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雑にレビュー「ベター・コール・ソウル」

はじめに(言い訳)

前回のレビューでも書きながら思っていたことだけど、ドラマってシリーズが長期化していく中で物語内の登場人物の行動原理や展開がコロコロ変わっちゃうからシーズン全てぎゅっとを一つのレビューにまとめるのはとてつもなく難しいんだなあと思った。(今更)

書いてる最中に「キャラ紹介欄ではこう書いているけど、後々の展開でガラッと変わるよな・・・」とか「ドラマ全体でいくつかのサーガに分かれているけど、一つ一つ書くのは冗長だなあ・・・」となってしまうので、ドラマはシーズンごとに評価するのが良さそうだと思った。面倒ではあるけど。

ということで。2022年8月16日、ネトフリにて最終エピソードが配信され、そのフィナーレを迎えた「ベター・コール・ソウル」をレビューしていきたい。本シリーズの前作にあたる「ブレイキングバッド」もレビューしているのでそちらもどうぞ

あらすじ

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貧乏弁護士のジミー・マッギルは裁判所で利用する駐車場の料金すらろくに払えず、電磁波過敏症を患って働けなくなってしまった兄チャールズ・マッギルの介護にも追われ、その日暮らしを余儀なくされていた。

金になる依頼が来ず、悩んだ末にジミーは自作自演で金持ちの車相手に交通事故を仕掛けて契約を結ばせるという計画を思いついた。スケボー乗りの当たり屋を雇い、ターゲットとなる金持ちの車が巡回するルートを入念に覚え、わざと事故を起こして裁判を行うことで顧客を獲得し、得た報酬を山分けする。完璧かのように思えた作戦は、ターゲットと酷似した全く別の車両が巡回ルートに入ったことで破綻してしまう。

当たり屋はドラッグマフィアの一員、トゥコ・サラマンカの祖母が運転する車に衝突してしまったのだ。気性の荒いトゥコは祖母を侮辱されたと怒り、ジミーと当たり屋を人気のない砂漠へと連れ出して殺そうとする。だが、ジミーは持ち前の機転と口の巧さを駆使してトゥコを宥めることに成功し、なんとか死を免れた。

しかし、この出来事が発端となり、ジミーは生涯断つことの出来ない裏の世界との繋がりを持つこととなるのだった・・・。

キャラ紹介

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ジミー・マッギル

今作の主人公。過去にはハムリン・ハムリン・マッギル(HHM)という超大手の法律事務所の配達員として働いていたが、現在はアルバカーキにあるネイルサロンの奥にある狭いオフィスを借りて事務所を構える貧乏弁護士。過去に詐欺を生業としていた時期があったことから、口が上手く悪知恵が働く。

またブレイキング・バッドで登場したソウル・グッドマンその人であり、本ドラマでは如何にして彼が裏の世界と精通した胡散臭い悪徳弁護士へと姿を変えたかが描かれる。


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チャック・マッギル

主人公、ジミーの兄で電磁波過敏症を患っている。外界は電磁波に溢れているという理由で家からは一歩も出ることが出来ず、家の中でも家電や照明などを設置せずに原始的な暮らしをしており、ジミーの介護がないと生きていくのが難しい状態にある。

病に侵される前は有能な弁護士で、HHMを創設したメンバーの一人でもあった。若い頃、詐欺業に明け暮れて落ちこぼれていたジミーを救い出し、HHM内で配達員としての仕事を与える。不真面目だったジミーが弁護士を目指したのはそんな彼から認められたかったという思いも大きい。


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キム・ウェクスラー

HHMで働く女性弁護士。ジミーとは友達以上恋人未満。かつてジミーと共に配達員をしていた間柄であり、同じ弁護士としてジミーがHHMを去った後も良好な関係でいる。

真面目な性格で真摯に仕事と向き合っている為、自作自演や印象操作のための工作などセコい戦略に頼るジミーのやり方に賛同できず、対立することもあるが、根は優しくどこか憎めない彼を好いており、サポートする。


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マイク・エルマントラウト

かつては優秀な警官だったが、今はアルバカーキ裁判所の駐車場管理人として働いている中老。息子の嫁と孫娘を経済的に支えるべく苦悩し、選んだ答えは裏稼業に手を染める事であった。

