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中国のAI時代、「ルート技術」開発なくしてはならない

1973年、中国電子工業部は大学と関連研究開発機関と共同で、中国独自の、一貫した指令システムを持ち、米国のコンピュータ標準に倣った新たな「1000シリーズ機」を初めて設計した。最終的に多くの科学研究者の協力により、1年2カ月の短期間で、冷蔵庫を3台並べたような「DJS-130」コンピュータが登場した。

中国初の産業規模を形成したシリーズ機として、発表後2000台以上が生産され、国民経済と国防の多くの分野に応用されており、中国のコンピュータ発展史における重要な一里塚となっている。

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さまざまな電子部品を組み合わせて作られたコンピューターには、13個の起動プログラムしかなく、極めてオーソドックスなパーフォレーションを使って結果を持ち込み、出力していた。中国の研究者たちがこのコンピューターを十分に熟知し使いこなす前に、海の向こうのアメリカでは、すでに半歩先の「PC時代」に突入していた。

HP、IBMを含む会社は小型化されたコンピュータプロセッサを使用して、コンピュータをテレビの大きさに縮小することに成功していた。同時に、元々のコードシステムに基づいてグラフィカルなインターフェースの概念を導入し、企業のための公的なマシンから個人が使用するコンピュータの概念へと転換を行った。パソコンの需要は膨大に膨らみ、インテルが1978年に発売した最初のX86プロセッサ8086、マイクロソフトが1981年に発売した初代WindowsシステムMS-DOSなど、ますます多くの新技術と新製品が登場してきた。

技術の蓄積への投資における大きな差によって、中国は結局、PC時代の波に「乗り遅れ」てしまったのだ。その後のPC業界全体の発展を牽引してきたのは、米国と欧州の企業だった。Lenovoが最終的に「貿易技術」の路線で世界のPC販売台数トップになったとしても、利益のかなりの部分は欧米のプロセッサ会社に献上しなければいけないのが実態だ。

この状況は、スマホやタブレットに代表される「ポストPC時代」に入って以降、ある程度のシフトが起きている。「(前)PC時代」の深い蓄積により、米国、欧州を中心とする企業が依然として消費者電子製品の早期発展を主導した。

しかし今回、中国は3つの重要なカードを手に入れた。1つ目は世界をリードする家電メーカーの生産能力。2つ目は、世界最大かつ最も普及しているモバイル通信ネットワーク。そして3つ目は、世界で最も集中しており、消費意欲が最も強い自国の消費者たちだ。

最終的に中国の家電産業は3G、4G、5Gの後押しを受けて長足の発展を遂げた。最も典型的な例はファーウェイで、わずか20数年の間に、電話交換機を生産する小さな工場から、最終的には世界のIT通信制造業の大手になり、同時に携帯電話、携帯電話SoCプロセッサ、4G/5G技術、通信基地局などの多くの分野で先進国の企業の存在に全く劣らず、あるいはそれを上回る存在になった。

中国は最終的に「ポストPC時代」の終わりに技術発展の波に追いつく事ができた。そして「人工知能の時代」という新しい段階の出現とともに、新しい挑戦がすでに眼前に現れている。-- 中国は「人工知能の時代」に遅れをとらないことをどうやって保証するべきか、甚だしきに至っては全世界をリードすべきか。

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その答えは、私の考えでは「ルート(根)技術」という言葉である。

「PC時代」にしても「ポストPC時代」にしても、その最下層のコアは、依然として汎用計算能力、つまりCPU(中央演算処理装置)が支えている。対照的に、人工知能の時代はアルゴリズム上の全体的な変化により、技術体系全体で重大な変化が起きている。

これは実は原理的に言えば、CPUのコアは半導体の特性に基づいて作られた論理と計算回路であり、人間のプログラマはCPUのバイナリアルゴリズムの特性に基づいて、CPUが効率的に論理的に判断・計算できるプログラムを書く。

対して人工知能は、人間に対するアルゴリズムの「シミュレーション」、正確には人間の脳の仕事パターンのシミュレーションに基づいている。この基礎の上に人類の自己の異なる任務に対する論理判断の構想を結合して、神経模型を構築し、その上で大量の現実データを利用し神経模型を訓練することで、最終的に1つの応用、推論に用いることができる神経模型を得るのだ。

少し抽象的だろうか。では汎用コンピューティングと人工知能の2つの重要なマイルストーンを組み合わせて比較してみてはどうだろう。

1992年、IBMはスーパーコンピューター「ディープブルー」を開発し、いくつかのキャビネットと最大480個の特製「チェスプロセッサ」を利用して、人間のチェスマスターに勝利した。しかし、原理的には、「ディープブルー」がやっていることは複雑ではなく、依然としてそれはまだ網羅的な列挙であり、無限の列挙ではない。

その時点では、人間のチェスマスターは後10手のすべての場合を数えることができたが、ディープブルーは12手のすべての場合を数えることができた。理論的には未来の局面の可能性や対応の優劣がより多く見え、さらにミスを犯しにくいディープブルーが勝つことは間違いないが、その最初の挑戦では実際に人間のチェスマスターに負けてしまった。その後、また1年の調整機関を経て最適化し、ついに雪辱を果たしたのだ。

