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【2023年夏 富士登山記―後編―】

夜間登山出発準備

新七合目まで登って山小屋で宿泊した後、23:00に起床。この時点ではまだ8月10日。

途中、二度くらい起きては寝るのを挟んだ形ではあるものの、耳栓を装着していたおかげで騒音に悩まされることなくしっかり休息が取れた。100円ショップで買ったチープなものだが効果は十二分に発揮してくれた。今回登山でのMVPである。

共に寝ていたT君とH君はさほど寝れなかったようで、T君に至っては一睡もできなかったとのこと。近くのスペースで夜通し話していた宿泊者がいたらしい。

どれだけ静かに喋っているつもりでも、気になるものは気になるので、山小屋で宿泊される皆様方は早朝アタックをするつもりがなくても夕方以降は話さないようにしようね。

(…実はT君が気を遣ってくれただけで、外界の騒音からシャットアウトされていてスヤスヤ状態だったワイの寝相なりイビキが原因だったとしたのなら申し訳ないゾ…。)

また、身体が高所に順応してきたのか、就寝前かすかにあった頭の違和感は無くなり、コンディションはベスト。準備運動がしっかり効いたか。

登り始める前のエネルギー補給として渡された朝食を食べ、身支度を済ませる。

富士登山後半戦

0:00、日付は変わって8月11日。

外に出るとこれまで感じていた暑さはどこへやら、もはや冬レベルの寒さが襲ってくる。冬用の登山ウェアに着替えておかないと凍え死んでしまいます。また、当然ながら外は明りがほとんどない暗闇が広がっているのでヘッドライトは必需品。

しかし、平地ではいつ何時も街灯が光り輝いているので以下のような光景を見せてくれる。

眠らない町。

ここから日の出までに山頂を目指すべく登山再開。

ヘッドライトで照らされた部分しか見えない限られた視界の中、足の取られる荒いザレ道(岩屑や小石、砂を敷いたような場所)を歩く。

日の出までには山頂に着いていないといけないというタイムリミット付きなので、遅れまいと焦る気持ちがあった。

歩みを進める事30分ほど、元祖七合目に到着。事前に立てたスケジュールより30分以上も早い。(暗かった為、途中通った小屋の写真があんまない…)

急がなきゃ(使命感)…と登ってる途中は思っていたが、よくよく考えてみたら他の登山客を次々と抜かす勢いで登っていたので、まだまだペースが速すぎたといえよう。

汗冷えからの低体温症のコンボが一番怖いので、以降はペースを上げ過ぎず、汗一つかかない程度のスピード感で登り続ける事を意識した。

台車のタイヤの部分。

自分たちが登ってきた山道を振り返ってみると、我々と同じく日の出を見ようと山頂を目指す他の登山者であふれていて、数多くのヘッドライトの光が一筋のつながった線のように見えてくる。頂上付近では渋滞になる可能性が高いというのも納得だ。

八合目を過ぎたあたりからは人が多くなっていき、このあたりから明らかにしんどそうな表情で登山道で寝転んでいたり、座り込んで酸素缶を吸っている人が多く見られた。標高の高い山は侮れない、油断せず歩みを進めていく。

気が付けば九号目に到着。

なんか緑っぽい。
甘味。

順調に余裕を持ったスケジュールで登ることが出来ているので「万年雪山荘」に入り、いったんのんびり休憩。寒い中飲むあったかいココアは格別の美味さだ。

数人ではあるが、ここまで来て山を下る人々も目にした。だいぶ前に山頂について、日の出を見ずにこれから下山するという層の可能性もあるが、おそらく高山病にやられて道半ばで諦めたのであろう。

彼らの無念も背負いつつ(?)三人は山頂を目指していく。幸いにも三人ともコンディションは良好だ。

ブレブレ。

しばらくすると鳥居が見えてきて…

フィストバンプ

それをくぐれば、念願の富士山頂である。

さあ、ここから日の出まで待つぞ~!と時計を見ると3:30。…日の出までは後一時間以上ある。

余裕を持ったプランを組んだのは良かったが、早めに着きすぎると寒い中での待ち時間が増えるのでそれはそれで考えものである。

そこで急遽チャートを変更、日の出後に御鉢巡り(富士山の火口付近を一周するアクティビティ)で向かう予定だった剣ヶ峰で日の出を見ることとした。

山頂の中でも一番の最高地点となる場所なので人でごった返しているだろうと、日の出のタイミングで向かうのは避けるようにしていたが、ここまで結構な人を抜かしてきたので空いてるのではという希望に賭けてさらに登る。

←H君 ワイ君 T君→

日本で最も標高の高い場所。まさに頂点である。

我々と同じ考えで日の出に向けてスタンバイしている人は何人かいたが、日の出まである程度時間がある為、混んでいるというほどではない。

ここまで来ると気温は一桁摂氏台にまで迫る為、ダウンジャケットを羽織って寒さを凌ぐ。…なお、日が出るまでずっと待機のため寒くなり続ける一方。ダウンだけでは物足りないのでネックウォーマーとカイロも導入。

