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裸足で山を歩きたい

大学4年間腰を据えていた地をもうすぐ去らなければならない私は、近くの低山に全く登っていないことに気がつく。北アルプスそして関東の山ばかりに挑戦し、まさに灯台下暗しというやつだ。

その日は1日で三つの山を縦走する計画だった。朝6時前に家を出て、駅のホームに1分前に余裕を持って着いた。が、なんと早朝で人が少ないのか時間の1分前に電車は去ってしまった。ひと駅で降りて、バスに乗り登山口まで向かう予定だったが、バスの本数も超少ない。それなら、先のバス停まで歩いてバス代を節約しようと歩くが、目の前で乗らなければならないバスを惜しくも逃す。本日2度目の空振り。すでに先行きが不安である。さらに30分後、目的のバスに乗るも何とスイカが使えない。手持ちの現金は460円。目的地まではその倍以上かかる。しょうがなく、460円で行けるとこまで進もうと、前方の電光料金表を見つめる。「よし、3駅ごとに30円ずつ上がってる」と、余裕をかましているのも束の間、突然40円上がった。既にパニック。さらに今度は二駅ごとに値段が上がりだし、さらに追い討ちをかける。こんなにドキドキしてバスに乗ったのは生まれて初めて。規則的な何かを信用できなくなった瞬間だった。

無事、バスの運賃計算の難問をクリアし、予算以内でバスを降りることができた。無事とは言え、スタート地点の登山口までおよそ4キロある。駿河湾沿いをなぞるように歩き、太平洋からの風は体温を奪っていく。

今回は、ほとんどリサーチなしでのハイクであった。それが色々と計画を狂わすことになったのだが、なんと楽しいことか。地元の人達に助けてもらうことも多々あった。

午前9時半。やっとスタートラインである登山口を出発した。ひとつ目の発端丈山は、おじいちゃん家の裏山を歩いているような気分だった。今回は、フィールドワーカーになったつもりで足元に注意を払うようにした。

今回の冒険を共にしたパートナーは、植物博士だ。街を歩いていても、気が付けば数十メートル後ろで立ち止まり、何やら真剣そうに植物と睨めっこしている。毎回、家を出たら植物の名前とその特徴など、彼女が幼い頃おばあちゃんから教わった事を私に教えてくれる。

そんな彼女も知らない植物に出会った。どんぐりの様なふっくりした実ではあったが、その実は燃えるように赤かった。

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11時前に平坦な広場のような所に到着した。大きな桜の木が中央にずしんと構えていた。その木のそばで、根を枕にし横になった。体全身で感じる土の冷たさ。あまりにも気持ち良く、そのままずっと横になっていたかったが、先を急ぐことにした。

さらに歩くこと30分。発端丈山山頂に到着した。駿河湾、そして富士山。太陽の温もりも気持ちよく、大の字で寝転んでそのまま眠りにつきたくなった。だが、まだ先は長い。

次は、葛城山を目指して歩みを進めていった。体力もまだまだ余力があり、得意の下りを駆け降りてゆく。この山は、以前2度訪れたことがある。といっても、ロープウェイだったため自分の足で登るのは今回が初めてだ。何より一番ショックだったのが、五徳を忘れたことだった。特に寒い時期のハイクでは、温かいものを食べられることほど幸せなことはないのだが、、、。早朝から握ってきたおにぎりを口いっぱいに頬張った。

葛城山山頂は、学生の春休みシーズン真っ最中だからか賑わっていた。カフェや神社、足湯までもある。パートナーが先程の下りで膝を痛めたため、ここからは一人で城山に向けて発った。

それは突然私を襲ってきた。

どうか安心して欲しい。熊ではない。

裸足で山を駆け抜けたい衝動が私を襲ってきたのだ。なんとも人間らしい靴というものを脱ぎ捨て、大地を素足で感じたくなったのだ。以前、江ノ島を裸足で歩き回った事があったが、ここは山道。登山客に向けて整備されているとは言え、裸足であるけば痛いに決まっている。先程、発端丈山で桜の木の根を枕にして寝転がった時も、直で大地を触れていない。なんだか急に偽物な気分になってきた。

その時から、裸足で山を駆け抜ける日を夢見ている。


山で裸足の人とすれ違ったらそれは間違いなく私だ。どうか、温かい目で見守っていただきたい。


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