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【近未来金融創造プログラム総括討議】 近未来の金融システム!

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 令和3年2月15日、「近未来金融システム創造プログラム(通称「近未来」)」の総括討議が開講されました。例年は東大の講堂で行われるのですが、今回はZoom開催。ゲストは経済学者政治家経営者行政のプロフェッショナルの4人で、「近未来の金融システム」ついて本気の議論が繰り広げられました。なお、今年度以降の「近未来」は東大の正規科目になったため、分かりやすく言えば、正規受講者層は東大生と社会人で半々となります。最終講義が公開されるスタイルは引き継がれているため、今回も受講希望者を誘いながら参加させていただきました。2期受講生として、今年度も面白かった点を(勝手に)レポートしたいと思います。

モデレーターの赤井先生は、受講生のアイディア・質問を取り入れつつ、それぞれのスピーカーが日ごろ本気で考えている話題を引き出されます。総括討議はこうした議論のつなぎ方まで見事で、本当は全部聴くのが一番勉強・体験として良いのですが、本noteでは4つのトピックに独自に絞って取り上げさせていただきたいと思います。

※ 本noteに貼付しているスライドは、一視聴者の図解として作成しており、近未来事務局作成のものではございません。

※ 2021年度近未来の指定討論者の募集が始まっています(4/11日〆切)。https://todaifinanceinnovation.com/

5人の注目パネリスト(敬称略)

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赤井 厚雄 株式会社ナウキャスト 取締役会長
小倉 將信 衆議院議員・前総務大臣政務官
佐々木 清隆 一橋大学大学院経営管理研究科 客員教授・前金融庁総合政策局長
谷山 智彦 ビットリアルティ株式会社 取締役副社長
安田 洋祐 大阪大学大学院経済学部 准教授

 「近未来」のゲスト登壇者は、これからの社会を金融面から再構築するリーダーそのものといえます。とくに総括討議では、前述の通り経済学者政治家経営者行政のプロフェッショナルという調和の取れた登壇陣でシンポジウムのように行われますから、必聴という他ありません。

今年度の総括討議では4人のゲストのうち、3人は「近未来」プログラム内で講義を担当しており、小倉 將信(おぐら まさのぶ)先生が新しいゲストでした。小倉先生について、少し紹介させていただきます。

小倉先生は、自民党東京都23区(町田市、多摩市)で三期目の衆議院議員で、1981年生まれの若手ながら、日本銀行での経験や英オックスフォード大学院での金融経済学修士号を活かし、政界でバリバリ活躍されている方です。「近未来」のトピックでいえば、「デジタル社会推進本部マイナンバー小委員会」で委員長を務めています。

また、安田先生の大きなアップデートとして、「経済学のビジネス活用」を促進する会社「Economics Design Inc.」を2020年6月に共同創業されています。経済学者が本気を出したらどんな化学反応が起こるのか…楽しみです。私は3度目の「近未来」総括討議ですが、安田先生の思考は物凄く切れ味鋭くなっていて(前年度よりも)、本noteでも沢山紹介させていただきました。阪大のゼミ生が羨ましいです。

話に花が咲きまくる

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  総括討議のテーマは画像にも載せましたが、次のようなものでした。

総括討議 5つのテーマ
①役に立つ金融になるための条件
②デジタライゼーションは本物か?
③金融の解体とフィンテック
③規制vs利用者ニーズの利用者ニーズのバランスと金融システムの近未来
④日本を金融先進国(近未来のリーダー)に飛躍させることは可能か?

5つのDと若者世代

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 序盤に語られるのは、佐々木先生の「5つのD」= DataDecentralizationDiversificationDemocratizationDisruption。そして、この視点を切り口にした近未来の金融の展望です。コロナ前と後とで様相は異なりますが、Disruptionの観点は金融プレイヤーにとって大きな課題です。コロナ後のDXは従来のDXと比べて加速度的に進行するとの見方ですが、コロナ禍は過去の金融危機と違い、金融発・金融が致命傷を受ける不況ではありません。佐々木先生は、「コロナ禍では中小企業が大きなダメージを受けている。過去の金融危機と違って、今は金融機能に期待が寄せられている」と考えます。(かつて金融庁総合政策局長としてコインチェック騒動などにも奔走した佐々木先生。先生にとって、金融の「機能」は本質的な検討対象のようです。たとえ金融の担い手が代わっても、「国民経済の健全な発展に資する(銀行法1条)」という目的は変わらず、「預ける」「貸し付けする」などといった役割についても固いだろうと考えられています。)

 若い世代の資産形成や金融への接点についてより詳しく触れられたのが、小倉先生や赤井先生。小倉先生は、若い世代はスマホ中心であり、銀行窓口にもわざわざ行かないことに言及。いま大人・高齢者の世代で当たり前だったサービスが、必ずしも欲されていないことを前提とした見直しが必要と考えられています。若者向けの金融サービスでは、「非金融のプレイヤーとのアライアンスも大事」とのこと。

これからの金融を作ると期待されているのは「近未来」受講生でしたね。
ここ、テストに出ます!

