小説を書くことー5(B)

僕はまた停留所に立っていました。3日目やはり彼女を赤い服(レインコート)を着て、停留所の、かなり後ろのほうに立っていました。

妻の言ったように、他人の空似、としか考えることができませんが、もう一度最後の確認です。

昔の同僚でも、30年位前ですから、僕の顔もかなり変わっています。あの当時、もう少し、髪の毛もありました。あの当時と違うのは鼻の下と、口の周りをつないで顎髭を生やしたことでしょうね。

その顎髭も、頭の頂に散在する髪の毛もほぼ真っ白になっています。幾分僕は大胆になって、彼女の前まで行って斜め越しに彼女を見ました。少し受け口気味で、あの当時かなり赤い口紅を使っていたのですが、やはり唇には濃い赤が塗られていました。全体的に赤の好きな女性だったようです。

ちょっと変わっているのは、周りの乗客がほぼ全員スマホをいじっているのに、彼女は何も持っていなくて、手持ち無沙汰に立っていて、時々近くに立っている乗客のスマホをのぞき込んでいました。

話しかけようとしたときに電車が侵入。僕は列の最後尾について、彼女のあとから電車に乗り込みました。

2駅目に僕の住居があります。ドアの近くに立っていた彼女に、降りる間際に”グーテンターグ”と言って彼女に声を掛けました。僕のような老人の常で、時々のどを詰まらせ、鶏が絞められているような高い声しか出ませんでした。スマホの代わりに彼女は本を読んでいて、僕のほうを気味悪そうに見て、本に再び目を落としました。これが、僕が最後に見た彼女でした。

家(12世帯ほどの入っているビル)の階下にある通路横の郵便箱を開けて、手紙をつかんで、2階の我が家に戻りました。妻のいる気配を感じることはできませんでした。寝室のダブルベッドには、私の寝る側に靴下、服、どこからか送られてきたパケット等が散乱していました。こういう状態の時に僕の口癖になっている「働いてよ!」から初まる口論を避けることができるので、彼女がいるのもよし悪しです。

昨日ひとわたり、食器の類を洗ったのですが、また同じようにシンクの中に汚れた食器がたまっていました。

以前僕がnoteに”ファウラーザック(怠け者)ー続き”という記事を書きましたが、何を書こうが、何をしようが、僕の妻は変わることなく、怠け者のまま一生を終えるような気がいたします。僕も皿洗いのまま一生を終えるのです。

とりあえず手紙です。妻のあて名が書いてある手紙があれば、大体は請求書か、督促状で、それも口論のもとになります。今回は2通ほど妻のあて名で衣料関係、大特価50%引き、もう1通もWeb関係の大特価です。妻はこの大特価に弱く、いらないもの(すでに所有しているもの)を買ったりします。

年がら年中大特価なので、お金がないから買わないで、と言ってもこれがチャンスとばかり、購買いたします。妻がいないのを幸いに、机の下の紙専用ごみ箱のカートンボックスの中にコマーシャル関係を捨てました。嗅覚の良い妻は、時々、ごみ箱を除いて、大特価を探し出したりしますが。

残りの1通は私宛です。

イギリスからの手紙?

                            ー続くー








ドイツ生活36年(半生以上)。ドイツの日常生活をお伝えいたします。