どう生きるか 23/07/17

いや見てきましたよ。以下若干ネタバレあります。






まず見て最初に思ったのは「むずい、わかんないかも」ということだった。とにかく設定の説明がないため、今起こっていることがどういうロジックなのか把握することが困難。ストーリー自体は明快だしアニメは全宇宙最高峰の美しさなのに「やべっ……わかんねかも」と思ってしまうのはそれが原因だと思う。でもすごかったなーと満足して劇場出て一日過ごしてみて、言いたかったことは意外とシンプルなのかもと感じ始めた。

主人公の眞人くんが冒険するのは死後の世界のような、輪廻の中継所のような時系列から切り離された世界。宮崎駿の人知を超えて豊かなイマジネーションの世界だ。そこにはそこなりの秩序と生活があって、たくさんの鳥たちがそこで生きている。印象的だったのは、登場人物たち(ほぼ鳥)  が「当たり前だろ?」「常識だろ」みたいな態度を取っていることだ。ちなみにこっちは全然わかんない。

宮崎駿という人の中にはめちゃくちゃすごい空想がたくさんあって、そこで起こることを周りの人に見せたり説明したりしたとき「なんかすごいですね」「正直わかんないです」という反応ばかりだったのではないか。だから映画を作る人になってそのイマジネーションをストーリーに還元して人に伝わる形に変えてきた……。でもどう生きではあえてその翻訳の過程を省いているように感じられた。「俺はこんなにわかられないまま生きてきて作ってきてなんと好き勝手語られてさえきたんだ、そんで80年経ったんだ、この地獄を、そのわかられなさだけでもわかってくれよ」みたいな叫びが聞こえた。かも(自信ないです)。

眞人くん(若い宮崎駿)は大叔父(おじいさんの宮崎駿)から世界を継承してくれと頼まれる。しかしそれは果たされず、眞人くんは元の世界に帰っていく。高畑勲さんがなくなって、今のジブリは純然たる宮崎駿の世界だ。それをそのままの形で受け継ぐことができるものはどこにもおらず(天才だから当たり前だけど)、またアニメ業界そのものも手塚治虫以来の歪みを白日のもとに晒しながら軋んで壊れて、最新技術などの助けも借りて全く別のものとして進んでいく。宮崎駿の世界をそのままの形で受け継ぐものは何もない。そういう仕方ないことに対して「それはそういうことなんだな」と納得する過程なのかもしれない。

最終的には「悪意の無い、純粋な石」をひとつだけ持って帰った眞人くんは記憶を失わずに元の生活に帰還する。空想するということ、ものを作るということ、物語を物語るということへの希望を持ち続ける。そしてアオサギは「あばよ、友達」と言って去っていく……。

宮崎駿という大巨人が住む、スタジオジブリという大きな大きな城の話を総括するには、こういう形でなければいけなかったかものかもしれない。「80年なんとかやってきたけど誰にもわかられず、あとを継ぐものはなく、でも、それでも、それでもです」っていうだけの話だったのかも。違うかもしれないです。自信全然ない。

あとはもう好きなものだけ突っ込んだというか。とにかくなんでもヤバイなくらい大量にドドドドドって出てきて、どこの国だかわかんない街や住居があって、少年がいて、おばあさんがいて、お母さんになろうとしている若い女性がいて、自立して働く中年女性がいて、いつか自分の母になる少女がいて……。みたいな。

富野由悠季は「若い世代に残したるぞ!!!」という気持ちでGのレコンギスタを作ったと聞くけど、それとは対象的に内省的な映画で、それでも「ウオーもう死ぬ! 最後にかますわ!」って作った作品がめちゃくちゃトガリまくってるのは共通しててなんか面白い。でも御大も宮さんも元気でいてほしいよ……。

鑑賞するに当たって俺は結構展開が向いてて、先週アフターサンを見て「わからないはずなのに、すごくわかる」っていう映画体験をしたせいで「あ、これは、わからせようとしてないし、実際にわからないという体験なんだ」ってのをすぐ受容できた。あと今年の五月にジブリ美術館に行ったので宮崎駿の思考の奔流を受け止める素地みたいのがなんとなく出来てた。プロモが全然なくて迷ったけど今日行ってよかったな……。ここまでネタバレ覚悟で読んで見てない人は、見る気があるなら劇場に行ったほうがいいです。テレビやサブスクだと、このわからなさからの逃げ先が有りすぎてそっちに行ってしまうかも。それはこの映画を作った人にとってすごく辛いことかもしれない……。

あと書き忘れてたわ、途中原作の「君たちはどう生きるか」で主人公が泣くというパートがあって、え!? こういう形で原作タイトル回収するの!?
 って思ったけど最終的には同じ時を過ごして過去に戻っていった母が未来に向けて残したプレゼントと考えるとなかなか示唆的なものがあるようにも思えて良かった。

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