前回レビューのキャラ紹介に乗せることを忘れたが、ブレイキング・バッドにおける重要なキャラの一人で、父親代わりとして孫娘と仲睦まじく戯れる傍ら、グスタボ・フリングの右腕的存在として幾多もの汚れ仕事を請け負っていた。(何故忘れた)

無愛想だが情に熱い側面もあり、カルテルと関わる中でも自分の信念を崩さないハードボイルドハゲオヤジである。


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イグナチオ・ナチョ・ヴァルガ

トゥコの部下の一人。裏の世界にどっぷり浸かっている人間だが、裏の世界とは無関係で車用シートの仕立て屋を経営する真面目な父親を何よりも気に掛ける息子の鑑。

始めは気性の荒いトゥコの下で仕えることに危機感を覚える程度だったが、物語が進む中でサラマンカという一族に対する恨みが強まることとなる。

忍耐強く、物事を冷静に捉えることが出来、部下として賢く立ち回ることに長けるが、父親の存在や予測不能な不運の連続が枷となってしまい、度々窮地に立たされる不遇な若者。

今ドラマにおける名サブキャストの一人。主人公。マジで。


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ヘクター・サラマンカ

サラマンカ一族が収める麻薬市場の元締め。ドラッグビジネスでの立場上、グスタボ・フリングとは仲間のはずだが、彼が仕えているボスに気に入られて贔屓にされていることを快く思っていない。また、グスタボがカルテルに入りたての頃、彼のパートナーを殺害したという経歴があり、恨まれているので裏では互いに敵対している。

ブレイキング・バッドでは半分植物人間状態で動くことも言葉を発することも出来ずに、車椅子に付けられた呼び鈴だけでしか意思疎通が取れない酷い有様だったが、本ドラマでその経緯が明かされる。


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ラロ・サラマンカ

サラマンカ一族の麻薬市場の支配権を継ぐ幹部の一人。ヘクターの甥。メキシコにある故郷では彼を慕う人が多く、おちゃらけたような態度で常時振るまう。

血気盛んなサラマンカ一族の中では珍しい頭脳派であると同時に、目的の為なら殺人も厭わない冷酷非道な男。サラマンカ一族にとって目の上のたんこぶのような存在のグスタボ・フリングを失墜させるため、知略の限りを尽くす。

今ドラマにおける名サブキャストの一人。主悪役。マジで。


ざっくり感想

ブレイキング・バッドのレビューでは若干ネガキャンしてしまった感があり、今回も溢れ出る感情を一つのレビューにぎゅっと詰め込んでしまい、感動が伝わらない気がするが、正直めっちゃよかったとだけ最初に伝えておく(雑な前置き)

スピンオフ作品となると、本編のオマケ程度の出来になると考えるだろうが、このベター・コール・ソウルは単品で独立した面白さのある作品に仕上がっている。ブレイキング・バッドの存在があってこそ良く映るシーンも当然あるが、圧倒的とも言える前作の名声に縋ることなく、寧ろそんな前作の内容すら補完し、新しいキャスト・新しい物語でファンたちを満足させることに成功したと思う。

比較してどちらが面白いか。感じ方は人それぞれっしょ。と言ってしまえばそれまでだが、個人的な評価としては

「ブレイキング・バッド」に関しては、つまらない部分は3~5点で、盛り上がりどころと言われているところではドーンと評価が上がって10点満点にも迫る。

「ベター・コール・ソウル」に関しては全体的に安定感があり、評価が6~9点の間を推移。

といった印象。

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ブレイキング・バッドでのノウハウが活かされ、展開運びがブラッシュアップされたように思える。スピンオフ作品でありながらも真新しさがあり、間延びが抑えられてる分トータルで考えたらこっちのほうが楽しく見れたかな?と思うが、グサッと心に残る場面は前作のほうが多かったように思う。また、このドラマを見たことによって前作の評価が上がるという側面もある。

兎にも角にも「ブレイキング・バッド」ありきの「ベター・コール・ソウル」なので、どちらも見ることが推奨される。もちろん可能であればブレイキング・バッド→ベター・コール・ソウルの順番で見てほしいのだが、本筋はある程度追えるので古い海外ドラマ感が残る前作を一旦スキップして今作から見始めるのもよし。

(前作になにがしかの理由で指名手配されたから、今は身分を偽ってるんだろうな~となんとなくわかっていればいいかな?)

