見出し画像

深夜のコンビニ

「ごめんくださーい」
応答はない。私は再度声を張り上げた。
「お会計お願いしまーす」
すると、カウンター越しの奥の部屋から老齢のおばあちゃん店員が顔を出し、そろりそろりとレジまで歩いてきた。
店員「ごめんなさいねぇ。今お会計しますね・・・」
店員さんは僅かに息を切らせていた。
「いえいえ、夜分に申し訳ないです」
私は急に忍びない気持ちになった。まさか高齢の方がお仕事をされているとは。私は想定すらしていなかった。しかもこんな遅い時間に。

店員さんの年齢は80歳ぐらいだろうか? 腰の曲がり具合いや、顔のシワなどから判断しても、お世辞にも若いとは言えない。とてもじゃないが、これで仕事が務まるのだろうか?

店内はクリスマスムード。老齢の店員さんは私の会計を済ませると、クリスマス向けに飾り付けの作業を始めた。綺麗なクリスマスツリーは彼女がこしらえたものである。本当に頭が下がる。

店員さんによる飾り付け

高齢者のコンビニ勤務は、地方では珍しくないそうだ。無論、彼らは好きでこんなことをしているのではない。経済的な事情により働かざるを得ないのである。年配の雇用者は、客の出入りが比較的少ない深夜に採用される傾向があるとのこと。

店員「去年まで農家をやっていたんですよ。いよいよ身体に負担を感じるようになったから、別な仕事をやることにしました」
おぼつかないレジ作業をこなす傍らで、この女性店員は笑顔を絶やさなかった。
店員「農家は年金が少ないんですよ。だから、こうやって可能な限り働くことにしています。ではお気をつけて」

生きづらい世の中になってしまったなと、つくづく感じさせられる。いよいよこの国もここまで堕ちてしまったか。この店員さんの事情は知る由もないが、少なくとも、汗水流して農業に従事してきた苦労は、もっともっと報われてもいいはずである。農家は戦後の経済発展の功労者であろう。

私はコーヒーを購入し店を出た。今年も既に年の瀬。毎年この時期になると、切なさやら無常観やらと、儚い気持ちで胸がいっぱいになる。私はしばらくの間、駐車場で何も考えずにボーっとしていた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?