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オタクは経済を回しているのか?

ここ最近、Twitterで「オタク経済回転論(通称OERT)」が人気です。

「オタク経済回転論とは何ぞや」という方もいると思うので、彼らの主張が分かりやすくまとまった画像を紹介します。

この30年の不景気でも消費をやめなかったのはオタクだけ

オタクをバカにするな。
我々がいなかったら
いまの日本は、もっと不景気だぞ。

要約すると

「日本経済を支えてきたのはオタクであり、我々がいなければ日本経済は成り立たないぞ」

と言っているわけです。

Twitterでは、このようなオタクの肥大化した自尊心と強過ぎる承認欲求が生み出した自画自賛にも程があるこっ恥ずかしい主張が何のツッコミも受けずに拡散され、何万もの「いいね」が付くことも珍しくありません。

この記事では、そんなオタク経済回転論について長々と語ります。


1.初期のオタク経済回転論は自虐ネタの一種だった

自分は中学3年生(2013年)から本格的にネットに触れ始め、かれこれ8年程そこかしこの電子掲示板やSNSを漂流してきましたが、オタク経済回転論がオタク界隈で自画自賛に利用されるのを頻繁に見かけるようになったのは、ここ数年のような気がします。

それより前の時代にオタク経済回転論が無かったわけではありません。

少なくとも自分は高校時代(2014〜17)のどこかでオタク友達と「経済回してるね」的な内容の会話をした記憶がありますから、オタク経済回転論が昔から存在していたのは間違いありません。

しかし、当時のオタク経済回転論は現在主流のものとは異なり、自虐要素の強い内容でした。

「同人誌に○万円、会場までの交通費も含めたら1日で○万円も使ってしまった。欲しかったものだけど手痛い出費だな……。まぁでも、自分が払ったお金は好きな作家さんの収入になるんだし少しでも経済を回せたなら良いことじゃないか」

「推しのSSR欲しさに○万円も課金したのにガチャ爆死した……。悔しいし腹立つけど運営の利益に貢献して経済を回したと思って無理やり納得するしかない……」

上の2つはあくまで例え話ですが、オタク経済回転論は浪費癖のあるオタクが自らの行動を「経済を回している」と言い換えることで無駄遣いを正当化する方便として使われるのが一般的だったように記憶しています。

かく言う自分もコロナ前は年に3回ほど東京都内で行われる同人即売会に行くのが恒例になっていたのですが、地方からの参加ということもあって往復の交通費が2万円もかかっていました。

それだけの金額を払って行くのに現地で1万円しか使わないのではバカバカしいと考えた自分は同人誌やグッズを最低でも3万円分は購入するようになり、浪費がますます加速した経験があるだけに、無駄遣いに何かしら理由をつけて正当化しようとする気持ちは痛いほどよく分かります。そうでもしないとやってられないので。

しかし、そんな悲しい言い訳はいつからか「オタクが日本経済を支えている」という突飛な主張に変化していきました。

オタク経済回転論が何故、そしていつからこんな意味不明な方向へと飛躍していったのか、はっきりとした経緯は不明ですし気付いたらそうなっていたとしか言いようがなく、その辺の歴史については深く掘り下げるつもりはありません。

そんなわけで、ここから先も「今のオタク経済回転論って何かおかしくない?」的な内容が続きます。


2.経済を回しているのはオタクだけではない

自分はオタク経済回転論に否定的な立場です。

とは言っても、別に世の中のオタクが全く経済を回していないと考えているわけではありません。

より正確には、現在主流の「オタクだけが日本経済を回している」というオタク選民思想とでも呼ぶべき主張に強烈な違和感を覚えるのです。

記事冒頭で紹介したツイートはその典型例で、初っ端から「この30年の不景気でも消費を止めなかったのはオタクだけ」というWikipediaにでも書こうものなら速攻で要出典タグが付けられそうな根拠不明の内容から話が始まっています。

