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タカラジェンヌと倖田來未

オシャレとは無縁、銭湯の客の大半は地元のシニア層、サウナ施設はそっけないほどシンプルながらしっかり熱く、水風呂は広くて冷たい。
好きで一番頻繁に行っていた銭湯サウナ。ブームに乗ってなのか若い世代のお客で混雑するようになり、そんな矢先に料金を値上げしたことで、最寄りのスーパー銭湯よりも割高になってしまったのを機に少々足が遠のいてしまった。
ピークでハマっていた頃は、用事のない週末のいつも決まった時間に通っていたので、行けば必ずと言っていいほど顔を合わせる人が何人かいた。

タカラジェンヌと倖田來未。

その中でも最もよく会う二人に、私が心の中で勝手につけた呼び名だ。もちろん呼んだことはない。
正確な年齢は分からないが私よりやや先輩。
一人はショートカットに長身、スタイルが良くて佇まいが目立つ元月組トップスター風。
もう一人はサバサバした関西訛りで、ほんのり水商売の香りのする色っぽい倖田來未風。
私が初めてここを訪れた日よりも遥か前から、このサウナに通う常連さんのようだった。

サウナでは沈黙とリラックスを満喫したいので、私から積極的に人に話しかけることはない。それでも頻繁に会う人とは挨拶をしたり、ちょっとした世間話を交わすようになる。
聞こえてくる会話から、彼女達のおおよその年齢やどんな性格の人でどんな仕事をしているのか、どんな家族構成かさえも大体分かってくる。
時々、つい耳をそばだててしまいたくなるような波瀾万丈な昔話や噂話が始まることがあり、続きが気になって全身汗だくになりながらサウナ室に居座りたくなることもしばしばだった。

その人達と全く会わなくなってしまった。
こちらの足が遠のいている間に、彼女達にも生活の変化があったのだろうか。
コロナ禍で暫く休止していたサウナが再開した時にも、壊れていたストーブが直ってリニューアルした時にも、
私が小さな手術をして退院後サウナを自粛していた時にも、久しぶりの再会を喜びあったのに。
今日も会わなかったな、と見慣れた人たちの姿がないことを少し寂しく感じる。

名前も知らない。もちろん連絡先も知らない。おそらく服を着て化粧をしていたら道ですれ違っても気づかない。見慣れるほどによく知っているのはお互いの寛いだスッピンの顔と裸の輪郭だけ。

不思議な縁だと思う。
互いの最も無防備な状態しか知らない同士。

Twitterの中で知り合った、会ったこともない誰かの方が、身内や旧友よりも本音を打ち明けやすいと感じる時がある。

「本当の私を知って欲しいし、
あなたのすべてを分かりたい」
みたいな心構えの人に対して心を開ける気がしない。
昔は私もそんな風に人を好きになったが、そういう恋愛はたいがい次第に上手くいかなくなった。

どんな場面の私も私だし、私が見ているあなたの一面が私にとってのすべてでいい。
そう思えるようになってからの方が、サウナでしか会わない人のこともなんだかちょっと大切に思えてくるから面白い。

裏も表も、一部も全部も、すべては曖昧に溶けているのがいい。サウナで放心している時、よくそんなことを考える。
近づいて交わってやがて時期が来て離れて見えなくなっていく時も、潮目に逆らわずゆらゆら漂っていたいと思う。

タカラジェンヌと倖田來未。
また会えるだろうか。

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