん,沢城みゆきさん,ゲストで清川元夢さんが参加されています.

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2.2009〜2018年

(5)『魔法少女まどか⭐︎マギカ』(2011)

©Magica Quartet/Aniplex

『まどマギ』は個人的に2010年代のベストアニメ.異論も少ないと思います.ここで取り上げるのが野暮に感じられるくらいですが念のため紹介させてください.本作は庵野秀明氏もどハマりしていちファンとしてコメントを寄せたりしています.押井さんも絵柄は好みではないといいつつ褒めてました(と記憶).

内容は魔法少女ものなので基本的には少女が敵と戦うお話です.これ以上は劇中に仕掛けがあるので触れない方がいいでしょう.予備知識のない方が絶対楽しいはずです.とにかく話の完成度が高いことと,梶浦由記さんの音楽が素晴らしいこと.

全12話.劇場版に編集&新規カットが追加された『[前編]始まりの物語/[後編]永遠の物語』(2012)があります.筆者は魔法少女の変身シーンが新しくなったこと,作画がブラッシュアップしたということで劇場版から観ました(その後TVシリーズ版も観た).

続編に『[新編]叛逆の物語』(2013),そして完成がいつになるかわからない『ワルキルプスの廻天』の制作が決定しています.

エヴァ声優からは,岩永哲哉さん,岩男潤子さんが参加されています.

さて,ここで監督の新房昭之さん×シャフトの作品を2つだけ紹介します.本来独立してリストに挙げたかったのですが漏れてしまった作品たちです.

『それでも町は廻っている』(2010)

まずは『それ町』.新房×シャフトでは他に『〈物語〉シリーズ』が有名ですが,かすりもしませんでした.が,この作品はそれらと作風が似ているのに楽しめました.日常コメディもので面白かったです.石黒正数さんの原作漫画が完結しており(連載2016年,単行本2017年),アニメの方も続編が期待されています.

『3月のライオン』(2016)

©羽海野チカ・白泉社/「3月のライオン」アニメ製作委員会

次は,羽海野チカさんの同名漫画を原作とし,実写化もされた『3月のライオン』.ヒューマンドラマ一色の作品.登場人物は棋士の方々とその関係者ですが,将棋の話は全くしないので知識ゼロでも観られます.

なにかと心が抉られる話が多いのですが,主人公が世話になる川本家(祖父と孫娘3姉妹で構成)が癒しをくれるので乗り切れます.誰かあかりとひなたを幸せにして…

エヴァ声優からは,石田彰さん,大塚明夫さん,立木文彦さんが参加されています.


(6)『シドニアの騎士』(2014)

© 弐瓶勉・講談社/東亜重工動画制作局

ロボットものから『シドニアの騎士』.パトレイバー以来2つ目です.原作は弐瓶勉さんの同名漫画.2シーズン(計24話)+劇場版『あいつむぐ星』(2021)で完結になります.1期総集編が劇場版となっておりこれからはじめてもいいかもしれません.

舞台は,謎の生命体「奇居子(ガウナ)」に地球が滅ぼされ,生き延びた人類が宇宙を漂流しています.物語は,巨大な宇宙船シドニアで地下暮らしをしている主人公・谷風長道ながてがはじめて地上に出たことと,100年ぶりのガウナ出現を機に始まります.

本作のロボは人型巨大装甲「衛人もりと」.フルCGの良さが存分に発揮され,メカシーンの映像は迫力もさることながら美しく,凄まじいものがあります.またガウナ戦もその都度異なるシナリオ,戦い方で全く飽きさせません.

さらに,世界観は作り込まれ情報密度が高いです.人の光合成やシドニア内部の設計など,凝った設定が随所に盛り込まれています.

そしてデザインも特徴的です.無機質なデザインとそれを際立たせるダメージ加工が斬新でした.あと音楽も素晴らしく,緊迫感の演出にかなり貢献しています.1期OPもパワフル(angelaさん).1期を劇場版で見た方は必ずTVシリーズのOP曲を履修しましょう.

エヴァ声優では子安武人さんと,大原さやかさんが参加.子安さんが子安しています.

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本作のついでに二瓶さんはもう1つアニメ化されているので紹介します.

『BLAME!』(2015)

©弐瓶勉,講談社/BLAM!製作委員会

こちらは彼の最初期の作品を映画化したものです.制作は『シドニア』に引き続きポリゴン・ピクチュアズでこちらもフルCGです.この制作会社は他に押井守作品『イノセンス』『スカイ・クロラ』のCG箇所を担当しています.

内容に関しては人類がテクノロジーに駆除される側に立たされるという,シドニア同様に逼迫した状況.映像やデザイン面で前作同様の良さがあります.

劇場映画サイズなので先にこちらを観てからシドニアを検討してもいいかもしれません.



(7)『僕だけがいない街』(2016)

©2016 三部けい/KADOKAWA/アニメ「僕街」製作委員会

次は『僕街』.今回初のミステリーサスペンスです.原作は三部けいさんの同名漫画.話が抜群に面白いです.全12話で,一気見間違いなし.