しかし、このように身内を過剰に持ち上げるオタク選民思想は「恥ずかしい」「気持ち悪い」と感じる方も少なくないようで、オタク界隈内外から様々な批判に晒されています。

これらの指摘は極めて真っ当なものです。

オタク経済回転論において「経済を回す行為」として扱われるのはグッズの購入やアニメ舞台地への訪問(いわゆる聖地巡礼)、ソシャゲガチャへの高額課金といった行為です。

これらは好きな作品や制作会社への還元、すなわち「経済回転」を目的に行われるもので、オタク用語では「お布施」とも呼ばれます。

でも、これって「経済回転」とか「お布施」とかいう言葉で表現するから特別なことに聞こえるだけで、肝心の内容は別にオタク特有のものではありませんよね。

グッズ購入は単なる買い物ですし、聖地巡礼は旅行、ガチャ課金はギャンブルです。

3つとも全て、オタクか否かに関係なく程度の差こそあれ殆どの人が日常生活の中で当たり前のようにやっていることでしかないのです。

そんな当たり前の消費活動をオタクだけが「経済回転」と表現し、さもオタクだけにしか出来ない特別なことのように大袈裟に語って自画自賛のネタにしているわけで……

なんか、そんなことでイキリ散らすのって、めちゃくちゃ恥ずかしくないですか?


この30年の不景気でも消費をやめなかったのはオタクだけ?

この30年間、日本ではオタク以外は買い物も旅行も禁止されていたんですか?って話ですよね。

ところで、オタクにはオタク以外の人々を「一般人」と呼ぶ風潮があります。

正直言ってこの表現はオタク選民思想っぽくて個人的にはあまり好きではないのですが、分かりやすいので使わせてもらいます。

話を戻しますが、この30年の不景気でも一般人は消費をやめていたわけではなく、オタク趣味とは別のことにお金を使っていただけで、ちゃんと「経済を回して」いたんです。

というか、オタクの皆さんだって生まれた時からオタクだったわけではないですし、保護者も大抵の場合は非オタク層の一般人だったはずですが「オタクになる前の自分や家族は消費活動を一切していなかった」なんてことはありませんよね。 

子どもが生まれて玩具や服を買ったり、家や車を買ったり、その車で旅行に出かけたり、道中でファミレスに立ち寄ったり……
これらはオタク活動とは程遠くても、立派な消費活動であり経済を回していることには変わりありません。

家庭を持つ一般人が家族のために使う分のお金と同じ額を独身のオタクが趣味に注ぎ込んでいたとして、それを「オタクは一般人よりも経済を回している」と解釈するのは間違いです。

このツイートにいいねを付けた2万1千人の皆さんに訴えたいことがあります。

そろそろ「経済を回しているオタクは一般人とは違うんだぞ」と声高に叫ぶオタク選民思想から脱却しませんか?

そして、現実を謙虚に捉えて「オタクも一般人と同様に経済を回している」と主張するオタク平等主義に転換しましょう。

オタクが30年消費をやめなかったからなのかどうかは定かではありませんが、オタク文化の浸透はオタクと一般人との間に築かれていた高い壁の大部分を取り払い、冷戦を終結に導きつつあることは事実です。

せっかく終わりかけた冷戦をくだらない選民思想でふいにするよりは、素直に平和共存の道を歩んだほうが良い気がします。

あと、風呂にはしっかり入って水道メーターも回しましょう。


3.「経済を回せば回すほど偉い」は正しいのか

オタク経済回転論の根幹を成す価値観の1つに「経済を回せば回すほど偉い」というものがあります。

資本主義の世の中に生きていると、これが正しいようにも思えますが……

喫煙者「この30年の不景気でも喫煙者はタバコを吸うことで非喫煙者よりも多額の税金(タバコ税)を納めてきた。喫煙者をバカにするな。喫煙者がいなければ日本の財政はガタガタだぞ」

例えば、こんなことをTwitterで主張しても「その通り!喫煙者は素晴らしい!」と賛同する人は少数派でしょうし、恐らく逆にバッシングされますよね。

しかしながら、オタク経済回転論の本質はこれと大差ありません。

オタク経済回転論においては「経済を回せば回す者ほど優れており、目的が何であれ好きなものに金を出すことこそが不変の正義である」とされています。

例のツイートもだいたいそういう内容ですし、2万人のオタクからの賛同も得ています。

しかし、近年のTwitterでは、概ねこの主張に沿った経済活動を行っているにもかかわらず、何故かオタクからの嘲笑とバッシングに晒されている界隈が存在します。それが……

今、Twitterで密かなブームを巻き起こしているテスラ缶界隈です。

テスラ缶とは何なのか?

