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ソニックシリーズに登場するキャラクターの年齢について

◆前置き


2022年10月、ソニック本人を含むソニックシリーズに登場するキャラクター達の公式年齢表記が削除されました。
これを書いている2023年現在、ソニック達は『公式には全キャラクター年齢不詳』です。
wikipedia等国内外多くのファンサイトでは記述が残っていますが、"ソニック・ザ・ヘッジホッグは15歳"は正確に言えば『過去に存在していた設定』となります。
ということについてざっと検索しても文章ではまとまっていないっぽい(それっぽい動画は出てくる)ので書き残しておきます。

ついでに『年齢設定をなくす』ということの意味───なぜ消したのか、消す必要があったのか、という公式側の姿勢を推測する記事となります。

一言でまとめると、
「ソニック(15)を始めとした年齢設定は実際のキャラクター達に対して低すぎて描写にも制限がかかり、昨今の世相では面倒な点が多かったのではないか」
「今後の展開の幅を広げるために今回の変更が必要だったのではないか」
という話です。

◆概略・ソニックの年齢設定変遷

(追記)公式年齢設定の変遷を調べられる範囲でまとめました。

1991年 メガドライブ『ソニック・ザ・ヘッジホッグ』発売
1992年 学年誌(小学◯年生)にてコミカライズが連載開始。ソニックは"主人公の少年ニッキ(10)が16歳に成長した姿"という設定。
1993年 メガドライブ『ソニック・ザ・ヘッジホッグ3』の購入特典『ソニックヒストリービデオ』にて、「ソニックは15歳~16歳。ただし大人と子供を自由に行き来できる」という設定が語られる
1993年~ 海外でアニメとアメコミが展開。年齢設定は作品によってバラバラ。(余談だが『チリドッグが好物』設定はこの時期誕生)
1997年 セガサターン『ソニックジャム』内ギャラリーに"15~16歳"の表記あり。

1998年 ドリームキャスト『ソニックアドベンチャー』発売。現在の"モダンソニック"の設定がほぼ固まる。
1999年 海外で3度目のアニメ化『ソニック アンダーグラウンド』が放映。一応15歳設定あり(?)。ただし三つ子の兄弟や両親等独自設定が多い。

(この間は公式の情報が見当たらないが、1999年時点にはファンサイト等で15歳設定が普及していたのが確認できる)

2003年 アニメ『ソニックX』の公式サイト及びゲームキューブ他『ソニックヒーローズ』海外版マニュアル等にて15歳と明記されている。
2005年 日本公式サイト『ソニックチャンネル』オープン。プロフィールページに15歳の記載あり。『チリドッグが好物』設定もこの頃公式に逆輸入

2013年 アニメ『ソニックトゥーン』放映。直接的な年齢表記はなし。

2020年 映画『ソニック・ザ・ムービー』公開。幼少時のエピソードが語られる。本編時間軸でのソニックの年齢は不明。

2022年10月 『ソニックチャンネル』から年齢表記が消える。

というわけで、おそらくソニックの15歳設定が固まったのはソニアドにおけるリデザインと同時期。
ただし現在ネット上で確認できる情報が見当たらず詳細は不明。初出がわかる方が居たら教えてください。

◆事の起こり

消えた年齢欄


日本時間2022年10月2日、とある海外ソニックファンのツイートが話題になりました。
内容は日本のソニック公式サイト『ソニックチャンネル』のキャラクター紹介ページから年齢欄がなくなっているというもの。
実際更新がいつあったかは確認しようがありませんが、海外勢のこういう情報は恐ろしく速いのでおそらく長くて数日前とかではないかと思います。

日本勢ではシンプルに元々存在していた設定をわざわざ消すことに懐疑的な声が多く見られ、
海外はそれに加え『年齢表記がなくなったからと言って自分の嗜好が正当化されると思うなよペドフィリア共』的な発言も割とバズっていました。
ここでの嗜好とは『年齢差のあるカップリング(ソニック(15)xテイルス(8)等)』や、テイルスやクリームなど一桁キャラ自体のR-18創作等を指します。

