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舞台『AGASA』感想


AGASAとは、参加者が本人役としてミステリーの世界に入り 事件の犯人を推理する新たなミステリープロジェクトです。

AGASA公式サイト


AGASAという、芸人さんを集めて行う、生の舞台でのマーダーミステリーを見てきた。

今回の舞台に関して、誤解を恐れず率直な感想を言うと、「めちゃくちゃ面白かったけど、期待してたものとはちょっと違った」になる。

まず何が面白かったかと言えば、当然、芸人さんたちのやり取りである。

本人役で推理し合うという設定上、全員がメタとコントの狭間で揺れ動くのが、本当に笑えた。

特に、狩野さんが全力でコントに振り切ってくれたおかげで、その他のメンバーが狭間を行き来しながら、ツッコんだりボケたりを繰り返すのが本当に絶妙で、めちゃくちゃ面白かった。

以下、参加者それぞれの感想。

①サーヤさん

まず、ずっと呂律が回ってなくて怪しすぎるサーヤさんが、ガチで泥酔してただけという、とんでもない狂人ムーブをかましてたのが、面白すぎた。
見かねたスタッフさんが、公演中に水を持ってくるという、ハプニングが起こり、めちゃくちゃ推理をかき乱していたので、最後のネタバラシの中で、ガチ酔ってただけと分かった時はたまげた。
でも、終始狂人かと思いきや、スマホの仕組みにとんでもない早さで気づいたり、所々で鋭さを見せるのが流石だと思った。
なので、サーヤさんがちゃんと素面で舞台に臨み、圧倒的な知力で男どもを蹴散らしながら、颯爽と事件解決していくという筋書きも観たかったという気持ちがある。
期待しすぎちゃって申し訳ないが、第2回もあれば是非出て欲しい。

②狩野さん


狩野さんは、1番マーダーミステリーの世界観の中に入り込んでいたのが良かった。
中でも、各々が推理を披露するパートは、狩野さんの独壇場だった。スポットライトを浴び、コナンのオープニングのトーンで流暢に話し出したかと思いきや、肝心の中身はゼロという完璧なフリオチで、腹ちぎれるくらい笑わせてもらった。
ストーリーの中では、頓珍漢すぎて他の参加者に無視さたりなど、ずっとポンコツなのかと思いきや、仕掛けにいち早く気づいたり、所々野生の勘的な鋭さが現れていたのが面白かった。
ともかく、森田さんの推理に「天才だ!」と乗っかったり、1番世界観を純粋に楽しんでいたのが狩野さんだったので、 見てる側としても1番観ていて楽しかった。

③小宮さん


小宮さんに関しては、ストーリーの中で1番芯食ったことを言っていた気がする。
被害者が脚本家であることに気づいたり、脚本家が何かを見せないために紙吹雪を作らせたんじゃないかと示唆したり、舞台の脚本に「最終稿」があることに気づいたり。
核心に近い気づきを参加者の中で最も生んでいたのは、小宮さんだった気がする。
小宮さんがポンコツじゃないことなど、とっくに皆んな分かっているが、改めて視点の鋭さに惚れ惚れした。
そして、やっぱり咄嗟の一言が面白すぎる。「ドンパチ案件か?」「元暴走族ですか?」「AGASA外!?」など、クリティカルな呟きがいちいちカッコ良すぎた。
あとは、冒頭の語りが余りにも下手すぎて笑っちゃった。これは森田さんにも言えることだけど。

④森田さん


森田さんは、この舞台を引っ張ってくれていた。森田さんがいなかったら、今回のAGASAは成立してなかったと思う。
芸人としての面白さを担保しつつ、ちゃんと世界観に乗っかって、鋭い推理を何度も披露していたのが圧巻だった。
中でも、同録のリプレイを見た際の気づきや、香水を発見した際の推理など、もう少し誘導があれば、マジで最後まで解き切ってたんじゃないかってくらいドキドキさせてくれた。
ただ「犯人は左利き」など、本線に関わらない謎解きも多く、しかも森田さんの言葉に余りにも説得力があるせいで、全員をミスリードしてる感じもあったのが、面白かった。
あとは、単純に立ち回りが面白すぎた。AGASAがポイント制であるということを誰よりも意識し、狡い戦法でポイント稼ぎに走るのが、キャラ通りすぎて好きだった。

