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78歳の母が語ったシニア教育の課題と人間は生涯成長できるという教え

新春対談っぽい見え方にしましたが、年末年始いっしょに時間を過ごしたこともあり、めずらしく真面目な話をしたので敢えて大袈裟なタイトルとさせていただきました。

私の母は四国高松で一人暮らし。私が1歳半のとき父と離婚、その後、女手一つで私を育て、73歳まで地方の中小企業役員として"仕事"に人生を捧げてきた人です。そう簡単には超えられない人物です。盆と正月、あるいはGWなど年に数回は遊びにきて都会の刺激を受けて帰ります。年末は渋谷パルコを堪能しました。

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そんな私の母(現在78歳)は昨年(2019年)春から「かがわ長寿大学」に入学し、いわゆる生涯学習的に取り組んでいます(入学時は77歳)。そんな大学生活の話を中心に人間の生き様とか人生観など、めずらしく真面目に話したのでnoteに書こうと思った次第です。しばしお付き合いのほどよろしくお願いします。

まずは「かがわ長寿大学」というのがどんな学校か簡単に説明します。サイトがいつの時代だ?と思わせるようなものですがご愛嬌でお願いします。

どういう大学なのか?

本学は香川県に在住している満60歳以上なら入学資格があります。

平成元年開学。開学から実に30年以上の歴史があります。1学年192名定員の2学年制、結構な学生さんがいらっしゃいます。応募は毎年300人以上とのことで倍率が高く、私の母は2年待ちました。
香川県がオーナー、公益財団法人かがわ健康福祉機構が運営。学長は香川県知事、授業は香川県の保健福祉施設で行われます。

授業料:年間25,000円
授業は年間24回(だいたい月に2回行われます)夏休み、冬休みあり。
入学式、卒業式、文化祭(阿波踊り、デザイン制作、歌とか踊りを発表)
授業は1コマ90分(午前1コマ→お昼休み→午後1コマという流れ)

どんな授業を受けているの?サークルなんかもある?

郷土史(つまり讃岐の歴史)、民俗学、考古学、社会、文化、福祉、政治、防災、法律(相続)、パソコンなどです。
単位は70%取得で進級できますが、もちろん留年もいるし、病気、死亡などの理由による退学者もいらっしゃるそうです。最高齢はおそらく92歳(小豆島のそうめんブランド「島の光」の会長)ということで。あ、リンク貼っておきます。

サークル活動も盛んで、24種類もあり、うちのお袋は趣味人サークル(何をやっても良い緩いサークル)に入っているそうです。私が大学時代によく存在していた何でもやるテニスサークルみたいな感じか?と聞くと、「ちょっと何言ってるかわからない」とサンドウィッチマンのような返答でした。
そのほかには音楽(鑑賞と演奏の両方ある)、料理、パソコン、詩吟、みたいなのがあるそうです。
活動費は別料金(実費)。体験や見学に行くのには費用がかかるのが難点だと(ちょっとした遠足みたいなもので県外にも行くそうです)。公式の課外授業の場合は授業料にインクルード。

教える側と生徒はどんな人たち?

教える側の先生は、現役の大学教授、講師、元教師、元教授などさまざまいらっしゃるそうです。
学生の人数は上述した通り、1学年192名、男女比 45男性:55女性です。
母曰く「3割くらいはコミュニケーション取れないおじいちゃんとおばあちゃんがいるかしらね」と。居眠りばかりで何しに来てるの?という方も若干いらっしゃるそうで(笑)
とは言え、みなさん概ねイキイキとしていらっしゃるようです。ゼミのようなものはないけど、班で動くことが多く、班内で交友関係ができます。よくいっしょにランチしている方は一回り年下(65歳)の女性の方でお金の話や孫の話をよくしていたり(病院の待合みたいな感じと母が申してます)。

自身が知りたいことと長寿大学授業のギャップ

母は好奇心と知識欲が旺盛な人で、大学でもおそらく懸命にいろんなことを学ぼうとしています。先日はワードを使ったサークル活動のチラシ制作に奮闘してました。そう、最近までビジネスウーマンだったため、Office系ソフトを使えます(ワード/エクセル、パワポは少しかじり始めました)。それが仇となり、学校事務局のサポートをやることになったりしています。
そんな日々を送っている母が楽しそうと映っていたのですが、実はこういう言葉が出てきました。

"専門性の高い授業は大歓迎ながら、内容がいささか古い"

経済学といっても、マルクスやエンゲルスなどを知りたいわけではない。今の経済情勢はどうなっているのか、世界的にみて金融市場はどう動いていくのか?文学であれば、古典ではなく、現代文学、とりわけ芥川賞や直木賞を受賞する作品はどこが評価されているのか。この年齢になって古い文学を教えてもらっても何の面白味もない。だからこそ、いまこの時代に流行っているものやその理由が知りたい、と。
古い学問を否定するのではなく、そうした時代を経て、現代経済はどのように変化してきたのか。文学も、散々読んできた日本の純文学から今の人たちに刺さる文学のアプローチ手法は何なのか?