これは極端な例ではありますが、海外の風潮(と、そこからの日本オタク文化のズレ)を語る上でとてもわかりやすい例(そしてセガが今回の年齢設定の削除というアクションに踏み切った理由を推測する良材料)でもあります。

◆ソニックたちのプロフィールについて


前述の通り、『ソニックチャンネル』はソニック・ザ・ヘッジホッグの日本のポータルサイトです。
あくまでも日本国内向けのページでほとんどが海外とは別の動きをとっていますし、サイト自体にも日本語情報しかありません。(2023年4月に機械翻訳による言語選択機能が付きました)
ですが盛り上がりの本場である英語のソニック公式サイト(sonicthehedgehog.com)にはこういったキャラクター紹介ページなどはありません。ゲームや各種展開をまとめる簡素なインデックスとなっています。
(英語版サイトと日本語版サイトの関係はディズニーの公式も同様なため、日本と英語圏におけるwebサイトの扱いの違いなのかもしれません)

ソニックは日本産のキャラクターでありながら、アメコミやアニメなど海外向け展開の比重が明らかに大きいという状態が長年続いていました。
しかしそれらメディアミックスには日本で作られているゲームからは乖離した部分が多く、ファンの間でも議論になることが多くありました。(アニメやコミカライズが単なる派生メディアミックスの域を越えた存在になっているという意味では、ある種ポケモンのような状態)
またTwitterやインスタなど各種SNSでは英語圏向けの情報発信も盛んに行われていますが、そちらは多くのジョークが含まれています。
そういう関係もあり、ソニックチャンネルに日本語で掲載されている情報は特に他よりも純粋な"本物"であるという認識が海外ファンの間でも広く共有されています。

ただし英語圏でソニック達の年齢への言及が昔からなかったかというと別にそういうことはなく、今確認できる範囲では少なくとも2003年の『ソニックヒーローズ』の取扱説明書では日本と同様の年齢が明記されていたようです。

ソニック達の身長体重年齢といった情報が載っている公式プロフィールページは日本語版ソニックチャンネルにしか存在しないものであり、その変更が世界でも海外ファンの間でも話題になったというわけです。

◆"児童"の扱い


この件に関連して前提として理解すべきこととして、欧米ではフィクションにおいても『児童は大人によって保護されるべき存在である』という道徳観が強くあります。
超ざっくり言うと"典型的なアメコミヒーローや洋ゲー主人公"と聞いて思い浮かべるのはマッチョな成人という人が多いのではないかと思います。
『サウスパーク』等のカートゥーンは日本よりよほど過激だと反例として挙げる人がいるかも知れませんが、それらは全年齢作品ではありません。
欧米では二次元作品においても18禁だけでなく暴力・性的表現に応じて細かくレーティングが適用され、実際『NARUTO』『ヒロアカ』等のジャンプ作品も多くがPG(12歳未満には不適切な可能性のある作品)、PG13(12歳未満閲覧禁止)に指定されていたりします。
着替え・覗き等の日本作品に当たり前に挟まれるお色気シーンは、多くの国で作品が全年齢向けではなくなる要素だったりします。
性的な要素だけでなく暴力からも子供は遠ざけられがちで、ゾンビ映画でも子供が被害にあうことが少なかったり、FPSやオープンワールド系の自由度が高いゲームでも子供のNPCには攻撃ができなかったり…という規制は昔から洋ゲーに触れているとよく聞いた話です。