分かりづらい用語や面倒くさい科学的知見を省いて超簡単に説明すると、金運がアップするネックレスや幸運を呼ぶ壺といった類の「インチキ商品」の1つです。

テスラ缶なる名前に反して中身は電気や磁気と何の関係もない「ただの石」が入っているだけらしく、購入者をナメているとしか思えないお粗末さにも驚きますが、もっと驚くのがその価格。

なんと、250万円。

宝くじなら充分に高額当選と言える金額ですし、1冊500円の同人誌なら5000冊も買えてしまいます。

そんな強気な価格設定のテスラ缶ですが、一部のコアな層にはしっかり売れているようで、こちらの画像の方は小さいのを5つ購入したようです(値段は不明)。
大きさで効果の違いとかがあるんでしょうか。

さて、そろそろ本題に戻りますが、個人的にはテスラ缶界隈とオタク経済回転論は相性抜群だと思っています。

「テスラ缶なんかを信じてるバカと30年も日本経済を支えてきた我々オタクを同列に扱うな!」とお叱りを受けそうですが、とにかく先を読んでください。

前述の通りオタク経済回転論には「目的が何であれ好きなものに金を出すことこそが不変の正義である」という価値観が存在します。

頭に「目的が何であれ」と付いているのは、ガチャ課金による爆死やグッズの大量購入といった世間一般で「無駄遣い」として一蹴されるような行為すら、オタク経済回転論者は「推しやコンテンツへの愛情」を理由に肯定的に捉える傾向があるからです。

これは、現在のオタク経済回転論が元々は無駄遣いの言い訳から発展したもの、という話とも繋がります。

そんなわけで、オタク経済回転論とその支持者は「理由ある無駄遣い」には極めて寛大な思想を持つはず……なのですが……。

何故か、本当に不思議なことに、彼らはテスラ缶を「健康になれる」と信じて自らの意思で250万円もの大金を払って購入している人々を嘲笑の対象にしているのです。

「テスラ缶はただの石なんだから、そんな物を買う奴をバカにするのは当然だ」と考える方もいるかもしれません。 

では、ソシャゲのガチャ課金はどうでしょう。

あれって、お金を払っても得られるのはただの絵ですよね……。

でも我々は、そんな「ただの絵」に価値を見出して、それを手に入れるために当たるかどうかも分からないガチャに決して安くない金額を投じてしまっているわけです。

物の価値、すなわち価格が妥当か否かを最終的に決めるのは消費者であって、オタクが推しのSSRや希少なアイテムに価値を認めてiTunesカードやGooglePlayカードに手をのばすことも、スピリチュアルな人々が不思議なパワーを求めてテスラ缶に大金を投じることも、本人が納得しているならば問題はありません。

何故なら、「目的が何であれ好きなものに金を出すことこそが不変の正義である」からです。

さらに、テスラ缶界隈はたかだか数千〜数万円程度のガチャ課金を遥かに超える250万円もの大金を出してしまう人々の集まりなのですから「経済を回せば回すほど偉い」という価値観の中では、彼らは最も尊敬されるべき地位にいることになります。 



屁理屈はここまでにしておきますが、こうしてテスラ缶界隈を例に挙げて考えてみると

「経済を回している=偉い」ではない

という至極当然の結論に辿り着きます。

例のツイートには「自分たちが好きなものを買い支えたらいい」とも書かれていますが、いくら好きだと言ってもテスラ缶を10個も20個も集めて買い支えている人がいたら、それは確かに活発な消費活動ではあるものの「素晴らしい」とは言い難いですよね。

そして、好きなものを買い支えるのは結構ですが、払うべきお金はちゃんと払いましょうね。


4.オタクはどれくらい経済を回しているのか

オタク経済回転論についてあれこれ書いてきましたが、実際のところオタクはどれくらい経済を回しているのでしょうか?