"私はプロセスが知りたい"

少し脱線するが、最近流行りの小説家の書く文章は、楽しく読ませることには長けているが、文学というには程遠いし、重みのある文章力という点においては力強さが足りない。つまり、貪(むさぼ)るように読みたくなる文章が減ってきていると思っているそうだ。

教える側のナレッジが古臭いまま時が止まっていて、アップデートされていないのが課題なのではないかという。
もちろん、専門性の高い学問に励んでこられた方々がそのプロフェッショナルな視点で高度な教えを提供してくれているのだが「如何せん古い」

"私は昔のことより、知らないことを知りたい"

そんじょそこらのおばあちゃんとは違う視点

母は言う。
「AIのことやAR/VRは何なのか?私が生きている間にちゃんと体験できるものなのか、それならわかりやすく教えて欲しい。」
「ベンチャー企業はなぜ上場を目標にしたがるのか」
「働き方改革とは本当のところいったい何なのか?誰が得するのか?」

こういうことを疑問に感じ、100点の答えは必要ないかもしれないが、生きている間は、世の中の動きを知ることが大切なのだ、という。まったく恐れ入る。

LINEスタンプを買ってみた

日付変わって元旦になったとき、同級生や大学の友人からLINEでお正月のメッセージが届いた。すると、友人からのスタンプメッセージを私に見せ「こういうスタンプを使いたい」と言う。これは有料だと説明すると、120円ぐらいなら良いということで、さっそく有料スタンプを買ってみる体験をしてもらいました。
むろん課金方法なんてわからない。ひとまずやらせてみて、詰まったところで私が教えながら何とかスタンプを購入。78歳、アプリで課金を体験!
そして、ここからがまたおもしろい。母の贈ったお正月挨拶スタンプを見た同級生が「楽しそうなスタンプをありがとう、私も息子に教えてもらって買ってみました」と同じクリエイターのスタンプを買って贈ってきた。まさにリアルクチコミ。こうした体験がまたLINEを使うことの楽しさのひとつと理解したようだ。その後何度かスタンプ送られてきましたw

いくつになっても成長はできる

80歳超え、カラダが衰えても頭が聡明ならいつまでも勉強はできるし、インプットを続けられる、そう母は言う。
この貪欲さ、見習わないといけない。
既述した通り、かがわ長寿大学では、専門性の高い著名な講師も呼ばれて講義をしてくれるそうだが、だいたいギャラが合わない。もっともっと「今」を知りたい。ボランティアでいろんなことを教えてくれる人がいたら助かるのに。そう言われて、私が「今」のいろんなコトを教えようかと言うと「うーん、あんたじゃねぇ…」という表情で苦笑していた。
私が母とこうした話をしていて感じたのは、あまり若い人が来てもおそらく話がわからない(伝わりにくい)。
40代や50代がわかりやすく通訳し、60代、70代、80代に教えていかねばならないのかなと。何ができるのかわからないのですが、母が大学に通っている間に少しでもお役に立てたらと真剣に思うようになったのは事実。私の勉強にもなるでしょうしね。一度、授業を見学に行きたいと申し出をすることにしました。

最後に。母は年末に本屋で一冊の本を買っていた。本屋に行く道中「◯◯の新刊は最近出てないの?」と訊ねてきたが私は知らなかった。結局何か見つけて買っていたようで、時間を見つけては読書をしていた。
ある時「これは私にとってもおもしろいけど、あなたが読む方が断然良いかもね。」と言った。それは「人工知能」という小説。著者は妻の叔母。なんというか本当におもしろい母である。

身内の話ですが、最後まで読んでくださってありがとうございます。人間誰だって老いるのは怖いでしょう。この正月は母を見て、話して、人間はいくつになっても成長できるもんだなと思った次第です。こうした学習意欲の高いシニアに対して、どういうコンテンツを提供できるのか、デジタルへのリテラシーが割と高い世代がこれからシニア化していく時代の生涯教育にいろいろ課題が見えたおふくろとのコミュニケーションでした。
本年もよろしくお願いいたします。