30分ほど待機して地平線が明るくなってきたころ、ツアーの団体が大量に押し寄せてきた。我々が待機していた場所で写真を撮りたいとのことで、一時的に場所を譲る。

意図していなかったが、我々が待機していた場所はどうやら剣ヶ峰の中でも最高端のスポットだったようだ。

そして、更に待つこと数十分…。陽が雲の間からその姿を現す。

お?
おお?
おお~。

これが、日本の頂で見る日の出。なんとも荘厳な光景である。つんざく寒さに晒された身体に陽の暖かさが染み渡り、目頭が熱くなった。

ありがとう、これまで登ってきた山達…。
ありがとう、共に登ってくれた友たち…。
ありがとう、カラダを仕上げた俺自身…。

成し遂げたぜ。

感慨に浸ったのも束の間、多くの人が押し寄せてきていたので速やかに下山への歩みを進めることとした。

下山編

左のギザギザな道。

下山は元来た道を引き返すのではなく、吉田ルートの下山道を利用し、富士スバルライン五合目でバスに乗る予定だ。

剣ヶ峰で御来光を楽しんでから降りようとした直ぐのこと、日に照らされた富士山の影が地上にくっきりと映される現象、通称「影富士」と遭遇。

くっきりはっきり。

真正面からのビューではないものの、とても綺麗であった。こりゃ縁起がいい。

30分ほど歩き、剣ヶ峰のちょうど真反対の位置まで来たところで富士吉田ルートでの山頂に到着。人気のルートだからか、大勢の人で溢れかえっていた。

雲海。

雲一つない富士宮側の景色とは打って変わって、富士吉田ルート側は一面雲海のこれまた神秘的な光景が広がっていた。

この綺麗な眺めを見ながら下山。素敵じゃない!

…と思っていたが、H君がボソッと「ぶっちゃけ15分で飽きるよ」と呟いた。

今回のメンツ内で一番のベテランであるH君、実は富士登山を一度経験しているのだ。

上りのルートは異なっていたものの、下りで利用する道は今回と同様だったようで、その時の体験を思い出し、この一言が出たようだ。

「そんなシニカルにならなくていいじゃないの~」と思いながら下って行ったが、やがて彼が放ったその言葉の真意をこれから知ることとなる。

ザレ場。

上の画像のようなザレ場道をジグザグにひたすらと下っていく。

全体的に荒い砂と小石が敷き詰められている道なので、安定した踏み場がない。一歩一歩、常に足が地面にズブッと埋まるような感覚がある。足全体に力を込めるよう意識して下りないと足を滑らせかねないしんどい道なのだ。

「遷り変る景色を見ながら下っていけば気も紛れるだろう…」と考え、景色を見渡しても、何十分と前に目にした光景と基本変わらず、逆に遥か彼方まで続く果てしないジグザグ道を目の当たりにしてしまいゲンナリするだけである。

途中、ツアー団体が休憩しているところに居合わせ、ガイドさんが「今、とても疲れてる思うんですけど、短く辛いか長く辛いかで言ったら前者のほうが良いと思うんで頑張ってください!」と皆を鼓舞している(?)場面に遭遇した。みんな大変なんだなあ。

二時間半ずっとこれ。

元々 "下山" するのが苦手な人間なので、個人的にはこの富士登山における一番精神を摩耗する瞬間であった。

後半は心を無にしつつ、斜面を下り続けること二時間半ほど。

やっとジグザグエリアが終わったので、ここまで来たら後は消化試合。

ヒヒーン。

富士吉田ルート六合目の近くでお馬さんが列をなしているのを目にした。よっぽどシンドくてもう歩きたくない人や、記念に馬に乗りたい人向けに待機してくれているようだ。

しかし、ここまで来たんだもの、最後までしっかりと地に足をつけて終えたいよね。バイバイお馬さんたち。

それから30分ほど、比較的平坦な道を歩き続け…

フィストバンプ二回目。

富士スバルライン五合目到着。二日にわたる富士登山が終わりを迎えたのだった。

到着時刻は8:30。想定していたスケジュールよりなんと4時間も早い。早ぇんだよ!

…でもまぁ、登山中ケガしたり、高山病に苛まれて大幅にペースダウンするなどのイレギュラーが発生する可能性もなくはないので、バッファーを持たせるのは重要だよね。

想定よりも早く到着する分には調整が効くのでモウマンタイ。もともと予約していたバスはキャンセルし、出発時間が10:00の早いバスに切り替え。

後はボディシートで汗を拭きとったり、お土産を買ったりして、バスに乗った後は三人とも泥のように寝た。

…意識が戻ったころにはもう12:30。既に新宿バスタに到着していた。バスを降りた途端、身体がカロリーを求めていたことを実感する。それはT君もH君も同じであった。

このままでは帰れない…。

炭水化物。

俺たちはシェイキーズでピザをバカほど食べ、富士登山で消費したカロリーを大いに上回るであろうカロリーを摂取した。

やったぜ。

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