2万人が賛同した大人気のツイートによれば、オタクは「この30年で唯一消費をやめなかった」とのことですから、きっと日本経済を支えるほどの巨大な市場規模があるに違いありません。

早速、市場規模マップを開いて我々オタクの力を確認してみましょう。

まずはマップ全体から。

あれ?

オタクっぽいワードが見当たらない……。

自動車・同付属品製造業?建設? 
本来ならばそこには何らかのオタクコンテンツの文字が入るはずなのだが?

30年も消費をやめなかった我々オタクをも凌ぐとは生意気な連中め……貴様らの市場規模がどんなものか確認させてもらおうではないか。

自動車・同付属品製造業
市場規模∶72.3103兆円


完全無視。

さすがにマップ全体で勝負するのは無理がありました。

市場規模を10兆円未満にしてみましょう。

おっ、それっぽいのが出てきましたね。

ただ、これは我々のガチャ爆死で栄えるゲームはもちろん地図アプリやレシピ検索等も含めた幅広いモバイルコンテンツの収益を合計したものなので、オタクだけの力によって支えられているわけではないようです。

5兆円未満に設定すると、さらにオタクっぽいものが出てきました。
オンラインゲームの市場規模は1.3兆円だそうです。

ただ、こちらも「オンラインゲーム」という単語がカバーする範囲が広大でオタク以外からの収入もそこそこありそうなのが気になるところですが……。

ちなみに、昔のオタクが嫌っていたパチンコの市場規模は3.2兆円だそうです。

5000億円未満まで下げるとポケモンが出てきました。

単体で1067億円です。

オンラインゲームもポケモンも凄いっちゃ凄いんですが、もっと一般人が触れないようなオタク限定のコンテンツの市場規模はどうなんでしょうか。

何せオタクは30年も唯一消費をやめなかった日本経済の柱なんですから、きっと物凄いのがあるはずです。

そんなこと言ってるうちに額がどんどん小さくなってきましたが……。

市場規模1000億円未満で、ついに「同人誌」が出ました。

これは間違いなくオタク単独の力です。
証明写真や豊胸手術に負けてるけど気にしない。

こうなると、同人誌以外のオタクコンテンツがどこにいるのかも知りたくなりますね。

もっと下げてみましょう。

おお!これまでで一番オタク臭いぞ!

アダルトゲーム、声優、ライトノベル、ドール、鉄道模型、サバイバルゲーム、ボーカロイド、アイドルマスター……

市場規模200億円未満は濃いめのオタクしか触れないようなコンテンツの名前で溢れかえっていました。

これは結構凄いんじゃないでしょうか。

なお、毎年節分の時期になるとネット上でバッシングが盛り上がる「恵方巻き」は市場規模214億円でした。

経済を回せば回すほど偉い理論を採用すると、憎き恵方巻きは主たるオタクコンテンツよりも“上”ということに……。


【お詫び】

Twitterのフォロワーさんから「市場経済マップの上位には基礎的支出関連または金融、投資と密接な産業、社会インフラ系が多く、その他の業界と単純に比較すべきではない」というご指摘をいただきました。
「選択的支出の経済効果を可視化するには市場規模の比較ではなく消費者側の支出弾力性を見るべき」とのことです。

Twitterでこれまで散々バカにしてきた「素人が専門外の内容を雑に扱ってプロから真っ当な指摘を受け恥をかく」というムーブを自分がやらかしてしまいました。

自戒の念を込めて、記事の内容はそのままにお詫びを追記することにします。


5.総括

今回の記事のポイントをまとめます。

①「オタクは経済を回しているが、日本経済を支えているわけではない」

②「オタクが経済を回しているのと同じかそれ以上に一般人も経済を回している」

③「経済を回せば回すほど偉いというわけではない」

④「オタク経済回転論で自画自賛するのは恥ずかしいからやめたほうがいい」

⑤「コミケやイベントに行く前には散髪・爪切り・洗濯・入浴を忘れずに」


最後に

この30年の不景気でも消費を止めなかったオタクの皆さん。

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※筆者は上記のいずれの団体とも関係を持ちません。

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