EBPMの真髄?

 テーマ「デジタライゼーションは本物か?」で、EBPMの話が出ました。EBPMとは「Evidence-based policymaking」の略で、「証拠に基づく政策立案」と訳されているものです。日本では2017年頃から各府省による推進体制が確立し、学問界の知見を十分に取り入れたといえる政策のあり方が吟味されています。例えば「コロナによる健康診断受診率の低下は、長期的に社会保障の費用増加に結びつくのか」などという論点があり、こうしたところに社会科学の知見を活かすことができると思われます。

 経済学者の安田先生は、「EBPMの真髄は、日本でまかり通っていた経験と勘からの卒業」と言われます。EBPMをきちんと行うためには、事後的な効果検証のための予算が課題であると考えられているようです。データのビジネス活用や、マーケットデザイン・ゲーム理論の活躍の場としても期待を寄せていました。202ページにわたる著書『EBPMとは何か』を2020年11月に上梓した小倉先生も、霞が関とアカデミアの世界の距離感を近づけ得る試みとして解説。赤井先生は、EBPMの普及には、従来の公的なデータ以上に色々なデータがでてくることで様々な副産物が生まれ、金融にも効いてくる可能性について言及されました。

金融の解体とフィンテック

このテーマは毎年度同様の軸で用意されてきていますが、パネリストの方々の着眼点は毎年度アップデート。興味をひく議論が次々飛び出します。

キーワード①:非金融プレイヤー

谷山先生は、2020年に創設された「金融サービス仲介業」を発端に、フィンテックの横への広がり(縦割りの◯◯業ではなく、業界横断的な金融系サービス業)を強調。その意味で、解体というよりもリバンドリングへと言及。

キーワード②:マッチング市場

経済学者の安田先生が見通す今後のビジネスは、需要と供給の交差するところで価格が決まるような市場ばかりでなく、「マッチング市場」型のものが広まっていくであろうとのことでした。マッチング市場の典型例は労働市場であり、そこではただ高い給料と高い能力の人材が結びつくとは限りません。採用側も求職側もそれぞれ多様な条件を求めており、面接を通じてその最終確認を行いますよね。安田先生は、このように「相思相愛」でなければ結ばれない市場の中で、様々な業者が差別化を図ると予測されます。フィンテック関係では、寄付購入型のクラウドファンディングが挙がりました。そこで面白いのは、購入者は投資がお金の形で戻ってくることには期待しておらず、消費や社会貢献がモチベーションになっている点です。安田先生は、民間人が「社会から見ると投資だが、個人としては消費」のようなことをするのは、富裕層に特権的だった投資行動が小口化・民主化されていると見ます。近未来にデータビジネスが加速することも折り込みつつ、フィンテックの潜在的な可能性を「マッチング市場」という従来ほど一般化されていなかったモデルによる発展の中で捉えられています。ここは私も非常に印象的で、良い知見をいただきました。

坂井豊貴、安田洋祐

(少し脇道に逸れますが、二人の経済学者の著書についての話もしたいなと。)私は早稲田の学生ですが、「Economics Design Inc.」において安田先生と共同創業者にあたる坂井豊貴先生の著書、『マーケットデザイン入門:オークションとマッチングの経済学』をテキストとする講義を受けたことがあります(担当は笠島先生)。そのため経済学におけるマッチングのさわりのところは知っていましたが、安田先生は的確に抽象化されており、今年もすごいなと感じておりました。

坂井先生の著書で私がはじめて読んだのは『多数決を疑う』でした。はじめての新書にもおすすめできるぐらい、飽きない実証で知的好奇心を満たしてくれる内容です。

大学序盤には、安田先生の共著書『経済学で出る数学』にもお世話になっていました。社会科学系・数学にあまり自信のなかった自分が、数学の何を補えばいいのかわからなかったときに、大変役立ちました。大人になっても愛用しそうです。

