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奥日光戦場ヶ原ハイキング その3

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小田代ケ原

ミズナラの林を抜けると、林道に出る。
右手に広がるのは小田代ヶ原、茶色と緑、黄色のグラデーションに色づき始めていた。
貴婦人と呼ばれる白樺の立ち姿がいちだんと映えている。
昼時であったため、ベンチで弁当を食べていると、集団のご婦人方がやって来た。
どこからかと尋ねると、千葉からだと言う。
ほんとうは都内だけど、千葉の人が一人いるから「千葉から」だとのこと。
なるほど、東京都民は都内から出ないよう自粛をかけられているので、東京からとは言えないらしい。
えらい世の中になったものだ。

DSCN9641小田代ケ原

小田代ヶ原から、湯滝へと進む。
ホザキシモツケや、ワレモコウ、日光アザミなど、過ぎ行く夏を惜しむかのように咲いている。
木道をひとりで歩いていると、足音だけがポクポクとついてくる。
さわやかな高原の風が頬を撫でる。
カラマツが、青空に向かって先端を精一杯伸ばしている。

DSCN9658泉門池

泉門池

泉門池で休憩していると、迷彩服を着た男性が、50cmもあろうかと思われる望遠レンズ付きカメラを持って現れた。
カメラ全体も迷彩がほどこされている。
秋山庄太郎にも師事したことがあるというプロのカメラマンだ。
持っているカメラは12kgもあるとのこと。
今朝6時から、このあたりで野鳥を撮影しているが、今日はナイスショットには出会えなかったと言う。
何時間も待つという忍耐力は、私には到底考えられない。

湯滝への道は工事中の為、う回路が出来ていた。
ところどころに鐘撞場所が設置されている。
熊公に、「人間が通るよ」という合図だ。
鳴らしてみると、思った以上に大きな音が鳴り、反射的に首をすくめた。
滝の音が聞こえてからも、滝への道は遠かった。

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湯滝

高さ70mの湯滝の前には、立派な観瀑台がある。
とめどなく落ちる水のかたまり、かき氷のように真っ白だ。
しぶきが霧となって、我が身体全体を包み込む。
滝壺にたたきつける水の音が、腹の底まで響く。

DSCN9679湯の湖

湯の湖にて  野田宇太郎 詩
その日の終わり
山旅のはてにみずうみがあった
孤独なひとのひとみのように
水はしずかに山と空をうつしたまま 
千年のおもひを今もおもひつづけていた

風は木立にオルゴオルをならし
水のおもてをわずかにくもらせて
草かげに
ひそかにみのる苔桃の実を紅くこぼした