詐欺師に「人間として終わってる」と言われた話

あれは僕がまだ結婚する前、25歳くらいの頃だろうか。

当時同棲していた彼女と別れ、新居に引越し仕事に遊びに追われていた時期だ。

その日仕事が終わった僕は家に帰り、洗濯機を回して、ご飯を炊いていた。

滅多にならないスマホに着信が入った。

知らない番号だ。

普通の人は知らない番号からの電話は取らないのかもしれないが、当時というか若い頃の僕は女の子と遊んでは関係を絶ち、知り合っては別れ、を繰り返していたので「もしかしたら女の子かも」というゲスも甚だしい思考回路で電話に出た。

電話口は若い女の子だった。

女「あっ、もしもしー!」

俺「はいもしもし」

女「いきなりお電話して申し訳ないです、今特定の方にアンケートを伺ってまして、関東地方に住む20代の独身の方でよろしかったでしょうか?」


あれ、思ってたんと違う。

俺が思ってたのは「久しぶり、何してんの?」ってやつだ。
誰だお前。

しかしこの時の僕はほぼチンコが本体で精神はオマケみたいなものだったので、女の子と会話するという行為自体に価値を感じていたので黙って話を聞いていた。

彼女の話は要約するとこうだ。

・彼女はジュエリーのアドバイザーをやっている

・今男性の間でもジュエリーが流行っていて今後結婚する方のために正しいジュエリーの知識を広めたい

との事だった。

そして彼女はこう続けた。

・今なら無料でジュエリーのアドバイスが出来る

・しかも今なら私が担当になります

・そしてなんと、表参道にある本店にジュエリーの説明を聞きに来てくれたら私の入れたコーヒーが100杯まで飲み放題です!

と。

俺はそんな石ころに興味なんかない、興味があるのは君の乳房についたピンク色のジュエリーだけだ。

なんてことは言えず、話を続けると会話は世間話に移行する。

彼女とはまぁ話が合う合う。

ゲームも漫画も好きで、休日の過ごし方まで似ていた。

ここで彼女は魔法の言葉を囁いた。

「え、私たち絶対気が合うよね?普通に友達になりたいんだけど……」

こうして僕は彼女とLINEを交換した。

普通の人間なら一喜一憂。女の子と知り合えたことに心を躍らせるかもしれない。

しかしこのマイナス思考が服を着て歩いてると言っても過言では無い、マイナス思考の権化の俺にとってそれは不可解な出来事でしか無かった。

僕はすぐにGoogle先生で調べた。

「女 電話 ジュエリー」

するとまぁ出るわ出るわ被害の数々。

要するにこの女の甘い言葉を信じてのこのこ説明会に行くと、怖いお兄さんがやって来てジュエリーを買わされ、断ると軽い軟禁状態に陥ってやれ「冷やかしか!?」「営業妨害か!?」などまくし立てられ「早く帰りたい……」と契約させられてしまうようだ。

なんだよ。

やっぱりこの世に上手い話は無かったんだ。

俺はあの子の乳房についたピンク色のジュエリーをしゃぶる事も出来ないし、股間についたピンクダイヤモンドをコリコリする事も出来ない。

ふざけんな、用無しだ。

俺の時間を返せ。

僕は彼女のLINEをブロックした。

それから数ヶ月後、また知らない番号から電話がかかって来たのである。

基本的に僕は学習能力がないので、またその電話に出てしまった。

「もしもし」

気だるく電話に出るとスマホから聞き覚えのある言葉が聞こえた。


女「いきなりお電話して申し訳ないです、今特定の方にアンケートを伺ってまして、関東地方に住む20代の独身の方でよろしかったでしょうか?」



またかよ!

と心の中で思いつつも、寂しい一人暮らし。
家に帰ってもハムスターしか会話の相手がいない僕にとっては久々に仕事の話以外をする久しぶりの機会だった。

黙って彼女の話を聞いていたら、結局またジュエリーのアドバイザーの話だった。

そして彼女はこう言った。

・今なら無料でジュエリーのアドバイスが出来る

・しかも今なら私が担当になっちゃいます!

ここまで聞いてひとつ気がついた。
あ、コレマニュアルだったんだ。

「そして更に〜」と続ける彼女の声を遮って僕は彼女にこう聞いた。

「しかも今なら話聞くとコーヒー100杯無料なんすよね?」

これを聞いた彼女は固まった。

いや、固まってたかどうかはしらんが会話が止まった。

「えっ?なんで……」

と問う彼女。

「いや、前もまったく同じ内容の電話かかって来ましたよ」と答える僕。

「は?じゃぁ全部分かってて話聞いてたってこと?」

え、なんで俺が怒られてんの?

「え?あぁはい。」

「マジ最悪、時間無駄にした。」

「マジあんた性格悪いね」


みなさん教えてください。

果たして僕はここまで言われなきゃ行けないことをしたのでしょうか。

確かに彼女は時間を無駄にしたかもしれない。

しかし下手な鉄砲数打ちゃ当たるで手当り次第電話をかけて、その鉄砲が当たらないのは己の責任ではないでしょうか。

僕はここまで言われなきゃ行けないのでしょうか。

我慢出来ずに僕は反論してしまった。

僕「性格悪いって、詐欺師に言われたらおしまいだよ」

女「はぁ!?あんた最初からわかってたんでしょ?なら最初にそういうの間に合ってるって言えば時間無駄にならなかったの。わかる?あんたのせいで貴重な時間が無駄になってんの!!」


僕「そもそもせっかく親に育ててもらったのに詐欺師に身を落として人生無駄にしてる人間がたかだか数分のロスでごちゃごちゃ言わないでよ……」

女「うわキモっ……」

僕「ところでコーヒーだけ飲みに行くのはオーケー?」

女「まじキモイねお前。そんなんだから結婚できないんだよ」

僕「そりゃお互い様でしょ」

女「は?私結婚してないなんて一言も言ってないんだけど」

僕「いや、もし仮に結婚しててこんな事してたらそれもうただの人の形をしたゴミだろ……」

女「あんたすごいね、そうやって自分の意見が全部正しいと思ってるんだ。すごいよあんた。」

僕「まぁ詐欺師と真っ当に働いてる人間だったら間違いなく真っ当に働いてる人間の方が正しいのは普通に生きてたら一々言葉にしなくてもわかると思うし、そもそも詐欺師にすごいって褒められてもそれ全然嬉しく」

女「褒めてねーよ!お前ほんと人間として終わってるよ、マジでキモイ。一生独身でいな。キモイから。」

プッ ツーツー

詐欺師に「人間として終わってる」って言われました。

人を騙し、好意につけ込み、金をだまし取る、それが詐欺師。

その詐欺師に言われたんだ。

「キモイ」って。

「人間として終わってる」って。

あれから10年近く経つけど、この手の詐欺はまだ存在しているんだろうか。


あの日彼女から言われた数々の暴言は、今でも僕の心の中で輝き続けている。

それはまるで宝石のように。

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