説明が難しいのですがミステリーサスペンスとしての見せ方が上手だと思いました.アニメのサスペンスものでは出色の出来といっていいはずです.

ミステリーものなのであまり内容に触れられないのが残念ですが後悔はさせません.

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(8)『刻刻』(2018)

© 堀尾省太・講談社/「刻刻」製作委員会

続いてこちらもミステリーサスペンス.原作は堀尾省太さんの同名漫画.ミステリーサスペンスとしては上と2トップです.こちらも全12話で一気見必須でしょう.面白いです.

主人公らはとある特異能力にまつわる事象に巻き込まれるのですが,まあこれ以上は触れられません.劇中で十分に説明があるので予備知識なしで十分に追えます.

とにかく『僕街』と合わせて2つとも見てください(圧).

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(9)『ひそねとまそたん』(2018)

© BONES・樋口真嗣・岡田麿里/「ひそねとまそたん」飛実団

次は『ひそまそ』.庵野作品でお馴染み,樋口真嗣さんのアニメ初監督作品です.ドラゴンが飛行機に変身(?)するという半ば発想勝ちの作品ではあります.こういうインパクトはさすが樋口さんという.

内容は変態飛翔生体,通称OTFと呼称されるドラゴンたちとその搭乗員たる主人公たちの物語.ドラゴンへの搭乗と降りる方法がまた斬新で,これは岡田さんの案だそうです(『公式設定資料集』(一迅社,2018年)).

基本的に話は日常コメディタッチで進むのですが,後半で突如不穏な方向に行き,どうしてそうなる樋口さんよ,となりつつも全体的に話のテンポがよくておもしろいです.

デザインもキャラも癖のある登場人物や無駄に豪華な声優陣にも注目です(下記公式サイトで確認のこと).

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(10)『SSSS. GRIDMAN』(2018)

Ⓒ円谷プロ Ⓒ2018 TRIGGER・雨宮哲/「GRIDMAN」製作委員会

平成も終わる頃,突如現れた老舗円谷の巨大ヒーローもの『SSSS. GRIDMAN』.Sの部分は読まないのが通例(らしい).

原作は特撮『電光超人グリッドマン』(1993)ですが,原作リメイクではなく新規キャラ・ストーリーで構成されています.作品の内容は仕掛けがあるので言わないでおきましょう.この仕掛けが世界観構築に関わり特に原作を知る者に刺さります.とりあえず毎回巨人が怪獣と取っ組み合いをしますとだけ.

放送当時から相当話題になったようで,大ヒットします.おかげで続編『SSSS. DYNAZENON』(2021)が生まれ,さらなる続編『グリッドマン ユニバース』が2023年3月に公開予定とのことで多くの人が首を長くして待っています(追記:最高でした!).

本作は原作が特撮とはいえ,アニメ的にはいわゆる90年代の「勇者シリーズ」を1つの泉源とするものとみて間違いないのですが,それがどうして今頃しかもこんなに人気になったのか.一定の世代に刺さっただけではこれほどの人気は説明できないように思います.

ここで分析するわけにはいかないので手短に本作の魅力を.まず,映像がかっこいい.グリッドマン周辺は多くがCGですが,今の技術だと巨人や怪獣がこういう映像になるんだという巨大感の表現に目新しさを感じました.第1話で夜の街にグリッドマンが立ったときは興奮します.あとOPの出来が最高なのでみてほしいところ.

そして魅力的なキャラクター.特にヒロインの宝多六花と敵役の新条アカネの人気は凄まじく「新条アカネ展」なるものが催されるほど.また,『リコリスリコイル』(2022)の主人公2人(錦木千束と井ノ上たきな)には,デザインのみならずキャラや声優の演技も含めて端的にその影響が看て取れます.

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3.番外編その2

最後に残念ながらリストに入りきらなかったジャンルについて触れたいと思います.

(1)日常もの

日常ものといってもコメディ,癒し,学園ものなど組み合わせる要素の濃淡で相当幅があります.あまり漁れていないのですが,観た範囲でおもしろかったのは『のんのんびより』(2014年)です.原作はあっとさんの同名漫画.

©2021 あっと・KADOKAWA刊/ 旭丘分校管理組合三期

ほのぼの日常コメディといったところでしょうか.小中合わせて全校生徒5人規模の田舎のコミュニティ.おそらく視聴者として念頭に置いているのは主人公と同い年の子どもではなく大人.大人が子どもの日常におけるささやかな成長を愛でる作品です.

田園風景が美しく,第1話冒頭の電柱がいい感じ(エヴァ以外で電柱を見上げる絵はなかなか見ない).演出や笑いのゆるさがいい塩梅でよかったです.

©2021 あっと・KADOKAWA刊/ 旭丘分校管理組合三期


(2)ラブコメ

あだち充作品は好きですが[註3],それ以外は食わず嫌いしているほとんど未知の領域.ただ最近ちょっと覗いてみたらおもしろかったのが『からかい上手の高木さん』(2018)です.

©2019 山本崇一朗・小学館/からかい上手の高木さん2製作委員会

なかなか一線を超えてくれない中3男女のお戯れをひたすらあたたかく見守る作品です.なにこれ楽しい.もっとも外伝的位置付けの「元高木さん」は個人的には完全に蛇足.