対し、日本のアニメ漫画文化では中高生ぐらいの少年少女が非常にカジュアルに戦闘要員として活躍します。
そういう要素が特に色濃いバトル物の代表としてはジャンプ作品を筆頭とする"少年漫画"の他に、いかにもジャパニメーション的作品として『テイルズオブシリーズ』や『ソードアート・オンライン』など…
おそらく探せばちゃんとした文化史的な研究もされている分野だろうと思うのでここでは適当なことを言いますが、
日本のこういった作品の"典型的主人公"は14~15歳ぐらいのイメージが強いのではないでしょうか?
例えばそういった日本のフィクション作品における"18歳"という記号は、ある程度大人びた面を強調されることが少なくないと思います。
"学園モノ"という世界観では異常な権力を持つ"高校の生徒会"が頻繁に登場したり、
少し路線は違いますが、『サザエさん』や『クレヨンしんちゃん』の登場人物などが「イメージより遥かに若い」という話題は日本インターネットで何度も何度もバズったりしています。
『FF8』のメインキャラクター達や『新世紀エヴァンゲリオン』のミサトなど、ネットユーザーが大人になるにつれて扱いが大きく変わったキャラクターが存在したり…
日本フィクション作品における年齢設定、及びその年齢を始めとする記号が持つイメージは、日本人からしても現実にはそぐわないかなり独特なものである…というのは、特に子供の頃からそういったジャンルに触れているオタクほど忘れがちな視点だったりします。

今もリメイク等で盛り上がり続けている『バイオハザード』シリーズが世界展開しやすかった要因の一つにも、日本IPの中でわかりやすく大人ばっかりだからというのがあるでしょう。
前述の通りゾンビものというジャンル自体がキャラクターの年齢層高めなため、違和感なく現代の世界的コンテンツになれたという。
同じくカプコンの『ロックマン』の主人公は少年ですが、初代当時パッケージイラストが中高年男性にされていたりしたのも有名な話です。

またもう一つのカプコンの世界的IPとして『ストリートファイター』が存在します。
こちらも元々はアニメチックだったキャラクターを『4』を機に大きく方向転換しました。
『4』『5』そして今年発売の『6』と、作を重ねる度にゴツくなる男女、典型的美形白人から外したキャラクターデザイン等、特に国内既プレイヤーからは不満が頻出しています。

"格闘ゲーム"というジャンルは長く続く『EVO』という世界大会があったり、現在では世界のeスポーツシーンにおける大きな柱の一角です。
そしてモロに暴力を扱うジャンルなので、特にここ数年でそういった展開がより当たり前になった今やはり少年少女キャラは避けられがちです。
ストリートファイターに元々極端な低年齢キャラは存在しませんでしたが、元女子高生ファイターのさくらも20台フリーターとなりました。
同じく『鉄拳』シリーズは元々年齢層が高い。
他よりアニメチック(より正確にいうならラノベチック)なセンスを取り入れていたアークの『ギルティギア』も、最新作『ギルティギアストライブ』で多くのキャラの設定や衣装を見直しています(ブリジットのトランスジェンダー化、メイやミリアの露出度等)
『メルティブラッド』も令和の世に蘇る際にキャラデザを変更しました。また『FGO』からのゲストキャラクターも露出度が下がったりしています。
例外を挙げるなら独特のセンスを貫いているSNKの『KOF』と『サムライスピリッツ』、原作ありの『ドラゴンボール』等でしょうか。

反対に海外産格ゲーの代表作品は『モータルコンバット』シリーズ。
実写キャラで残虐なとどめシーンがあるなどこれはこれで極端ではありますが、「児童を暴力に関わらせることへの忌避感」が関わる文化の一例としてわかりやすいものです。
『スカルガールズ』なんかは割とアニメチックなキャラクターセンスですが人外設定がついていたり。

またEVOと日本作品の話に戻ると『DEAD OR ALIVE』シリーズの新作紹介中にスタッフが女性キャラの股間をカメラでアップにしてはしゃいでいて公式配信からBANされるという下らない事件が過去にありました。
あれはエロに関する日本と海外との意識の差が非常に顕著に表に出た例でした。日本の恥です。

