緑黄色社会『Shout Baby』に見る長屋春子のアーティスト性

今年、飛躍が期待されるJ-POPの若手バンド、緑黄色社会の楽曲について書きたいことがあります。取り上げるのは『Shout Baby』という曲です。

「男らしく」「女らしく」などと言われて育った経験は誰にでもあるのではないでしょうか。この曲は、自分自身の気持ち、と、周囲の人間から期待される自分、とのギャップに悩む主人公について歌われています。

緑黄色社会は男女二人づつの四人組混成ポップロックバンド。17歳の頃に高校の同級生と結成し、ライブ活動などを経て2018年にメジャーデビューしました。先月、メジャー初のフルアルバム『SINGALONG』を配信リリースしましたが、予定されていたCDリリースとライブツアーは延期になっています。

今回語りたいのは、そのアルバムにも入っている『Shout Baby』という楽曲です。この曲はギターヴォーカルの長屋春子さんの作詞曲ですが、一生に一回と言ってもいいほどのチャレンジであると感じたので、それを解説していきます。

まずは楽曲を聴いてもらうことから。公式MVはこちらです。歌詞も表示されますのでわかりやすいと思います。

まずプロローグとしてヴォーカルから始まるAメロのブロックがあります。ここは情景が映像として浮かぶと同時に、歌詞に含まれる色気が伝わる部分です。

特徴的なシンセのイントロがあってAメロですが、ここの歌詞は想像力で補う必要があります。

(男の子に泣かされたりしながらも、一緒に遊んでいた幼少の頃の人間関係は、無垢で素直で嘘がないものだった。それがいつしか、私は、周囲の反応を伺い、期待を裏切らないように振る舞ってきた。自分の本当の気持ちを表に出すことを我慢してきた。)

というのが僕の解釈です。次のBメロの部分で、自分を振り返るきっかけとなった、最近の出来事が描写されます。

(彼氏に、付き合っていることを内緒にしてくれと言われた。私はその時は同意してしまったが、内心、全く納得してはいなかった。彼氏は私に対して誠実に接していないし、そのことは決して受け入れられない。)

続くサビでは、分かり合えない相手と、でもそんな人を大好きだという気持ちが複雑に交錯しながら歌われて、最後に「変わりたい」と括られます。

この物語は2番へと続きますが、基本的に、心で思ったこと、頭で考えたこと、身体から出た言葉、の三つを交差させながら、モノローグの形式で主人公の気持ちが語られていきます。

この曲は、初めて本気で恋愛の素晴らしさを実感した女性の話であり、他人から見た自分と、自分自身の気持ちの差異に苦しむ若者の歌であり、それを両立させるために何かを変えたい、変わりたいと強く願う人間の歌なのです。

ラスト、この曲は再びヴォーカルの「変わりたい」というフレーズで終わります。これは何を意味するのか。ここで、曲中の主人公と、作者である長屋春子さんの姿が重なって見えてきます。

周囲から、「真面目で堅物な優等生」と思われていた人物が、「本当はそうじゃないのに!」と主張したい時、例えば髪型を変える、言動を変えるといった行動を取るとして、この主人公=長屋さんは「音楽を通じて自己表現をする」ことを選んだのではないでしょうか。

「変わりたい」という気持ちを歌にすることで「変わることができた」。そういう意味で、この曲は、表現者としての長屋春子さんの大事な一歩であり、創作の原動力を示した作品だと思いました。