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Official髭男dism『アポトーシス』は私たちが今いる場所を教えてくれる(2)

ここで、この曲がラジオ初オンエアとなった放送からの書き起こしをします。この放送はヒゲダンの4人全員が出演しています。その中での『アポトーシス』に関する藤原聡さんの発言です。事前情報として、サビのメロディを思いついたのが2020年6月、デモができたのが同年8月、レコーディングが2021年6月という話もありました。

2021年7月31日 FM802  LANTERN JAM TIMES

(書き起こしここから)

伝えたいことがあるとすれば、生きていくっていうことはこういうことだな、っていう歌を作ったな、っていうことでもあって。背中を押す曲だけが全てではないっていうところがありながらも、もしかしたら懸命に何かに抗おうとしたり、何かに対して頭をかかえる様が、誰かの背中を押すことがあるかもしれない、それはもう分かんないけど、そういう歌が自分たちのバンドの中にあってもいいと思うし。

(曲のオンエア)

話したいことはたくさんあるんだけど。曲を作った背景、結局一年以上かけたんですけど、僕が29歳の誕生日を迎えた日(注:2020年8月19日)に、それまでメロディは浮かんでたんだけど、ついに20代最後の一年が始まるなっていう日に、リビングでアコギ弾きよったら、この曲のAメロBメロが出てきて、こういうことを歌おうと思って。

30になるとさ、体もいろいろ変わってくるし、自分の大切な家族とかいろんな人との残された時間はどのくらいあるのかなとか思うんだけど、いつか必ず訪れる耐え難いものをちょっとでも楽にする言葉やメッセージは何かないかっていうのを探りたくてこの曲を作り始めたんですけど、結局なかった、1年間かけて探してなかったっていうのが答えだったなって思って。

それを、何をわかったふりをすることも絶対したくなかったから、そのまま、「やっとその日眠ることができた」くらいしかできなかったねっていう歌を作ったんだけど、これを皆(バンドメンバー)に弾き語りで聞いてもらったこととかを思い出しながら(今のオンエアを)聞いていました。

(メンバー 代々木のスタジオでね、鳥肌が立ったね、あれ良かったねー)

歌詞の話ももちろんあるんだけど、メロディがまずすごく美しく作れたなと思っとって、描いているものの中に、美しさと、ちょっとの荒廃、荒んだものが欲しいなと思った時、色んな音を使ってみて。

ストリングス使ってやるかと思うじゃない、『Laughter』も使ってたり。でもあえてドラムの音を歪ませたりとかシンセベースでグイングインいったりとか、ストリングスが弾くであろうパートを大ちゃんのギターでツインリードにしたりとか、バンドなりにどうやってその感情を表現できるかなと思ってやってみました。

(リスナーからのメール、タイトルの意味についての質問)

「アポトーシス」っていうのは一番わかりやすくいうと、生物の授業かなんかで、葉っぱが枯れて落ちていく、あれは木におけるアポトーシス、ここから先の未来に進むためにこの細胞は壊れていくべきだ、という判断によって壊れていく。おたまじゃくしの尻尾もそう。

この地球を一個の体としたら、そこに暮らすものは細胞のように細かくって、世界が循環していく流れの中でいつかは壊れていくっていうことが約束されている、少なくとも今は。っていう中で、何を思い生きるのかっていうことを描きたかった。

描きたかったっていうか、この職業というかさ、音と言葉で音楽を作って届けるっていうことを生き甲斐にしたなら、これは絶対に残しておきたいって思った自分の、答えとかじゃなくて、足掻いた跡、みたいなもの、でした。

だから『アポトーシス』っていうタイトルだけど、そこに対して何を思うかっていうことで、こう思ったら大丈夫っていうことは一つもなかった、ただもがき苦しむ、ただ悩む、その中で、せめて残された人たちと残された時間をどれだけ幸せに生きるかってことを考えなきゃって言い聞かせるけど、そうは言ってもさ、っていう。

(メンバー それがあのメロに乗っていて不思議な感じになるんだよな、綺麗だなって。寂しいなっていうより。美しさを感じる。)

葉っぱも枯れて落ちていくけど、その前にめちゃくちゃ綺麗に紅葉したりするじゃん。そうやって何かが終わっていく、また始まるみたいな循環のときって、きっと何かすごく美しいものがあったりするんだろうし、神秘的なものでもあるし。っていうものが奇跡的にあってこの曲が生まれたんだろうなと思っています。

(書き起こしここまで)

音楽は、フィクションかノンフィクションかを自在に行き来できるし、その中間地点のどこでもいいという自由度があります。

『Cry Baby』が、『東京リベンジャーズ』の世界に乗っかったフィクションであるのと対照的に、『アポトーシス』は藤原さんが長い期間悩みに悩んで形にした楽曲で、しかもその過程で「これは絶対に残さなきゃ」という思いがあった。藤原さんの内面から出てきた強い思いが込められている作品です。

その視点から、この曲の主人公を藤原さんの分身として、重ね合わせるようにして読み解いていきます。(続く)