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「イーハトーブからやってきた」とひそかに誇りに思いながら育った私が「物語」から音楽を作るのは。

岩手銀行赤れんがホールでのコンサートが近づいてきました。中津川のほとりに建つ国指定重要文化財の中でのコンサートです。

もう2週間後となりますが、自分なりに、このコンサートや自分が「物語」を伝えるように音楽をつくる理由をふと振り返ってみたので、書いておこうと思います。


父の生家はもう取り壊されているけれど、清水町1丁目に私の本籍はある。盛岡出身の父、富山県高岡市出身の母ゆかりの「童話」や絵本が、我が家にはたくさんあった。とりわけ、東北の民話や宮沢賢治さんのお話は、私という人間ができあがる過程にとても大きな影響を及ぼしている。

岩手県はイーハトーブという国なのだ…
「私のお父さんはその国の出身だ」、ということが誇らしかった。

杉井ギサブロー監督の「銀河鉄道の夜」を見て、細野晴臣さんの音楽とサウンドトラックをCDを聞き、私はさらに自分のなかの宮沢賢治さんの世界を確立していき、絵本作家や物語を作る人になりたい、という思いを密かに抱きながら大人になっていった。

絵本作家にも小説家にもならず、音楽家になったわけだけれど、私はずっと「物語」のような曲を作り続けている。
賢治さんの童話には、時折、どう解釈したらいいかわからない部分が出てくる。オツベルと象の最後の一文や、クラムボンてなんだろう、とか、子供の頃読んでいて私はどう感じていたのか、覚えていない。

でも、読んでいて自然と、自分がお話の中の「誰の立場」にもなりながら進んでいく。生きるために熊と猟師のおじいさんのどちらかが命を落とさなければいけない物語の中でどっちが正しいか、どっちが可哀想か、なんて誰も決められないんだと知っていく。
自然も動物も人も共に生きているんだという哲学を賢治さんから学びとっていった。そして、今、自分も音楽を通じて物語を作り、その物語の中でいろんな主人公になれることを楽しんでいる。

作っている曲たちは、人間が主人公な物語があまりない。
北海道美瑛町に立っていて切り倒されたある一本の木のお話や、徳島の阿波踊りから発想を得て作った「百鬼夜行」という妖怪と人間のお話…、

そしてもちろん、宮沢賢治さんのお話とつながっている話もとても多い。

「どんぐりと山猫」のその後のお話、
「銀河鉄道」とスターウォーズを掛け合わせたような話、
化け猫と「注文の多い料理店」のオマージュ、
民話だと「笠地蔵」が山神に「笠を隠された」お話などなど。

そんな曲たちをまとめた、音楽短編集的なCD作品「並行世界切符」をコロナ禍中にリリースした。
他人の価値観と自分の価値観(意見)が「並行線」だったとしても、「相手の価値観の列車」に魔法の切符一枚で乗れるイメージでタイトルをつけた。
まるで銀河鉄道の夜のカムパネルラが「いつのまにか同乗」して、行先も、持っている切符も違えど同じ道のりを一緒にいる、というイメージ。

盛岡にある岩手銀行赤れんが館でのコンサートではそれらの曲たちを、宮沢賢治さんや東北の民話に重なるものを選んで、演奏する。

もうほとんど父の親戚は居ないし、私は盛岡で育っていないので友達もいない。音楽家になってからつながった、尊敬するピアニスト鈴木牧子さん、ベーシストの下田耕平さん、そして老舗ジャズクラブ「すぺいん倶楽部」さんや稲子さん、花巻で文化冊子を発行している北山公路さんらの力を借りながら、実施にこぎつけた。

盛岡に友達が少ないくせに盛岡で実施したかった理由は、
ひとつは、宮沢賢治さんの物語が体に入っている、私みたいな人たちがたくさんいるから。そして宮沢賢治さんが大好きな人たちが訪れる場所でもある。
もうひとつは…。盛岡が産んだ文化芸術を受け取ったいちミュージシャンとして遠く離れた場所でもこうして次なる作品をせっせと作り、そしてその海の場所に届けにいきたい、という思いがあるから。

あいにくのコロナ禍で、いろんな予定変更をしながらも、なんとか実施できそう。
どうかたくさんの方と一緒にこの日の物語をつむげますように。
9月4日(日) オノマトペル並行世界切符コンサート
岩手銀行赤レンガ館多目的ホール大
Open 13:30 Start 14:00 4,000円

9月5日(月) 花いちもんめの宴セッション(内容詳細)
盛岡すぺいん倶楽部
Open 17:30 Start 18:00 4,500円(1ドリンク付)

2日間、違う演目なので2日間の通し券もあります
ご予約はこちらから。ご予約フォーム



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