・・・レビューはしないけど、ジェシー・ピンクマンのその後を描いた映画「エル・カミーノ」もあり、ジェシー推しの人はマストウォッチである。こちらはブレイキング・バッドの後であればどのタイミングで見ても問題なさそう(適当)

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~~~~以降、がっつりとしたネタバレはないけど、ちょろっと物語の内容に踏み込んだレビュー~~~~





今作の主人公「ジミー」「ソウル」「ジーン」について

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まず初めに

名前がコロコロ変わって紛らわしいが「ジミー・マッギル」「ソウル・グッドマン」「ジーン・タカヴィク」の三名は同一人物である。(?)

あのブレイキング・バッドのスピンオフ作品ということでガッツリ・クライム・ドラマの口で視聴を始めたが、ソウルの過去エピソードの描写については空気感が想定していたものと異なっていた。不正まみれの成歩堂龍一によるとんちき逆転裁判(?)を見せられているようで正直若干肩透かしを食らったような気持ちになった。

ただ、ジミーが弁護士活動に勤しむエピソードについてはダークな世界観と切り離された別ドラマである考えれば、これはこれで面白いし、ジミーからソウルに至るまでの人格形成を描くのは重要なことである。あくまでも主役はとてつもなく悪い奴らとお友達になる前のジミーなわけだし。

物語が進む中でしっかりダークな裏社会との絡みは描かれているので、さほど気になるものではない。ソウル推しの人的にはこのパートがむしろ好きって人もいるはずなので、必要な要素ではあったかなと思う。

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ブレイキング・バッド本編で悪行がバレて逃亡した後に身分を偽り、ジーン・タカヴィクとして生きる彼の物語も描かれる。

この時彼はネブラスカ州のモール内にあるシナボンの店長としての隠遁生活を強いられており、目立つことのないよう真面目で平凡に日々を暮らしている。この時系列が描かれる際は物語における「現代パート」であるにも関わらず、全編白黒での撮影になるというこだわり演出が成されている。

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警察から身を潜めなければならないという事情はあるものの、カルテルの友達は皆ウォルターに殺され、ウォルターもガンにより死んでしまった為、このパートでジーンは大きな脅威に晒されることがない

そのため手に汗握るスリリングな展開などはなく、途中までは色彩のない世界での彼の地味な物語を眺めることとなるが、ここで描かれるのは罪を避け続けた男による最後の清算・贖罪の物語なので、これでいい。

あまり言及できなかったが、重要なファクターの一つであるジミーとキムの関係性は物語の中で複雑な過程を経て、恋仲や夫婦といった概念を越えた尊いものになったと思う。互いに道を踏み外し、様々な危機を乗り越えた末、平行線を辿る定めなのだなあと。互いに交わらず。されど、そばに在るのだなあと。(適当)

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マイクというキャラの掘り下げについて

ブレイキング・バッドでは素性のはっきりしない無愛想なハードボイルドハゲジジイとして人気サブキャラの地位を築き上げたが、今回は彼のキャラが掘り下げられている。タイトルからは読み取れないが、本編はマイク・エルマントラウトのスピンオフでもある。と言っても過言ではない。

かつての自分と同じ警官だったマティという息子が居たことが語られる。正義感の強いマティは署に蔓延する腐敗と闘おうとしたことで犠牲となってしまい、そんな息子の仇を取るために犯人である警官二人を殺めたのちに辞職し、アルバカーキに移り住んだことが明らかとなる。

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悪に染まり切れなかったことにより亡くなってしまった息子が居た事。

無愛想で他人に過度な肩入れをしないマイクがナチョのような若造の身を案じるのは、彼に亡くなった息子の姿を重ねているからなんだなあ・・・と知ることとなった。

前作「ブレイキング・バッド」を見ていた時も、ジェシーだけに対してやたら面倒見がいいことに最初は若干の違和感を抱いていたが、このエピソードの付加により、彼の「悪事に巻き込まれた若造に向ける優しさ」に説得力が増した。