児童の扱いから少し話が逸れましたが、実際の所これらは全てつながったコンプライアンス意識の話となります。

◆ソニックシリーズにおける低年齢キャラクターの扱い


さて、ではそれらはソニックの世界観にどういった影響を及ぼしてきたのか…という話に戻ります。

シリーズにおける低年齢キャラクターの代表例は、なんといってもテイルスです。
ソニックの第一の相棒であり、尻尾を回して空を飛ぶ能力や類まれな頭脳でソニックをサポートする心優しい小ぎつね。
様々なメカを作ったり、飛行機を操縦したりで大人顔負けの活躍をする彼ですが、
シリーズの中で明確に"彼の扱いが変わった"とみられるターニングポイントが2008年発売の『ソニックワールドアドベンチャー』です。

モンスター達に囲まれて「助けて!」と怯え、文字通り尻尾を巻いて逃げ出すテイルス。
同作は2006年の『ソニック・ザ・ヘッジホッグ(通称新ソニ)』から(当時でいうと)少し間が空いた3Dシリーズ本編の仕切り直し的な作品でした。
ソニックアドベンチャー~新ソニまではプレイヤーキャラクターとしてトルネードに乗って敵をボコボコなぎ倒したり、、生身でもソニックを投げつけたりリング型の爆弾をばらまいたりしていたテイルス。
そんな彼はレギュラーの座は守りながらも、本作以降戦いの最前線から距離を置くことになります。

『ソニックカラーズ』『ソニックロストワールド』でもムービー中ではちょっとしたアクションはこなすもののソニックの付き添いに徹し、
『ソニックフォース』ではワルアドと似た敵キャラに怯えて助けを求めるシーンがありました。また多くのキャラが登場する総力戦のシーンでもテイルスだけ不自然に格闘シーンがありません。
ワルアドとフォースのこれらは旧来のファンから批判されることの多いシーンですが、それ以前/以降で区切るならば「矛盾」というよりはそこに「転換点」があったと見なすべき展開です。

今回削除されたテイルスの年齢設定は"8歳"でした。
頭脳も身体能力も人間の8歳とは比べるべくもないのは当たり前ですが、それでも世界の潮流を見れば公式に"8歳"と名言されているキャラクターを積極的に戦闘に参加させたくない…という判断が、当時上層部より下されたのではないかと思います。
ワルアドの直前に発売されていた『ソニッククロニクル』でもバリバリ戦ってるので、以前の記事でも書いた『カラーズ』前後のソニックシリーズの方針転換が、実際にはこの時期から始まっていたのではないかと推測されます。

また、新ソニのヨーロッパ版公式サイトではテイルスの説明文は「そのメカニックの才能で15年間ソニックを助けてきた~」というメタ的なものになっていました。
同作は今の所本編でテイルスを操作できた最後の作品ですが、この時点で欧米ではすでに8歳の少年を前線に出すことへの抵抗が高まっていたのかもしれません。
2023年に予定されている『ソニックフロンティア』の大型アップデートではおよそ17年ぶりにプレイアブルキャラクターとして復活する予定のテイルス。
これもまた年齢設定を削除したからこそできるようになったことの一つなのではないかと思います。

思えば、テイルスは難儀なキャラクターでした。
例えば二次創作の面においても8歳という年齢設定は非常にセンシティブです。
コスモやゾーイ等公式ガールフレンドといっていい存在がしばしば登場するテイルスですが、エロに限らず子供を恋愛に絡めることに抵抗を感じる人が海外ではかなり多いようです。
日本は良くも悪くもロリショタに非常に寛容であり、特にテイルスは男性向けエロ同人でも大昔からの定番キャラクターなのでいくらでもそういう作品が存在しています(そしていわゆる"竿役"としてソニックや大人のモブ男と絡んでいることも多い)が、海外では二次元オタクであってもそこに敏感な人が多く、
テイルスのエロ自体も、ソニック等との年齢差カップリングも基本的に白眼視されるといって過言ではない存在です。

