プロローグ「始まりの人」

眠らない人なんていないでしょ?
だから当たり前過ぎてみんな気付かないだけでさ

君は昨日と今日は繋がってると思う?

そう。昨日と今日。

だって君だって昨日寝たでしょ?
一度途切れてるじゃない?

………「今」が。

僕が言ってる事わかるよね?

さぁ。ならもう一度聞くよ?


昨日の君と今の君は同じ君だって証明できますか?


プロローグ「始まりの人」


「はぁ?お前何言ってんの?」

………そんなに素っ頓狂な声を出さないでもいいではないか。
まぁ、素っ頓狂な事を言ってんのはこっちか。
至って真面目なつもりではあるが、思い直して「だから」と口にする。
「昨日と今日って繋がってると思う?」
「…………まーたいつもの感じだな。いいぜ、付き合ってやるよ」
「そりゃどーも。で、どう思う?」
「まずお前はどう思うんだよ」
「いやいや、わからないから聞いてるんじゃないか」
「お前さ、自分で答えってもんをまず持ってくるつもりはないのか?」

呆れ顔でこっちを見ながらも、何だかんだいつも僕の疑問を一緒に考えてくれる。
ぶっきらぼうではあるがいい奴だ。
お互い、胡坐をかいて抱えたギターの弦を弄びながら顔を突き合わせる。
まぁ、ようは暇ってわけ。

「ってか何で寝なきゃいけないんだろう?」

「そりゃー眠いからに決まってるじゃんか」

僕の問いにこんだけ即答してくるのは彼くらいだ。
大抵の人間は何とも言えない表情と静寂をセットでお返ししてくれるのだが
彼はただ一人…ズレていて
もしかしたら、ただ面倒なだけかもしれないが
とりあえず飛んで火に入ってくれるわけで…
やっぱり良い奴だ。

「あ、俺さ昨日夢見たぜ」
「? どんな?」

「それが全く思い出せん」
「君…良く人に言えたね」
「感覚って奴があんだよ確かに!感覚」

「君らしいね」

「当たり前だろ!…あ、ほら!俺らしいんだろ?ならやっぱ俺は俺だろ?
 寝てようが起きてようが俺は俺だ。感覚でわかるんだよ」

「…ぷっ。なるほど」
あー。楽しい。
だから彼は好きなんだ。
そこらの奴なんか足元にも及ばないくらい。

「まぁ。いつでもバシバシ聞いてきなさい。面倒じゃないやつな」

「無理だよ?」

彼はもう話すら聞かずそっぽ向いて何かを弾いていたがそれで良かった。
僕もギターを構えて何かを弾きたくなった。

適当につまびいて音を捕まえる。
時々、お気に入りの曲を捕まえて鼻歌を歌いながらも、思考はやっぱり昨日と今日の事に向いていた。

「感覚ねぇ…」
「は?」
「そもそも自分て何?」
「お前さ…………」

五割増の呆れ顔で、それはそれは盛大なため息を頂いた。
「さっき面倒じゃないやつって言ったばかりだろうが。
 ってかそもそも際限無いだろうがその類の問いは。
 お前は哲学者にでもなりたいのか」
「単純な探求心だよ?」
「その探求心で何回俺を呆れさせたら気が済むんだよ」
「あ、そうそう。例えば神様が居るとしてさ」
「人の話を聞けよ」
「神様って寝るのかな。あー、実際居たか知らないけど、アダムとイヴとか?」
「あーもう諦めたよ喋れ。アダムとイヴがどうしたって?」
「人ってそもそも寝てたんかね。始まりの人ってやつはさ」
日本で言うなら神代の時代。
人がまだ神様みたいだった頃。
それはそれは途方もない昔、実在したかどうかもわからない昔。

「あー…………じゃあまぁ、例えばの話」
自分の膝に頬杖をついて、彼が口を開いた。
「お前が神様だったら寝るか?」
「寝ると思う」
負けじと即答してやる。

「おぅ…で、その心は?」
「僕だから…かな?」
結構これは自信がある事でもある。
「あーめんどくせぇ♪やっぱりめんどくせぇ♪」
彼は歌う。
僕は笑う。
そんな僕らの世界。
そんな日曜日の11時45分。
そんな僕らの世界はちょうど15分後の12:00、針が重なった時から
まったく別物になってしまった。



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