(3)平成最強アニメ?

そして僭越ながら最後に平成全体を通して最強だ!と思った作品を挙げさせてもらいます.それは『名探偵コナン』(1996年〜)です.

©青山剛昌/小学館,読売テレビ,TMS

異論は少ないと思います.いろいろ観てきてちょっとずるいと思うくらいおもしろい要素が多い.

特徴はキャラクターの性格含めたデザインと配置の豊かさでしょうか.サンデーらしく恋愛要素を盛り込むわけですが,どこ行っても恋愛事件が起こせるよう(!)登場人物の至る所にそういう関係が仕込まれていて,その周到さにもはや戦慄.

また,ラブコメに加えて,日常コメディは少年探偵団をはじめ至る所で,サスペンス要素は黒づくめの男たち,アクションは劇場版,最近よくある作中最強同士の対決は怪盗キッド,同じく最強同士の共闘は服部平次,ギャグは京極真,と抜け目がない.どこに投げても誰かが拾う守備範囲の広さに感嘆.

気になった点として,登場人物がヘマをして危機的状況を演出するといったサスペンスやミステリーにありがちな手段がコナンにも最初期にありました.特に少年探偵団の元太に集中していた気がします.しかし,ほどなくこうした誰かを犠牲に盛り上げる手法はなくなります.

端的にシナリオの拙さが改善されただけかもしれませんが,愛すべきキャラクターの魅力を削ぎかねないという配慮もあったのではないかと推察しています.こうした作品作りに感心すると共に,垣間見えるそうした細かい配慮,気遣いが,幅広い支持と根強い人気につながっているように思えます.

以上のような観点で『コナン』に匹敵する作品を私は思いつきません.

事件のアイデアが尽きない限り一生続けられる作品と思いきや,どうやら原作には終わりが近づいているらしく,ここにきてさらに動向が気になるところです.

劇場版最新作『黒鉄の魚影』より.©青山剛昌/名探偵コナン製作委員会



4.終わりに

〈平成アニメ20選まとめ〉
前期10選
『銀河英雄伝説』
『機動警察パトレイバー』
『機動戦士ガンダム0080 ポケットの中の戦争』
『少女革命ウテナ』
『カウボーイ・ビバップ』
『serial experiments lain』
『Witch Hunter ROBIN』
『戦闘妖精雪風』
『プラネテス』
『GUNSLINGER GIRL』
後期10選
『蟲師』
『BLACK LAGOON』
『電脳コイル』
『夏目友人帳』
『魔法少女まどか⭐︎マギカ』
『シドニアの騎士』
『僕だけがいない街』
『刻刻』
『ひそねとまそたん』
『SSSS.GRIDMAN』

・その他
『灰羽連盟』
『LAST EXILE』
『ヴィンランド・サガ』
頭文字イニシャルD』
『マイマイ新子と千年の魔法』
『それでも町は廻っている』
『3月のライオン』
『BLAME!』
『のんのんびより』
『からかい上手の高木さん』
『名探偵コナン』

振り返ると,今回紹介した作品たちの中で小説漫画等に原作がないという意味でオリジナルアニメと呼びうるのものは以下になります.

『機動警察パトレイバー』
『少女革命ウテナ』
『カウボーイ ビバップ』
『serial experiments lain』
『Witch Hunter ROBIN』
『電脳コイル』
『魔法少女まどか⭐︎マギカ』
『ひそねとまそたん』
(『灰羽連盟』『LAST EXILE』も.『SSSS.GRIDMAN』は微妙なところ)

メインの中では8作品.意外と半数近くを占めることになりました.ちなみに,あくまで私のリスト内の数値ではありますが,10年区切りで数えると90年代が4つ,00年代が2つ,10年代が2つで計8つ.これに同様にオリジナルアニメの『エヴァ』を足すと90年代が5つとなり,オリジナル作品は減少傾向にあるといえます.あるいは90年代が特殊だったのかもしれません.この辺りどなたか分析している方いらっしゃるのでしょうか.

とまれ次の10年がどうなるか,楽しみですね.


今回は以上になります.あれもないこれもない,といったことも含めて楽しんでいただければ幸いです.ついで誰かの参考になれば存外の喜び.

最後までお読みいただきありがとうございました.


1:自伝的コラム記事がネットで読めます.片渕須直「β運動の岸辺で」(WEBアニメスタイル.後に書籍化『終わらない物語』(フリースタイル,2019年)).学生時に宮崎駿氏の元で『名探偵ホームズ』(1984)の演出助手を務め,脚本家デビューもするお話だったり,『マイマイ』鑑賞者とのやりとりだったり興味深いエピソードがたくさん.

2:こうの史代さんの同名漫画が原作.劇場版の拡張版『この世界の〈さらにいくつもの〉片隅に』(2019)がつくられました.時間のない方は拡張版だけでも.

3:アニメ『クロスゲーム』(2009),『MIX』(2019)ともによかったです.後者は第2期の制作が決定したそうでありがたい.毎度キャラデザで苦労されていることの確認も醍醐味だったり.


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