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報われることを期待はしない

いつだったか。誰だったか。僕自身かもしれない。
テレビで何かの対談を聞いていて俳優が口にした言葉。
「コメディは難しいので挑戦したいんです!」
みたいなことを聞いて、それにまぁほとんど間髪入れずに、
「まるでシリアスは出来ますみてぇな言い方じゃね?」と。
その場にいた何人かで笑って、全員が同意していたと思う。
だから僕が言ったのかもしれないし、わからなくなっている。
シンプルに得手不得手は誰にだってあるわけだからなんにもおかしな言葉じゃないことぐらいはわかっているのだけれど。
でもなんだかそういう言葉が僕たちには棘のように心に刺さっていたのだと思う。
それを隠すために言葉をはさんで笑ったんだ。

なぜそんな言葉が棘になるのか。
それをうまく説明することは難しいかもしれない。
自分で自分を追い込んでいたあの時の精神状態は言葉にしにくい。
コメディを演じるなら挑戦など出来なかった。本番で客席から笑い声が上がらなければ、それは失敗であり恥であり、深い傷が残って反省を重ねた。シリアスを演じるなら、客席のお客様が涙を流したり震えて感動してもらえないような芝居をすれば、それはもう失敗だけじゃなくて、こんなシーンをもらっているのにという罪悪感と、作品そのものや皆に迷惑をかけてしまったという焦燥感で消えたくなった。
お客様に挑戦をみせるんじゃなくて、結果を出さないといけないという追い込み方をそれぞれがしていた。挑戦をみせるなんてことは失礼なことだと思っていた。
小劇場で芝居をしつづけるということは、その活動のどこに誇りを持てるのかという闘いでもあった。好きだから続けているだけだなんて簡単に言えるものじゃなかった。自分が誇りだと思えるまでやることだった。
そうやって真剣に取り組むからこそ、楽しかった。

続けていけばいつか報われるとか。
生きていれば楽しいこともあるとか。
預言者じみた言葉はたくさん聞いてきたけれど。
僕たちははたして報われたと感じる日が来るのだろうかなんて。
ずっと疑ってかかっている。

悔しい思いやら、そんなのばかり残ってる。
正々堂々とやってる裏側でおべんちゃら使ってるのを眺めてた。
誰かを応援して励ましてみても、あっけなくいつの間にか消えた人もいた。
洗面器に水を張って顔をつけての我慢比べみたいなこと。
我慢し過ぎたら溺れてしまうよ。
でも誰のことも恨んでいるわけでもないし嫌いにもなっていない。
ただただ、やるせねぇなぁってことが残ってる。

カーテンコールにお客様に拍手をいただいたその瞬間だけが僕たちの救いだったのかもしれない。
けれど、ほんとうに瞬間なんだ。
そのまま幕が閉じれば、再び反省の崖に降りていく。
酒を飲んで自分を傷つける。

関節が固くなって、体が重くなっていく。
頭が回らなくなって、言葉も出なくなる。
向かい風には鋭利な氷まで混ざってる。
それでも一歩、また一歩。
むりやりに口角を上げて冗談を口にする。
このぐらいのこと、どうってこたあねぇさと。
盛大に笑い飛ばす。

僕自身はともかく。
その一歩一歩の隣で歩いてくれたこの人たちは報われるべきだ。
それがなんなのか、それぞれ価値観も違うしわからないけどさ。
この素晴らしい俳優たちを僕は世に解き放ちたい。
どれだけの稽古を繰り返してきて、どれだけ心を摩滅させながら、どれだけの時間を重ねてきたのだろう。
努力なんか誰でも報われるものじゃないだろうよ。
それでも積み重ねてきたものにはそれだけのものが生まれるよ。
それを感じないというなら、感じない世の中がおかしいんだ。
なのに、この人たちは話してみればみるほど謙虚だ。

初監督作品?挑戦なんか見せるつもりはサラサラない。
きちんと誰かの心にタッチする。届ける。
報われることなんかないかもしれないけれど。
どれだけ重くても足を動かし続けた。

さあ、崖っぷちだ。
今のところ、かなり不利な闘いなのかな。
今まで出会った全員が映画館に来てくれたらいいのに。
どんなに不利でも向かい風でも、痛くても。
矢面に立つ日がやってくる。

11月がやってきた。


映画『演者』
企画 監督 脚本 小野寺隆一
音楽 吉田トオル
題字 豊田利晃

「嘘ばかりの世界」だ
  「ほんとう」はどこにある

【上映館】
・2023年11月18日(土)より
ユーロスペース(東京・渋谷)
http://www.eurospace.co.jp/
劇場窓口にて特別鑑賞券発売中
先着50名様サイン入りポストカード付

出演
藤井菜魚子 河原幸子 広田あきほ
中野圭 織田稚成 金子透
安藤聖 樋口真衣
大多和麦 西本早輝 小野寺隆一

撮影 橋本篤志 照明 鈴木馨悟
録音 高島良太 絵画 宮大也
スチール 砂田耕希
制作応援 素材提供 佐久間孝
製作・宣伝・配給 うずめき

【あらすじ】
昭和20年春、終戦直前のとある村。嶋田家に嫁いだ3人の女たち。
血の繋がらない義理の三姉妹は男たちが戦時不在の家を守り続けている。

家長であるはずの長男の嫁、智恵は気を病んでいた。
三男の嫁、恵美は義姉を気遣う日々を送っている。
次男の嫁、陽子は智恵がおかしくなったふりをしているのではと疑っていた。

やがて魔物が再び女たちの前に現れる。
世界は反転して、演技は見抜かれる。

◆終映(特別限定先行上映)◆
・2023年4月15日(土)16日(日)※限定2日間
シアターセブン(大阪・十三)
・2023年4月15日(土)18日(火)21日(金)※限定3日間
名古屋シネマテーク(愛知・名古屋今池)
・2023年3月25日(土)~31日(金) ※限定1週間
K'sシネマ (東京・新宿)

投げ銭は全て「演者」映画化計画に使用させていただきます。