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「イムリ」(三宅乱丈)

(「イムリ」のネタバレしてます)

X(旧Twitter)をいろいろ漁っていたら、コミックビーム展に行った方の記事が目に入って、おおおっ!!!と感動したので、これ書いてます

萩尾望都作品目録の管理人さんが載せている画像ですが、差しさわりがあるようだったらコメント下さい、すぐ削除します
コミックビーム展では各漫画家さんたちがお勧めする本のPOPが飾られているようで、これは三宅乱丈さんが描かれたもののようです

ここで、「ワン・ゼロ」と「Sons」を挙げてくるあたり、三宅乱丈さん、あなたは私なのか!と言いたくなるほど、自分と近いものを感じてしまいました(不遜です)。「ワン・ゼロ」のアキラも大好きですが、とくに「Sons」のウィリアムは、全漫画の中で私が一番好きなキャラなんですよ。ウィリアムに対して「好き」という言葉はあまり用いたくないというか、ぴんと来ないのですが、でも、「好き」以外に適切な言い方がなくて……
同族嫌悪も同時に感じるんですけどね(笑)

それで、三宅乱丈さんと言えば、以前「イムリ」を読んだな~、あれはもっと評価されていい漫画だよな~って思い出して、「イムリ」最終巻の26巻のAmazonレビューを見てみたのですが、その中に☆を一つしかつけてないレビューがありまして、読んでみたら、これ自分が書いたのか?というほど、私と文体がそっくり!
世界中で誰も私が書いたなんて思わないとわかってはいますが、私ではないという言い訳(笑)をしたくなりました

絶賛のレビューばかりですが、どうも設定が浅いように思えてなりません。
「考察のために残された未回収の伏線」などといえば聞こえはいいでしょうが、少なくとも私には全巻読んでも整合性の取れる説明は全く考えつきませんでした。多分深く考えずに雰囲気を楽しむ漫画なんでしょうね。そういうのがお好きな方にはよいかと。
以下ネタバレを含みます。

1. なぜカーマが支配者層なのか
もちろん直接的な答えは、「今現在カーマだけに侵犯術が伝わっているから」。
しかし、「カーマ」「イコル」「イムリ」の三種族の中で、カーマの彩輪を扱う能力が一番低いことが示唆されている。それなのにどのような経緯でカーマだけに侵犯術が残ったのか?4000年の歴史の闇に消えたことになっているが、そもそも説明できるのか?無理筋に思えてならない。だって本編みたいに一人でも侵犯術が使えるイコルが逃げ出せば崩れるほどの危ういバランスなんですよ?わざわざカーマに侵犯術を教えたイコルがそんな全員ドジを踏みますかね?

2. 最初の賢者
最初の賢者のモチベーションが謎。力でカーマを従わせたような描写だが、何をしたかった?別にイムリを従わせればよかったのでは?それでしかもカーマは結局イムリに負けたということが示唆されているけれど、結局なんでこんな面倒なことを、しかも一人だけでしたのか?不自然すぎる。

3. イムリの道具
いやいや、こんな便利なものを使わずに使い方も伝わらないなんてありえないでしょ。デメリットとかがあるならばともかく、正しく使えばデメリットないんですよね。他にも、なんで侵犯術を使われたイムリは合わない道具を使うと完全に獣化するけど自ら使ったイムリは一部しか獣化しないのかとか、そもそも一定確率で獣化しないイムリ出てきちゃうのでは?とかよくわからない。抗体はなんで少ししか伝わってないのか?とかなんでドープが持ってたのか?とか。

4. エンディング
いやいやいや。夢見の虫で奴隷化が治るなら、荒野みたいなところで奴隷化されていたイムリ(いましたよね?)の中にもうとっくに奴隷化が治っている奴がいてもおかしくないのでは?最終巻では奴隷化が治りうるような示唆がずっと続いていましたが、違和感が拭えません。

ざっと適当に思いついただけでもこんな感じで、他にも細かい設定やまた心情描写など、不可解な点、ツッコミどころはいくらでもあります。超好意的な解釈をすればなんとかなるのかもしれませんが…。

