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雪に見惚れるようにあなたは

誰に頼まれてもいない日記を書こうと思って、冷たいノートパソコンを撫でる夜が本当に大切だと思う。この夜を守るためなら私は狭いバスルームの1Kにいつ戻ってもいい。すぐに他人の部屋の匂いがする安っぽい薄い壁の部屋。それを思い出しながらも、実家の大きなバスタブで両足を伸ばしきって温まった私の体は本当に贅沢だ。

正月に引いたしつこい風邪がほとんど治って、雪の積もった森の中を歩いてみた。私の散歩道には一応コンクリートで覆われた部分もあるんだけど、ほとんどが土だから、森と呼んでもいいと思う。雪景色を見るのはほとんどこれが初めての2024年の冬だった。雨が凍りついて白くなるほどに寒いのに、出かけたくなったのは雪が積もって外が明るく見えたせいだ。ほんの1cmほどの薄い雪の上は、何かの獣の足跡とひとすじの轍があるだけで、人の足跡を残すのは私が初めてのようだった。しゃがむときらきらと光の粒が雪の近くで踊っている。雪が降ると何もかも隠れて綺麗。人の姿に見惚れることはこれとほとんど同じだと思った。本当は何も見えてない。雪が降って、真っ白になった道の表面2cm以内の輝きをつぶさに見つめる。それくらいのあやふやさでぼんやりと好きでいる。ちょうどいいんじゃないかな。

整形について特集しているのを見るとなんだか肌がざわついて消してしまう。きれいな人を見ていることは好きだけど、きれいになるってなんだろうか。たまに、ぼうっと人に眺められたりする、そのとき相手がガラスの向こうにいると思う。何かを間に挟んで私を映している。それを知っているのに、笑いかけてみたりする。ガラスの向こうにいるから安心。安全で、退屈だね。

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