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ウクライナでの戦争に関して

ウクライナで果てしなく続く戦争を、少し冷静になって歴史を顧みながら考えてみる。

やってみると知っている人も多いごく穏当な話にしかならなかったが、まず最初にあの戦争はラテン系とスラブ系との、言い換えれば西ローマ帝国由来のカトリック+プロテスタントと東ローマ帝国=ビザンチン帝国由来の東方正教会との対立という軸が大きいことを確認しておかねばならない。

この対立軸は90年代のユーゴ内戦でも見られたもので、スラブ系のセルビアに対抗する意図を含め、かつてナチスドイツに協力したクロアチアという国と、その50年後に始まったユーゴ内戦ではクロアチアに加勢した西ヨーロッパ諸国という複雑なヨーロッパ世界全体のあり方をはらむから、先例として考えるならばややこしいところは確かにある。
しかし、ラテン対スラブという宗教の違いを含む対立軸が「冷戦」が終わって間も無くあったことは抑えておかなければならない。

ボスニアでの内戦へと続くユーゴの混乱と分裂に関して、西側ヨーロッパ諸国は同じキリスト教の東方正教会ではなく、なんといつも対立しているイスラム教側のボスニアに味方している。

核ミサイルを突きつけ合う深刻な対立が続いたソビエト時代の記憶が浅からず残っていたからとも言えよう。

しかし、ソビエト以前からロシア帝国は西側ヨーロッパにとっては常に異質で大きな何かであり、故に脅威でもあったという経緯を踏まえるならば、やはりラテン対スラブという民族と宗教の違いが大きかったとしても大きく間違うことはない。

更にウクライナに関しては、スラブ系内での対立構造にも留意しておかねばならない。

東から攻めてくる遊牧民に蹂躙され続けたため、西ヨーロッパよりも国家や民族意識の形成は遅れたが、地理的により西側に位置しているウクライナやポーランドはロシアよりも早くから国家を形成していた。

後発のロシアによってウクライナはもとよりポーランドまでもが支配下に置かれた時期もあり、対ロシアという意識が民族的な意識の形成に関わっていると言ってもいいほど強い。

長くロシアの領国内にあったウクライナよりも、ポーランドにおいてこうした対ロシアへの意識はより強く出ている。

ロシアは「タタールのくびき」と呼ばれる東方から来る遊牧民の脅威を克服して、ようやく国家としての体裁を整えていく。

東方のスラブ系の人々と遊牧民との関わりはかねてより深く、ロシアは遊牧民たちが散らばって暮らしていた広大なステップ地帯を西に進んで大国となり、ウクライナやポーランドを支配下に置くまでその存在感は強大化していく。

ロシアはヨーロッパか否か?という問いに対して、我々はユーラシアだとアイデンティファイする。
これはロシアはヨーロッパであると同時に、それ以上に大陸全体を支配する者であることを意味している。

我々は気軽にユーラシアという言葉を使うが、これはロシアが現代においても大国として強い自負を持つ根本にある概念ということにはよくよく注意を払っておかねばならない。

更にロシアが持つ強い自負として、ビザンチン帝国の後継という意識がある。
我々はヨーロッパを含むユーラシアであり、長く栄華を誇ったビザンチン帝国の正統な後継者である。
これが今もロシアが国家として成立する求心力になっている。

つまりロシア人の民族意識とは、ヨーロッパを含む広大なユーラシア大陸を版図に収め、古代からの歴史を持つビザンチン帝国を継ぐ者としてよかろう。

対西ヨーロッパ諸国という意味で、ロシアにとってクリミアは極めて重要な拠点であるのでここは絶対に譲れない。
西ヨーロッパ諸国にとっても、クリミアを擁する「スラブ系」のウクライナが犠牲になるくらいならば、そこまでならばと折り合える範囲内であり続けた。

2014年のクリミア危機に際し、ロシアは迅速かつ断固とした態度でクリミアを併合したが、またもやウクライナを犠牲に差し出し西ヨーロッパ諸国はこれを黙認した。

一方でソビエト崩壊後、ウクライナはロシアと西側ヨーロッパに対する距離感の違いで政治的に混乱が続いていた。

ベラルーシとは異なり、エマニュエル・トッドが言うようにウクライナは西ヨーロッパに近い価値観を持つ。
チェルノブイリ原発事故後の対応にもそれは既に見えていた。

しかし、長年ロシアの領国内にあり続けたためロシア的な価値観もまたウクライナには根強くあり、今のゼレンスキー氏をはじめ「ウクライナのオリガルヒ」の支持を取り付けなければ政権に就くことはできないという事実にそのことは現れている。

ウクライナは確かに混乱した状態にはあるが、2014年のクリミア危機を境にして西ヨーロッパに近しい意識が強くなっていった。
EUも東のスラブ系国家を含有するまで拡大を続けていた。

しかし西ヨーロッパ諸国にとっては、ロシアと対立してまでウクライナと外交上の親交を深めることには危機感がある。

天然ガスというエネルギーで、ドイツを先頭にロシアに大きく依存している事情もあるが、先述したラテン対スラブという対立軸が横たわっているため、ロシアは西側ヨーロッパの隣人ではあっても仲間とはならず、故にそこには緊張感が歴史的に常態化してきたからである。

西ヨーロッパ諸国にとってのウクライナは、やはりあくまでスラブ系民族の国であり、本来東方正教会の中心であったキエフ(ここでは敢えてこの記述を使うが)を擁する異国として片付けておく方が、対ロシア外交を穏便に済ませておくための方便にもなっていた、そうした存在であった。

今のウクライナ国内での戦争は、だからこそウクライナ国内で留まっていると言える。

ロシアにしても西ヨーロッパの背後にいる米国まで敵にする余力はさすがにない。
西ヨーロッパ諸国は伝統的にウクライナをロシアに犠牲として差し出すことで均衡を保ってきた。

ウクライナの人たちにこの構造を強いる意図は僕には全くないが、多国間の妥協点が今なのだと冷静に立ち止まって考えてみてもよいとは思う。

読みづらいのがアングロサクソン人たちの思惑で、ブリグジット以来ヨーロッパ大陸との縁よりも英連邦を中核にした海洋国家の連合体を志向している。
日本人は米国に目が行くが、英国についても同様に考えておくべきで、巨大な島国である米国が超覇権国家として表に立つものの、全体を操る黒幕は実は常に英国であることもまた知っておいた方がいい。

英国が主導したファイブ・アイズは中露の海洋進出に対抗したものなので、クリミアという問題はあるにせよ、今の指導者たちは基本的にウクライナ国内での戦争継続が望ましいと見ているように思われる。

この件に関しては、ボリス・ジョンソンという腹黒い人物がとりあえず去っていったことは僥倖と考えるべきだろう。

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