日本でも近年は『大人が未成年に手を出すのはちょっと…』的な声がちらほら見られるようになってきましたが、英語圏はそこの意識の違いを大きく感じます。
なのでプラトニックなテイルスxクリームなど子供同士のカップリングが日本より愛でられていますが、sonadowなどに比べて規模は決して大きくありません(これは旧アメコミで二人の絡みがあったのかもしれない。未詳)

ソニックオタクの間でよく見られるのがソニックアドベンチャーからの『日本脚本時代』とそれ以降の『アメリカ脚本時代(蔑称ケンポンソニック)』の対立煽りのような言及ですが、
前述の通りテイルスの扱いや操作キャラクターのソニック一本化など、旧来ファンが忌み嫌う要素は実際には日本で製作された『ワールドアドベンチャー』から始まっています。
続く絵本シリーズ二作でもテイルスはバックアップ担当、特にメインキャラクターがアーサー王伝説の騎士として登場する『暗黒の騎士』でも彼は鍛冶屋という個人名すらない後方支援役でした。

ちなみに外伝作品『ソニックトゥーン』ではテイルスもチームの一員としてバトルに参加しますが、同作におけるキャタクター達は「年齢設定は一緒でも、本編より年上として振る舞っている」という言及がスタッフよりありました。
また前述の『ソニックフォース』ではテイルスより低年齢(6歳)であるチャーミー・ビーが敵に一発アタックを決めている描写があります。なぜ…

◆15歳のソニック


前項ではよりわかりやすく子供であるテイルスの例を挙げましたが、それではソニック本人はそういった話題とは無縁だったのか?というと決してそうではありません。
ソニックの年齢は『ソニックアドベンチャー』以降は15歳、それ以前も15~16歳で概ね固定されていました。
世界の命運をかけた戦いに身を投じる15歳という年齢のヒーローは、前述の通り日本作品基準でいえばありふれた設定ですが海外ではそうでもありません。
『タートルズ』が"ティーンエイジニンジャ"の名を冠するのも、『ティーン・タイタンズ』が生まれたのも、『スパイダーマン』が最新の映画シリーズで高校生になったのも、それが属性としてウリになる(=定番設定ではない)からです。
逆に日本では『タイガーアンドバニー』がアニメとしては年齢高めのヒーローでした(こちらには特撮という大人メインの世界があるものの)

15歳という年齢は、現実で考えれば当たり前に"少年"であり、子供です。
そしてちょうど日本と海外のフィクションで大きく扱いに差がある年齢かもしれません。
未成熟さや成長を強調され、視聴者やプレイヤーが同調するというよりはそれを見守る"大人の視点"で描かれる作品が多い。
映画のソニックなんかは正にそのわかりやすい例でした。
また『カラーズ』『ロストワールド』『ソニックトゥーン』のソニックも、以前より子供っぽかったり失敗からの成長を描かれることが増えました。

一方『ソニックフォース』ではソニック本人や世界を取り巻く状況はとてもシリアスなものの、あまり具体的に描かれることはありませんでした。
というか

「OPステージ後、ソニックがインフィニットに倒されるムービー」
→「数カ月後新入り(プレイヤー)を歓迎しつつ、ソニックは死んだという前提で話を進める仲間たち」
→「次のステージを選択すると『ソニックが生きていやがったぞ!』から始まる会話」

というシーンがシームレスに展開された流れは、ほとんどのプレイヤーが首を傾げたと思います。
明らかに元々描く予定だった要素が省略されている。
プレイヤーが介入できない、想像で補うしかない部分でストーリーが一気に進みすぎている。
こうなった原因の一つが、"ソニックが15歳である"という事実だったのではないだろうか…というのが筆者の推測です。

