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理学療法士が出会う、ストレスで痛みを強く感じていると思われる人々

理学療法士として働いていて、長引く痛みに悩んでいる人に接することが多くある。

痛みは、
・侵害受容性疼痛
・神経障害性疼痛
・心理社会的疼痛
に分類される。

痛みを感じるということは、何かしらの刺激が神経に作用し、痛みを伝える神経を通じて脳に伝わって「痛い」と感じる。ぶつけたとか捻挫したとかの組織の損傷による痛みだったり、神経の圧迫による神経痛だったりは分かりやすい例である。

では、ストレスが痛みを感じやすくさせるとはどういうことなのか。

ストレスは痛みの閾値を下げてしまう。ストレスというのは、簡単には家庭や職場の人間関係や家事育児・業務量の過多、環境の変化、本人の性格(完璧主義など)などで生じる。
このようなストレスのことを慢性疼痛の領域では心理社会的要因と表現されている。
慢性疼痛の領域での心理社会的要因は「抑うつ、不安、怒り、破局的思考、恐怖、睡眠障害、休職・休学・失職、家族関係の変化、経済的ストレス、自己効力感の低下、訴訟や補償、医療機関への過度な期待、治療への依存」などが当てはまる。
痛みを抱えている本人にとっての心理社会的要因は痛みの閾値を下げてしまうのだが、痛みの閾値とは何か。

閾値とは、神経が興奮する基準のようなものであり、通常は例えば「10」の刺激量を感知すると「1/10程度の痛み」を感じるように設定されているようなものであり、閾値が下がると「5」や「3」の刺激量で「1/10程度の痛み」と感じたり、「10」の刺激量で3/10程度の痛み」と感じたりしてしまうということである。これは非常に厄介である。

痛みを抱えている本人が整形外科を受診すると医師が各種検査をし我々に理学療法のオーダーが出る。

診断名と照らし合わせながら、症状を確認し、理学療法評価を行う。

関節が硬い、筋肉が硬い、筋力が弱い、不適切な姿勢や動作などを確認し、痛みが引き起こされる原因を探していく。

私の場合は、患者さんにリハビリベッドに横になってもらい関節可動域練習を行いながら心理社会的要因を探る。

・普段運動はしますか?
運動習慣の有無を聞き活動量を確認する

・夜は眠れてますか?
睡眠障害の有無、熟眠感、睡眠時間を聞き、それが痛みのせいなのか、痛みが出る以前からなのかを確認する

・食欲は普通ですか?
食欲低下の場合は抑うつと体重減少の可能性がある

・仕事の有無、どんな仕事をしていますか?
デスクワーク、立ち仕事、力仕事など長時間同じ姿勢でいたり、重いものを持ったりするなど仕事による負荷を確認する

・仕事の日は何時に出て何時に帰宅しますか?
通勤時間や残業時間による負荷を確認する

・休みの日はどんなふうに過ごしますか?
休日に家で過ごすことが多いのか、出かけることが多いのかで活動量を確認する。

・趣味や好きなことはありますか?
インドアなのかアウトドアなのか聞き趣味による活動量を確認する

・お子さんはいますか?おいくつですか?
この年齢によって幼稚園・保育園や習い事の送迎、受験や進学による負荷を確認する

・家事・育児の分担はしていますか?
ワンオペ育児による負荷を確認する
またパートナーの働き方、パートナーとの関係性を探る

ここまでの質問の中でネガティブな返答があったら、心理社会的要因による痛みを考慮し説明します。

心理社会的要因によって疼痛閾値が低下します。
ストレスは痛みを感じやすくさせます。
ストレスがあると痛みを強く感じます。

今感じている痛みは、単純に炎症によって引き起こされている可能性もあるし、心理社会的要因によって更に強く感じている可能性もあります。
身体の硬いところ弱いところを改善し、姿勢や動作を改善して痛みがどう変化するか確認していきますね。
痛みが緩和しても残っているしまう場合は、生活の部分のストレスから痛みを感じている可能性もあるので、睡眠時間や残業時間、家事育児の分担などで改善できそうなところは改善していきましょう。

納得される方は、前向きに、時には開き直り理学療法を継続します。

中には
・睡眠は大事だということは分かるけど家のことをやっているとなかなか難しい
→睡眠時間を削ってまで家事をする必要性があるか、痛みをこらえてまで家事をする必要性があるか考えてみてほしい。

・運動しなきゃいけないのは分かるけど仕事が忙しくて難しい
→痛みをこらえてまで仕事を遂行するのは日本人的だ感じる。自分の健康のための運動ができなくなってしまうほどの仕事量を抱えているのは組織として健全とは思えない。

・夫の仕事が忙しくて帰宅も遅くなかなか1人でゆっくりする時間がとれない
→夫が忙しいことによって妻が痛みを抱えている。これは夫婦の協力が不可欠。妻の痛みがきっかけで夫婦の関係性がこじれないことを祈る。

・夫が家事育児に協力してくれない、家事育児が苦手
→第一子の出産年齢が上がっている。医療機関を受診される人で40代で0歳の子を持つ家庭はかなり多い。40代以上で小学生以上の子を持つ家庭では妻側の受診が多いと感じる。夫の協力を得られないのは年齢が高いほど多い。30代前半以下の夫婦では夫の家事育児参加率は高いと感じる。この場合、夫側が痛みを抱えて医療機関を受診することも多い。痛みが生じた原因について夫婦で話し合う必要がある。人間個体差があるので「私はできるのになぜあなたはできないのか」「世の中の人はやっているのになぜあなたはできないのか」は会話にすらならない。夫婦不仲の兆しが…。

・私は専業主婦で夫は遅くまで働いているから夫に家事育児をお願いするのは申し訳ない
→家事育児は労働である。趣味ではない。夫が稼いだお金で生活しているという思考が邪魔をしている例は多い。お金の面では夫の稼ぎだが、生活が回っているのは妻が家事育児を担っているからであり。夫婦互いに尊重し合うことが必要。専業主婦という仕事に疲弊している妻が家にいるならば夫は妻を休ませるという優しさを提供してほしい。会社でも同じだと思う。誰かの業務量が多くて疲れていたら、業務量を調整するのは当たり前だ。家に疲れている人がいたら家事育児の量を減らしてあげてほしい。

・平日で疲れてしまって休日に運動する気力がない
→業務量が多い人も家事育児の負担が大きい人もどちらも該当する。業務量過多であれば職場の上司と相談する必要がある。家事育児の負担が大きいのであれば夫婦で相談し、実家の協力や家事代行を検討する必要がある。

痛みをこらえてまでやることなのか?
やらなければいけない最低ラインというものはある。食事の支度はしなければいけないし、休めない仕事があるのも理解できる。
家事育児の負担が大きいことも知っている。仕事が忙しいことも理解できる。

我々理学療法士は担当している患者のことを第一に考えなければならない。痛みを抱えている本人の痛みが何が原因で起きているのか。本人の身体機能によって引き起こされているだろうと思われる部分には理学療法を提供する。心理社会的要因も絡んでいそうな場合には生活指導をする。理学療法だけで良くなるのは本人の身体的要因で引き起こされた痛みに対してであり、心理社会的要因は理学療法のみでは改善しにくい、改善できない場合も多くある。

もっと社会が痛みを理解しなければいけない。

みんな痛みを抱えていたら誰が痛みに寄り添ってあげられる?

痛みの教育を普及させなければならない。

まずは医療者から。

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