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(スパコン「ディープ・ブルー」棋王カスパロフに初勝利)

2015年にはGoogle傘下のAIスタートアップ「DeepMind」が囲碁の人工知能「AlphaGo」を発表し、当時の世界チャンピオンと直接対戦した。人間がこれまでで最も複雑なボードゲームである囲碁の理論上の棋譜は10の171乗に達する。各手には様々な打ち方があり、全局面の最終結果に影響を与える。だから人間は、機械が単純な算術で囲碁で人間を打ち負かすことはできないと信じてきたのだ。

しかし、ディープラーニングで自分の人工知能を「武装」した「AlphaGo」は予想を裏切り、人間世界チャンピオンの李世石を4対1で破った。さらに重要なのは、今回の大会で人工知能が、人類の過去3000年の囲碁の歴史とはまったく異なるやり方を見せたことだ。人工知能は人間を打ち負かしただけではなく、囲碁を学び続ける中で、まったく新しい、勝率の打ち方を切り開いたとも言えるだろう。

今大会を皮切りに、世界トップクラスの囲碁界に新たな潮流が広がり始めており、トップ棋士たちは人工知能の使い方を学んだうえで、次々と思考や技を取り入れ始めている。一例を挙げると、中国の囲碁選手の柯潔氏は、「AlphaGoが私たちの棋界に与えた衝撃に感謝する」と述べたことがある。

コアコンピタンスについて言えば、汎用コンピューティングは「代替+加速」人工知能は「擬人+革新」となる可能性がある。これは明らかに次元が違う。

さらに重要なのは、AlphaGo以降、AIをさまざまな業界で活用する企業が増えていることだ。翻訳、音声認識、ビッグデータ、自動運転、目標認識など多くの応用シーンで十分な破壊性を示しており、十分に膨大なデータセットがあれば、人間のプログラミング水準をはるかに上回る神経モデルとアルゴリズムを生成し、最終的に人間のプログラミングをはるかに上回る計算効果を実現できる。

実際、中国はAI産業の発展で一定の成果を上げているが、AIの基盤がより充実している米国や欧州のような「ベテランプレイヤー」に比べ、中国のAIルート(根)技術の蓄積は多くはないという懸念がある。

頭豹研究院の「2020年中国AI産業投融資報告」の統計によると、2019年2月時点で、中国のAI関連企業数は745社で、世界の約21.7%を占め、うち67.3%が2010-2016年の間に創業された。「若い」中国AI企業たちの多くは、2015年の象徴的なAlphaGo囲碁人工知能事件以降に設立された。

AI企業は全体的に若く、このような企業はAI応用層に注力することが多く、底層のAIルート(根)技術に足を踏み入れる企業は極めて少ない。上で集計されたAI関連企業745社のうち、75.2%が応用層企業、22%が技術層企業で、ルート(根)層に位置する企業はわずか2.8%だった。

重要性について言えば、人工知能時代の「ルート(根)技術」の影響力は、PC時代や家電時代をはるかに上回るだろう。「ルート(根)技術」とは、1つまたは複数の技術クラスタを派生させ、それを支えることができる技術のことである。ルート(根)技術は技術樹の根であり、技術樹の全体に栄養を提供し続け、技術樹の栄枯盛衰を大きく左右する。

同じコンピュータでもハードウェアとソフトウェアでプロセス全体を完結させているが、従来のCPUや手作業によるプログラミングとは計算全体の論理が異なるため、人工知能の技術スタックはPCに代表される汎用計算とは多くの違いが生じている。

全体的に言えば、人工知能の技術スタックは主に、最下層のハードウェアインフラ、中層のソフトウェアインフラ、より上層の技術層、そして最上層のアプリケーション層の4つに分かれる。このうち、応用・技術層は応用・ソリューションに偏っているため、合わせて応用・技術層とする。このうちハードウェアインフラの部分はAIプロセッサとAIハードウェア設備に分けることもできる。ソフトウェアインフラは、プロセッサイネーブル、AIフレームワーク、および開発イネーブルプラットフォームに分類される。

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そして「ルート(根)技術」の最も中核的な存在は、「ソフトウェアインフラ」と「ハードウェアインフラ」の2つにある。それは、エヌビディアやグーグルのように、より早く人工知能に参入した大手の布石からも見て取れる。

エヌビディアを例に挙げてみよう。そのGPU製品は、ディープラーニングの訓練と推論のAIに向けて開発された最初の製品である。エヌビディアは自社製品のAIの運用効率を最適化しつつ、さらにデバイス層まで深化し、様々な規格サイズの人工知能GPUのほかに、それぞれのシーンに特化して異なる解决案を作っている。名刺サイズのJetson、自動運転シーンに特化したDriveシリーズ製品などがある。さらに、直接超高速ネットワークでいくつかのGPUを結合して「超大型」GPUを作るDGXもある。