ナックルズによれば「ソニックは何ヶ月も宇宙の監獄でただひでぇ目にあわされ続けているらしい」。
具体的な描写や説明は一切なく、「ソニックは"15歳"である一年のうちの数ヶ月を宇宙の監獄でひでぇ目にあわされ続けて過ごした」という事実がソニック世界の歴史に刻まれてしまいました。
まず半ばサザエさん時空なシリーズ作品で"数ヶ月"という具体的な時間経過に言及するのがなかなか思い切った行為ですし、その割にその後の開放感のための"溜め"としてもあっさり流されすぎでカタルシスも何もない。

この不自然さと肩透かし感こそ、「ソニックが15歳だったから」生まれたものなのではないでしょうか。
元々あったプロットが、海外(セガ・オブ・アメリカ)基準では"15歳にさせるべき役割ではない"という検閲により削られたのではないでしょうか?

同作の脚本は「日本チームで作ったプロットに、アメリカチームが会話を書いたり調整し、再度日本語に訳す」というステップで製作されたと語られています。
また主人公の設定などが初期プロットから削られたことも匂わされています。

「15歳の少年が世界の命運を背負わされ、市民を救いに駆けつけた場で倒されて敵に捕まり、何ヶ月も拷問にあわされる」…とプロットをソニックというフィルタを抜いて見てみれば、日本人でも「非道すぎる」と感じる人はそこそこ居そうに感じます。
その意識が、世界では"そこそこ"レベルではない。

遡れば、日本脚本作品におけるソニックというキャラクターの扱いはとても15歳の少年に対するものとしてはなかなかシビアでした。
もちろんその『ソニックアドベンチャー』からの重厚なストーリーはソニックシリーズの特色でもあり、また本人のクールで超然としたキャラクターもあって決して不自然なものではありませんでしたが、『新ソニ』で殺害され、更に17歳の人間ヒロインによるキスで蘇る流れはゲームの出来と合わせ色んな意味で波紋を呼びました。
同作はシルバーのストーリーも14歳には重すぎるものです。

新ソニからメインシリーズの新作が少し間が空いたのはゲーム自体の見直しを計っていたのもあるでしょうが、今ではメインライターとして活躍するイアン・フリンがアメコミの制作に加わったりコンテンツ全体がアメリカ主導になったりと体制に変化があった『ワールドアドベンチャー』~『カラーズ』の時期は、世界中で人権意識やポリティカル・コレクトネスの機運が高まりつつあったり、インターネットの発達やTwitterの登場等でそういった視点を含むグローバリゼーションが一気に進んだ時代でもありました。

そんな時代の中で『カラーズ』以降のゲームや『トゥーン』という路線変更を計る必要があったのは、「ソニックが15歳だったから」というのも一つの理由なのではないでしょうか?
というのがこの記事における推論です。

『フォース』では前述の通りストーリー上確実に存在した重いシーンはほぼオミットされていましたが、最新作『ソニックフロンティア』ではソニックがかなり容赦なくズタボロになっています。ストーリーが進むごとにニュートラルモーションが立ってるのも苦しそうになっていく演出を取り入れたスタッフは変態だと思います。アプデでクリア後も選べるようにしてください。
同作の発売は2022年11月…つまり、ソニックチャンネルから年齢表記が削除されたわずか一ヶ月後となります。
更に12月からはネットフリックスで『ソニックプライム』の配信も始まっており、明らかにこれらの展開に合わせた変更であったと思われます。
『フォース』ではできなかったことを『フロンティア』ではやった。つまり「15歳という設定を保持したままでは、ソニックフロンティアは作れなかった」あるいは「これ以降の展開に限界を感じた」のではないでしょうか?