しみったれた過去エピソードはそこそこに、今作でもひたすらかっこいいだけのハード・ボイルド・ハゲ・ジジイを存分に楽しむことが出来るのでブレイキング・バッドの時からマイク推しだった人も納得だろう。

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本シリーズを支える名サブキャスト

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上記のシーンはブレイキング・バッド シーズン2第8話。覆面を被ったウォルターとジェシーにつかまった際にソウルが発したセリフである。当時見た人誰もが「誰やねんそいつら」と思ってすぐに忘れたことだろう。

後付け設定もいいところだが、まさかブレイキング・バッドでほんの一瞬言及されただけの脳ミソの片隅にも残らないような奴らが、ベター・コール・ソウルでは他のキャラを差し置いて一番印象に残るような超重要人物になるとは思いもしなかった。この両名の存在があまりにもデカすぎる。この二人について語らざるを得ない。

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イグナチオ(ナチョ)は例えるなら有能版ジェシー・ピンクマン。気が熟すまで軽率な行動はせず、自身を過信して思い上がるような事はなく、立場を弁え、時には思い切った行動をして、上からの評価・尊敬を得る。マイクやラロ、果てはカルテルを仕切る大ボスからも一目置かれるという実績を持つ理想の部下キャラである。

詳細は伏せるが、どのように動いても最悪の結果は免れないという窮地に立たされた際に魅せた漢気には流石に普段ヘラヘラと映像作品を鑑賞しているワイでも目元が潤んだ。ブレイキング・バッドのハンクもそうなんだけど、土壇場で怖気づくことなく、寧ろ脅威となる敵を睨みつけるほどの覚悟を持つ漢がとにかく好きなんじゃ。

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一つ間違えるだけで取り返しがつかないほど、どん底に叩き落とされる可能性がある人生の中、失敗を犯さないよう丁寧に生きているつもりでも上手くいかないことだってある。彼の人生はその繰り返しとも言えるほど、ツイていなかった。それでも、一つだけ言えることがある。

お前は勝ったんだ・・・ナチョ。

(ナチョを演じたマイケル・マンドー氏にエミー賞を授けろマジ)


今作でもグスタボ・フリングが出ており、彼が如何にしてマイクと出会ったか、如何にして大規模麻薬製造工場を作り上げたかというエピソードが描かれている。

しかし、後日談のブレイキング・バッドで何の問題もなくビジネスを続けていたようなので、あくまで過去経緯を説明する役割の為だけにあの仏頂面で出演しているのかなあと思っていたが、グスタボは「ラロ」という最恐の危機と闘うこととなる。

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金!暴力!セックス!しか取り柄がなさそうな脳筋バカしかいないサラマンカ一族だが、ラロだけは一味違う。何か裏のありそうな事象にはいち早く気づき、アラがないか徹底的に調べ上げ、相手の裏をかくことに執念を燃やす。逆に、自分はアラを出さないように徹底的に下準備をして、相手に悟られないよう身を潜める。

途中、グスタボとラロの寝首搔き合戦みたいになって、神の視点で見ているこっちが混乱するくらいのアツい頭脳戦が展開されていた。あのグスタボ・フリングが実はラロ相手にほとんど防戦一方だったことを考えると、あのカリスマ的な大悪役のグスタボ・フリングと張り合えるような好敵手をよく作り上げたな・・・と感心した。

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最後に

今年の5月にブレイキング・バッドの存在を知り、3ヶ月ほどでベター・コール・ソウルまで一気に鑑賞し終えた自分にとってはほんの一瞬だったが、公開当初から見ていたファン、そしてこのドラマに携わり長い年月を経て完成させたキャスト達にとっては14年掛かりの物語であり、その重みは計り知れない。

自分自身、ブレイキング・バッドを見始めた時は思うところがあったが、なんだかんだでスピンオフ含めて全部見てしまった。多くの人が絶賛するのに値する海外ドラマシリーズであったことは間違いないと思う。ブレイキング・バッドを始めとするこの素晴らしい世界を作り上げた監督のヴィンス・ギリガン氏に感謝である。

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