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自分が自分でいるための、無駄だけど大切な出費

 ちょっと、やらかした。何がというのは察してください。
 やらかしたことに後悔はないし、むしろそのおかげで心が楽になれたのだけど、同時に大事なことを思い出して自滅した。

 実家に戻ったのは、病気を治して自立するためだった。東京でもできることだとは思うのだが、私は色々な縁に引かれて実家に戻った。
 結果として、それは良い判断だったと思う。リウマチと診断されたものが実はSAPHO症候群で、双極性気分障害もうつ病と誤診されたが故の薬害の可能性が高いと分かったのだ。

 症状が好転するに従い、私は確かに明るくなった。頭もクリアになってきた。だけど同時に、長い間鈍っていた感覚に振り回され、『自立』の意思も動機も忘れかけていたのだ。
 家族は昔と違って温かくて、私を一生分におつりがくるほど甘やかしてくれる。そこにぬくぬくしているうちに、「ここにいるだけでいいや」「このまま過ごせればいいや」と考えてしまっていた。

 気持ちが揺れるような出来事があって、それはそれほどのストレスにはならなかったのだけれど、それでも私のこれまでを考えるには十分だった。私は何のために病気を治療しに帰って来たのか、病んでいない私はどんな人間なのか、『自立』といってもどこまで一人でやるつもりなのか、今の私は誰にどこまで流されているのか。

 何かで心が揺れた時、私がつい買ってしまうものがある。プチプライスのアクセサリーだ。ネックレスや、イヤリングや、指輪や。ピアスは、穴をあけていないので買わないけれど。

 強い自分になりたいと思って、今回はシルバーのイヤーカフを買った。店員が「今ならセールで5つで500円です!」とあまりにプッシュするので、 黒のクロスペンダントとか、樹脂イヤリングとか、色々余計な買い物もしてしまったけど。
だけどこれだと手にしたイヤーカフは、大きな蝶の形をして凛として見えた。

 なりたい自分がこの歳になっても分からない私だが、ずっと頭にあるイメージがある。何色か分からない羽根を広げて、胸を張って空を見上げる、妖精か天使の姿。周りには誰もおらず、一人で巣立とうと決意する強い表情。

 蝶のイヤーカフを、耳にしっかりと押し付ける。少し痛いくらいに、食い込むくらいに。私はいつか、病気を克服して羽ばたきたい。幾つになっていてもかまわない、きちんと一人で生きて、人生を積み上げたい。

 この気持ちを忘れないように、しばらく耳に蝶を留まらせておこう。そして必ず、自分を取り戻して生きていこう。
 まだ私は、最初の一歩すら踏み出していない。

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