『フォース』発売前後から、ブランドを取りまとめる「ソニックピラー」という組織の成立など、ソニックシリーズの制作体制が再び明らかに変わってきているのは以前の記事にも書いた通り。

重くシリアスなストーリーを作るなら、幼すぎるキャラクターの年齢設定は枷になることもあります。
ソニックに登場するキャラクター達は全体的に同年齢の人間のイメージからはかけ離れて大人びていますが、それでも「設定として明確に存在する数字」が持つ意味は大きい。
いかにも"オトナの女性"であるルージュすら、現実に照らし合わせればアルコールすら飲むことが出来ない18歳という設定でした。

現在日本でも翻訳版が刊行中のアメコミ、通称『IDWソニック』の2019年から2年近く続いたメタルウィルス編は、いわゆるゾンビパニック物をファンタジー世界に落とし込んだものです。
ソニック自身も仲間たちも疲弊しかなりギスギスして重苦しい空気が続く展開に、クリームやチャーミーなど低年齢キャラも容赦なく犠牲になっていました。テイルスの胃がやばそうでした。
個人的にも「これ向こう基準でアリなのか?」と感じるレベルでしたが、これが『フォース』後に始まったIDWソニックの一番の長編エピソードであったことはある意味象徴的に感じます。

それでもサブのメディアミックスであればギリギリできたぐらいの路線を、今後のゲームや他の展開でより押し出していくために、"第3世代のソニック"をより自由な存在にするために、彼らの年齢は表記されなくなったのではないでしょうか。

日本では実感が薄いかもしれませんが、ソニックというブランドの抱える名誉と責任は、ディズニーに勝るとも劣らない…といっても、決して過言ではありません。
元々そんな地盤がある上で、映画の成功によって彼は更に一段世界中で世代を超えて愛されるキャラクターとなりました。

映画のソニックは年齢を明言されていませんが、作中で明確に時間が経過しているので、それらとの齟齬を防ぐ意味もあるかもしれません。
今後3作目やスピンオフドラマもありますし、具体的な年齢がわからずとも、少なくとも映画2時点でのソニックとテイルスがほぼ2倍の年齢差があるようにはとても見えないですしね。

◆(追記)エミーについて


テイルスとソニックに重点を置いて書いてきましたが、シリーズのヒロインであるエミー・ローズの12歳という設定も枷としては大きな存在であったと考えられます。
"12歳"という年齢は日本でも小学生と中学生の境目であるためある程度わかりやすいと思いますが、PG12などのレーティング基準などを見ても"児童"という存在を規定する明確なラインのひとつです。
しかし『ソニックアドベンチャー』でのイメージチェンジ以降の彼女のモチーフは明確に当時のいわゆる"コギャル"…女子高生的なキャラクターです。「華麗に見参って感じぃ~♪」などのセリフに今となっては時代を感じます。

ソニックのおっかけとしていかにもな恋に恋する押しかけヒロインとなった彼女ですが、その「恋愛脳のいかにもな女性性」と「15歳と12歳という構図」は、その時代の意識のまま続けられる路線ではとてもありません。
現に近年の作品ではソニックへの恋愛感情を強調した描かれ方は薄くなっていますし、『ソニックトゥーン』でもいかにもカートゥーンにいるリベラルな女性キャラクターという感じに落ち着いていました(個人的にソニックトゥーンのエミーが一番好きですが、同時にこれはリサ=シンプソンの焼き直しなのではとも感じていたりしました)
特に"男女が居たら恋愛して当たり前"という認識が大多数の日本のオタクからは、近年のエミーの描かれ方はシリーズの展開における不評点の一つです。
しかし、そこにもおそらく彼女の12歳という年齢が影響していたのではないでしょうか。

本人のとても児童とは言い難いキャラクターに加え、シリーズメインのヒーローとヒロインなのである程度見逃されていますが、「15歳と12歳」という年齢差のカップリング自体は眉をひそめる人が海外ではそれなりに居る数字です。
二次創作においても彼女を12歳の児童として扱うものよりは"成熟した女性"アイコンとして使われているものの方が遥かに目立ちます。
エロ同人なんかも胸を盛られているのが当たり前レベルです。これは単に描き手の欲望を反映した姿であるだけではなく、海外オタク界隈では「12歳の幼女に欲情している」というレッテルが日本とは比べ物にならないぐらい風当たりの厳しいものである関係もあります。