唐突な書籍紹介でしたが、以上です。
※ amznのリンクは使用しておりません。

デジタル経済とデータ経済の違い

さて議場では、安田先生から、デジタル経済とデータ経済の違いを考えてみてください、との問いかけがされました。安田先生の考えでは、前者は「売上ではなく時間を奪い合っている」とのことでした。また、データ経済といったときには、規格化されたデータから個別化されたデータのビジネスへの転換も見いだされます。この2つの流れを同時に行ったのが、Googleを始めとするいわゆるデジタルプラットフォーマーでした。その意味では、トヨタは顧客のカスタマイズに対応しすぎると、生産の強みを失ってしまいます。サービス提供者の競争領域も「マッチング市場」的に広がっており、その意味では、手つかずに広まっている領域(顧客接点、ビジネスチャンス)もまだまだ沢山あるだろうとのことでした。安田先生は、バーチャル中心の経済圏の勝者にどう対処するのかは、今後の課題と締めくくられます。データの保護と利活用のバランスも大事、と赤井先生。

東大での科目名は「システム創成学特別演習4C」

最後になりましたが、受講形態について記しておきたいと思います。

今年度より、「近未来」は東京大学大学院工学系研究科の1科目に組み込まれ、これにより新しく東大生の受講者層が入るとともに、オフィシャルな東大の先生の講義が入るなどの変化が起こりました。東大生は、2単位の正規科目として履修し、それまでの「近未来」受講者層にあたる社会人や意欲ある学生等は「特別聴講生」の体で、なかなかの倍率の中で受講が認められるようです。

ただ、こういった講義にありがちな、ゲスト講師−自校の教員による授業との落差(当たり外れ)がすごいというガッカリ感はありません。見てみたら、純に東大からいらっしゃる先生も著名な方揃いでした。

2020年度の東大講義としてのプログラムを参照しますと、後半も含めて名だたる人物が名を連ねています。

第1回「イントロダクション 実体経済と金融」4/21
    和泉 潔 東京大学大学院工学系研究科教授
    赤井厚雄 株式会社ナウキャスト取締役会長
第2回「資本主義と金融」4/28
    安田洋祐 大阪大学大学院経済学部准教授
第3回「金融と技術(概論)」5/12
    谷山智彦 ビットリアルティ株式会社取締役
第4回「社会経済のデジタライゼーションと金融」5/26
    日下光 blockhive co-founder
    赤井厚雄 株式会社ナウキャスト取締役会長
第5回「FinTech vs. RegTech vs. SupTech」6/9
    佐々木清隆 一橋大学大学院経営管理研究科客員教授、
         前金融庁総合政策局長
第6回「ファンドの役割はどうなるのか」6/30
    戸矢博明 前産業革新投資機構代表取締役専務
第7回「クラウドファンディングとリターンの新しい概念」7/7
    中山亮太郎 株式会社マクアケ代表取締役社長
    谷山智彦 ビットリアルティ株式会社取締役
    加藤信介 エイベックス株式会社グループ執行役員
第8回「金融リテラシーって何だろう」9/29
    安田洋祐 大阪大学大学院経済学部准教授
第9回「金融と技術(各論Ⅰ)機械学習の発明」10/13
    甘利俊一 理化学研究所脳科学総合研究センター特別顧問
第10回「金融と技術(各論Ⅱ)ディープラーニング」10/27
    松尾豊 東京大学大学院工学系研究科教授
第11回「金融と技術(各論Ⅲ)AI は人間をどうとらえるか」11/17
    矢野和男 東京工業大学連携教授
    佐渡島庸平 株式会社コルク代表
第12回「金融と技術(各論Ⅳ)テキストマイニングの可能性」12/1
    和泉 潔 東京大学大学院工学系研究科教授
第13回「金融と技術(各論 V)ブロックチェーンと金融システム」12/8
    斉藤賢爾 慶應義塾大学 SFC研究所上席所員

2021年度受講について!

2021年度受講の詳細が発表されています。応募締め切りは2021年4月11日(日)。指定討論者として理学系工学系の修士・博士課程の院生を優先しつつ、意欲ある社会人実務家、文科系、学部生の受講も歓迎するとのことです。

https://todaifinanceinnovation.com/

https://docs.google.com/forms/d/18q9bZ1dnwdEEpu2_4IO8gLhB35U3uq8GjRzv8OfvCwc/viewform?edit_requested=true

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