小説を書くことー22(A)

真司(私とシエンの間にできた息子)の頭上にピストルをちらつかせ、あんた、もし何も言わなかったらこいつの命はないぜ、と男はわめいていました。

おい、ちょっとその物騒なものをしまえ。と親分のような男がピストルをちらつかせている男に命令をしました。

どこからか、私たちが3度目のジャックポットを的中させたというようなことを聞いてきたようです。3度目のジャックポットから7年ほどたっていました。その週の土曜日のジャックポットは日本円換算で50億円近く増額されていました。いわゆるロトフィーバーのような感じで、テレビのニュースでやっていました。

私たちは2度的中させたジャックポットで、それなりに裕福な生活を送っていました。私もシエンも拘置所に再び入ることなく、ロトにはもう手を出さないようになっていました。もし的中させても、3度目が支払われないのに、4度目を支払われることはありません。それに的中させることのできるスマホは金づちで粉々に破壊して、ライン川に放り投げています(このことはシエンには言っておりませんでした)

年は60くらいのサングラスをかけた恰幅の良い男、修羅場をくぐり抜けてきたのか、頬にナイフで切られたかのような跡があり、小指が欠けていました。総勢5人で私の家に乗り込んできたのです。何れも、いかにも典型的な日本のやくざという感じです。

「澤さん、俺たち別に手荒なことをしに来たのじゃない。ある男から、あんたらが3度ジャックポットを当てたと聞いたの。それで、その秘訣を教えてもらったら、と思ってきたの。ドイツくんだりまで来て、事件を起こしたくないし、穏便にその番号を教えてくれれば、私らは何もせずに帰りますけん」

シエンが何を思ったのか、「じゃあ分け前半々で、どう」と口をはさんできました。さっきまで、真司の頭上のピストルを震えながら見ていたシエンとは思えません。

シエンにとっては、彼らが現れたのは案外渡りに船だったかもわかりません。というのは、時々シエンは誰か人を使って、ジャックポットに手を出したい、というようなことを言っていました。その誰かは、信頼のおける友人とか親戚なのですが、やはり、調査されて、私たちとの関係がわかれば、どういう風になるかわかりません。それこそ今まで当てた2度のジャックポットの返還を求められるかもわかりません。

意外なことはその親分は「じゃあ10%でどう?」と言ってきたことです。

シエンの顔は別に意外なことを聞いたというような顔でもなく、どちらかと言えばビジネスライクな顔で、ちょっと待ってと言って、ジャックポットの10%を支払うことという文章を書いて、親分にサインを求めました。

もしまだスマホが手元にあるのなら、すべてウィンウィンで問題はないのですが、肝心なスマホはライン川の底です。

「セン、じゃあ、スマホ」とシエンは表情を変えずに私にスマホを出すように聞いてきました。

                          ー続くー










ドイツ生活36年(半生以上)。ドイツの日常生活をお伝えいたします。