⑤酒井さん


最後に、酒井さんは、単純に面白かった。まずそもそも、登場からパンイチで爆笑を掻っ攫ってたのがズルかった。
その後の推理パートでも「まず僕は犯人ではないので、僕を疑う人が怪しい」という元も子もないことを言い出したり、状況証拠を使わずに「こいつが怪しいと思う」という感情だけで突っ走ってたのが、めちゃくちゃ面白かった。そのフワフワした推理のせいで、平子さんに鬼詰めさるというやり取りも、めちゃくちゃ面白くて、生で見れて嬉しかった。
詳しくは書けないが、最後に爆発的な笑いを生んだのは酒井さんのアドリブからだったので、お笑い的なMVPは酒井さんだったと思う。

以上が良かった点。

では「期待してたものとはちょっと違った」のがどこかと言うと、推理パートにもう少しワクワクしたかったな、という点である。

まず私は、推理小説が大好きだし、マーダーミステリーも何度かやったことあるので、最初の観劇スタンスは、「本気で犯人を探しに行こう」だった。

しかし(ネタバレになってしまうので、あまり詳しくは言えないが)、推理の大前提としてまず触れなければならない要素に、参加者がずっと触れないまま物語が進行していくのが、本当にもどかし過ぎた。途中から「お願い!気づいて!!」と願うように鑑賞してしまった。

皆が、推理の本筋に関わってこない「漢字ミスは何なんだ」「ツーマンセルで行動するのはおかしい」などの、些末な要素に惑わされすぎていて、2時間かけて推理がほとんど進展しなかったのが、勿体無いなぁと思ってしまった。

多分、謎解き経験の浅い人達だけで舞台をするなら、もう少し難易度を下げるか、進行役の松丸くんがもっと露骨にヒントを出して誘導していかないと、折角めちゃくちゃ面白いストーリーのエキスが、舞台上で全部出ないんじゃないかと思った。

それか、このままの難易度でやるなら、サバンナの高橋さんなどの謎解き文化に明るい人を出演者に入れないと、推理の1番面白い脳汁が出るところまで、出演者が自力で辿り着けないのかな〜と思ってしまった。実際、謎解きの文化に明るい実況者さんたちのAGASAでは、物語の核心まで辿り着いたみたいだし。

ただ、この超絶手練れの売れっ子芸人さんたちを前にして、面白いやり取りをぶった斬って進行するのは死ぬほど難しかっただろうから、松丸くんは全く悪くない。
役に入って演技しながら種明かしのパートをしなきゃいけないだけでも大変なのに、伏線のために1人だけ大量の段取りをこなし、好き勝手やる芸人を何とか捌き、時間管理しながら結末まで持っていっただけでも、あっぱれすぎる。お疲れ様でした。

ちょっと批判的な書き方になってしまったかもしれないが、芸人さんを集めて、生の舞台でマーダーミステリーをやるという試みは、色んな「面白い」の要素が集約されていて、本当に最高だった。

それに、ストーリー自体はめちゃくちゃ練られていて、本当に面白かった。詳しくは書けないが、地下のトイレが使えなくて「何だよ故障か?」とか思ってたの、恥ずかしすぎる。まさかそこまで伏線だったとは。それくらい伏線が色んなとこに貼られていたし、何より最後の怒涛の展開には驚かされた。

だからこそ、TVerをぶん回し、配信も買うことで、ブラッシュアップされた2回目3回目の続編の制作を期待したい。

演者の皆さんも、スタッフの皆さんも、お疲れ様でした。

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