まあ私の読解力の問題なのかもしれませんけど、うーん。

「イムリ」26巻のfさんのAmazonレビュー

これ、文体もですが、内容もいかにも私が書きそうなことなんですよ。
実際、「イムリ」を読んでいて、イムリとカーマの持つ力のポテンシャルが圧倒的にイムリが上だなって思ったし、最初の賢者は何がしたかったんだろう?と思ったし、イムリの道具の使い方が子孫に伝わらないのはあまりに不自然だと思いました。
それでも、読んだ後に、傑作だ!って思ったのは、結局「総合力」なんですよね。つまり、多少のアラなんてどうでもよくなるほどの、他の何かがあったってことです。
例えば、「Sons」にだって「ロージー変わりすぎ!」だの「トマスは成人して退行したのか?」だの「スティンとDDがそっくりというなら、村の人はDDの実の父親がスティンだと気付くのでは?」などツッコミどころはいくつもあるのですが、そんなの「Sons」という作品の「総合力」の前では些細なことなんです

もちろん、何を「総合力」と感じるかは個人個人で異なるので、私はこのAmazonレビューを書いた方を否定する気はないし(というか親近感すら覚えたり……)、「イムリ」の何かが一つ違っていたら、私の心の中のバランスも崩れて、「さすがに都合がよすぎる」と思っていたかもしれません

で、そこにかなりの影響を与えてくるものの一つが「連載を追っていたか」「単行本をまとめて読んだか」という、読者側の問題だと思うんです

例えば、「宝石の国」は私の場合

アニメ→単行本派→「アフタヌーン」の連載を追っかける

という段階を経ているのですが、読解の質とでも言うべきものが、単行本派の頃と連載追っかけの頃では全然違うんです
連載を追いかけていると、次の連載までたっぷり時間があるから、本当にいろんなものが見えてくるし、いろんなことを想像(妄想)しちゃうから、良くも悪くも、見える世界が違ってきちゃうんです
仮に連載追っかけにかけた同じ時間を、単行本をまとめて何度も繰り返し読むことに費やしたとしても、同じ結果にはならないでしょうね

連載を追いかけることは、読み手にとって、独特の「作用」があるのでしょう

で、私の場合、「イムリ」はほぼ全巻まとめて一気に読んでいるのですが、これが連載を追いかけていたとしたら、その都度立ち止まって、その時点でのいろんな可能性を考えていたはずなので、もっと「イムリ」に厳しく批判的になったと思うんです。このAmazonレビューを書いた方も、おそらく、連載を追いかけていたか、単行本が発売される都度、購入して読んでいたんじゃないでしょうか

連載を追いかけるということは、その時期だけしか味わえない旨味もあるのですが、まとめて一気に読めばそこまで批判的にならなかったものに対して、必要以上に評価を下げてしまうという危険性(?)もあるので、結論としては単行本で一気にまとめて読むのが無難なのでしょう

連載を追いかけるからこそ面白いというように作られている漫画も存在するから難しい話ですが……

で、「イムリ」ですが、これは明確なテーマを持った作品で、最後まできっちりとそれを貫いているんですよ。そこがとても気持ちイイんです。
「本当の心」を自覚する、常に「選択肢」が与えられるべき、「誰かから信頼されること」の大切さ、などなど。
とくに終盤の賢者の語りは圧巻です。こんな素晴らしい人間がいるかよ!と思いつつも、嬉しくて涙が出てしまうほどです。
「イムリ」は最上の「理想」を追求した物語でしょう。
まあ、私自身は「促迫」があれば、嘘つきが見抜けて便利なのになーなどと考えてしまう人間ですが……

ということで、いろいろ差し引いても「イムリ」はやはり大傑作なので、アニメ化は原作布教のためにぜひやってほしいところですが、初めのうちはとっつきにくいことと、チムリ(少女)が上半身裸のシーンがけっこうあって、これは後になって、チムリの体の模様を見せる必要が生じるから仕方ないんですけど、アニメとなると、そこをどうにか工夫しないと難しいでしょうね

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