ソフトウェアインフラでは、エヌビディアが発表したCUDAソリューションがさらに影響を与えているが、AIフレームワークでは、グーグルのTensorFlowとフェイスブックが作成したPyTorchをそのまま採用している。これは、エヌビディアが技術層により多くの力を注ぎ、SDKを応用することで業界に深く応用することを選択したからだ。

次はGoogleで、Googleは子会社のDeepMindにAlphaGoプロジェクトの推進を奨励しているだけではない。同時にAlphaGoに十分な計算力を提供するため、グーグルは人工知能専用のTPUプロセッサを開発した。そしてTPUホストをサーバー化し、独自のクラウドサービス体系に入れた。TPUプロセッサーのバージョンとそのソリューションは、今後数年にわたって継続的に更新され、最終的には、TPUをクラウドサービスのビジネスコンテンツとして幅広い顧客に公開している。

2社は「ルート(根)技術」に力を入れているほかに、もう一つ注目すべき点がある。人工知能の全スタック路の技術配置である:エヌビディアはCUDAを使って自社の最も得意なGPUハードウェアとその上の全体のソフトウェアアーキテクチャと生態を構築している。Googleは自社の人工知能技術の豊富な蓄積に基づいて、業界内で最も人気のあるAIフレームワークTensorFlowを作っている。

グーグルとエヌビディアという人工知能産業で世界をリードする2社を見渡すと、いずれも期せずしてAIルート(根)技術の重要なノードを同時に配置し、重要なノード間の協力により、さらに自社の人工知能の生態能力と効率を最大にすることを選択していることが分かる。

最も重要なのは、中核企業のAI生態が、さらに時間の経過に伴い、国全体、ひいては世界のAI産業に波及し、AI産業における企業や国の潜在的な発言権を形成することだ。

中国がAI産業を発展させるには依然として「コーナーでの追い越し」ないしは「後発でのスタート」が必要だが、次に唯一のカギとなり得るのは、独自のAIを発展させることだ。

ではAI時代を突破するため、中国企業は何をすべきか。

最も重要な、かつ中国企業の現在最大の弱点となっているのが、人工知能の基礎となるハードウエアだ。より具体的には、AIプロセッサや、それを利用したさまざまなソリューションである。

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その理由は主に3点ある。1つ目はAIハードウエアがAI応用普及の主要な境界であり、特にスマートフォン、モノのインターネット、スマートシティなど端側のデータ収集と処理を強調するシーンにおいて、オーダーメイドのAI計算能力とコンパクトなソリューションが必要になることが多い点である。2つ目は、プロセッサアーキテクチャと開発方法の高度な統合。最後に3つ目は基礎ハードウェアの自主革新の問題だ。

これに加えて、これらの基盤となるハードウェアを最大限に生かすためには、「チップイネーブラ」、「AIフレームワーク」、「開発イネーブラプラットフォーム」を中心とした効率的なソフトウェアインフラをセットにしなければならない。

一気にこれほど多くの段階で進展ないし突破を成し遂げるのは明らかに容易なことではないが、中国の多くの企業たちはこの数年で多くの成果をあげている。多くのAIプロセッサ、AIアルゴリズム会社が登場し、次々とAIルート(根)技術の空白を埋め始めており、例えば現在、多くの自動車製造新勢力が海外のAIプロセッサを国内スタートアップ企業の製品に切り替えている。

AIの枠組みと開発面で進展を遂げたものはさらに多く、百度や騰訊のようなインターネット大手の長期的な大金配置だけでなく、細分化された応用シーン、例えば音声の意味論におけるiFLYTEK、またスマートシティの応用分野における「AI四小龍」などがある。

ポートフォリオの全体性と展望性の追求から、現在最も進展しているのはファーウェイだ。ファーウェイの人工知能は「ルート(根)技術」を中心とした発展の道だ。現在、昇騰計算産業は基礎ハードウェアから基礎ソフトウェア層まですでに全スタック全シーンの「ルート(根)技術」配置を形成した。また、クラウド、エッジ、エンド側に統一構造の昇騰シリーズのソリューションプランを配置して、その基本ソフトウェア層の異種計算構造CANNとAI開発フレームワークMindSporeはプロセスを最適化するだけでなく、昇騰ハードウェア基礎と深い最適化と統合を行うことが可能で、フルスタック調整を行うことができる。これらのルート(根)技術に加え、AI開発プラットフォーム「MindX」もAI応用の開発・展開をさらに加速させている。

中国のAI時代には、「根」無くしては発展は無い。中国のAI産業の建設が進むにつれて、AIの「ルート(根)技術」の製品と業務をより深く耕す中国AI企業がますます多くなることが予想される。独自イノベーションの「根を持つ技術」を発展させることは、中国のAI産業建設の共通認識に違いない。新たな局面を迎えた人工知能の発展において、われわれは依然として挑戦に直面している。しかし中国のAI企業はすでに過去数十年の努力により、世界のAIルート(根)技術競争において、かつてと同様に追撃ないしは追い越すチャンスがあることを証明している。


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