これはソニック・テイルスも同様ですが、ある程度成熟した身体的特徴を載せて「このキャラクターは児童ではないし、自分は児童に欲情するペドフィリアではありませんよ」というポーズを取るのがエロ同人界隈でも非常によくみられます。
日本では長年明らかなロリショタものでも「この作品に登場するキャラクターは全員18歳以上です」というエクスキューズが使われていましたが、それが通じる世界ではなかったので。

公式でも二次創作でも、彼女の扱いは人間で言えば15~18歳程度を想定したものがほとんどだったと言えるでしょう。
どちら側から見ても"12歳"という公式プロフィールに存在する数字は、あまりプラスに働くとはいえないものとなっていました。

また、『ソニックアドベンチャー』当時のエミーはいわゆる"強い女性"像として先進的なキャラクターでした。
ちょうど今マリオの映画化に際して「アクションをこなすピーチ姫がポリコレ云々」と「実はファミコン時代からそういうピーチ姫はあった云々」の話題なんかもホットですが、トロフィーに収まらないアグレッシブなヒロインの存在というのもソニックシリーズが世界中でヒットしている理由の一つです(90年代から展開していた旧アメコミでも、エミーの前にサリーというアクティブなヒロインがいました)

クラシック時代のエミーはもっと大人しく典型的な"ヒロイン"で、今のエミー像は『アドベンチャー』で作られたものです。
そもそもが当時に合わせてモダナイズされたキャラクターなので、その後も時代に合わせて変化するのは当然と言えば当然のことではないでしょうか?
『ソニックトゥーン』等を経て、最新作『ソニックフロンティア』及びIDWソニックや様々なメディアでもエミーはソニックへの恋愛感情はありつつも本人のパーソナリティや活躍により焦点が当てられる存在となっています。

年齢の問題を差し引いたとしても、こちらにはテイルス以上に世界の女性へのエンゲージメント等も絡んでくるので、旧来の典型的日本産ヒロイン的なムーブをさせるのは現代では難しいのでしょう。
"ディズニープリンセス"を巡る様々な論争を見たことがあればわかるように、彼女の肩にかかる重責はもはや国産コンテンツだけを見ている日本のオタクからは想像もつかないほど大きいものとなっています。

◆終わりに


長々と書いてきましたが、ここまでの文章は全て公式の動きから読み取れる1オタクによる推察です。
今後のシリーズ展開においていつまたひっくり返ってもおかしくないですし、ソニック達がより上の年齢として設定し直されたりすることもあるかもしれません。
ただ、少なくともこれを書いている時点ではソニック達の年齢設定は公式には存在せず、それは明らかに意図と理由があっての変更であるということだけは確かです。

また、ソニックの公式関係者はTwitter上などでかなりフランクにファンに接しており、エゴサなども積極的に行っていますし、この件に関するファンのざわつきも確実に観測されています。
その上で実際に言及したのは今の所『ソニックフロンティア』ライターでもあるイアン・フリンだけです。
「何も言わない」という選択をしたのが公式であるという前提を踏まえて色々考えてみるのも面白いですよ。

ちょうどこれを書いている2023年4月14日、当のソニックチャンネルのプロフィールページが刷新され、その件に触れる公式ツイートもありましたが年齢には触れませんでした。
新年度からソニックチャンネルは一部リニューアルしており、ファンアート企画にスタッフからのコメントが復活していたり、スクショ企画も始動していたり。みんな応募しよう。
しかしセガほどの企業が抱えている世界的IPの公式サイトが、3月のツイートからのリンクがリダイレクトすらされずにエラー出放題になっている状態は内心いかがなものかと思っている筆者でした。


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