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一生モノのギターを手に入れる

 学生最後の冬、私は一生モノのギターを手に入れるべく、様々なギターを試奏していた。しかし、なかなかめあてのギターに出会うことができずにいた。そこで私はFruch(フォルヒ)というチェコのメーカーにギターのオーダーメイドをすることにした。

アルバイトを終え、いつもの楽器店に向かうと、アコギのコーナーに既に何本ものフォルヒのギターが置かれていた。代理店の社長との面談まで自由に試奏して良いとのことであったため、私は自分が希望したのと同じ、サイドバックにメイプルが使われているギターを試奏してみた。

芳醇な音。
ジャキジャキとかき鳴らすこともできれば、バララランと撫でるように弾いても良い音が出る。出したい音がすべてそこにあって、まだまだ色んな音が出せそうな奥行きのあるギターだった。しかし、1つ懸念事項があった。ピックガードのデザインだ。
フォルヒは元々ブルーグラスなど、フィンガーピッキングで演奏する人向けのギターを作っていたメーカーだ。だからピックガードは薄くて小さな四角形で、私のようにフラットピックでジャキジャキかき鳴らすようなプレイをすれば、サウンドホールの周りはあっという間に傷だらけになってしまう…

そんなことを思っていると、私の面談の時間が来た。 

お会いしたM社長は気さくな方で、私のギターに関する要望を丁寧に聞いてくださった。
そしてギターのことについてもよくご存知で、私の好みの音や候補の機材について伝えると、私が吉田拓郎やジョージ・ハリスンが好きであることをピタリと言い当てたのには舌を巻いた。私のように若いお客さんは珍しいらしく、せっかくだからと、同じモール内のカフェへと案内された。
私は、無理矢理高い楽器をオーダーされたりしないかと、少しヒヤヒヤしていたが、そんなことはなかった。

M社長は、私が安心してギターを使い続けられるように様々なことを教えてくれた。
ネックには特殊なプレートが入っていて、補強されていること、何十年もフォルヒのギターを使っているお客さんのライブを見たこと、現地の工場で働いている人たちのことなど…。
私はふと思った。M社長は、単にギターを売るだけではなく、ギターのある生活を売ってくれているのだ。目先の売上だけではなく、一生モノのギターを探している私のために真剣に商品を提案してくださっているのだ と…。
そして、
1 予算は30万円以内
2 ネックの強度があること
3 メイプルのサイドバックでジャキジャキとした音が鳴ること

これらの条件をすべて満たすことも約束してくれた。
そして、ピックガードのことについて話すと…
「じゃあ、作ってあげるよ!どんな形がいい?」
予想していない展開だった。はて、どうしたものか…

しばらく悩んだ末、

「じゃあ、THE ALFEEの坂崎さんのテリーズテリーみたいなピックガードでお願いします!」
という半ば無茶なお願いもすんなりと受け入れてくださった。

8ヶ月の後、私のもとにフォルヒのギターが届いた。開けた瞬間、爽やかな木の香りと私の夢がたくさん詰まった1本がそこにあった。テリーズテリーのような形のピックガードもちゃんと付いている!

私のメインギター、ピックガードは、Terry’s terryと同タイプのものをM社長に作っていただいた。

ジャキジャキ、バラララン…。時を忘れて楽器店で手に入ったばかりの愛機を鳴らしていた。

私は、フォルヒの音や見た目が気に入ってオーダーを考えたが、やはり決め手となったのはM 社長だった。
心から私の要望に寄り添い、それに合わせた提案をしてくださり、アフターケアのことまで事細かに教えてくださった。こんな方がいらっしゃるメーカーなら、一生モノのギターを買ってもずっとお付き合いできる。そう思った。
「きちんと使えば、君より長生きするよ、このギター」
去り際に社長から言われた。
ようやく手に入れられた一生モノのギター。これからも、人生に寄り添うような音楽を一緒に刻んでいきたい。

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