数字のトリック

大層な見出しでこの文を書き出したのは、今回のスケールの小ささを隠すためだったのかもしれない。

ふと思い出してしまったけれど別に人に話せる程でもない話をこの場で成仏させてやりたいだけで。

例えば、500円。
社会人にとっては、誤差や切り捨てする金額だろうが、僕ら、『ウンコ芸人・改』にとっては明日への日々をつなぐ栄光の架橋である。
もし800円と1200円の定食で悩み続けるやつを見つけたら我々の仲間だろう。是非保護してあげて欲しい。

ある日、週3,4日しか一緒にいない親友の類であり、同期のサンタモニカ高橋と一緒にいた。
高橋というのは本当に現金を持っていない。
現金を持っていない僕が言うんだから本当に持っていない。
そもそも現金を持っていたことがない。常にカードで決算をする。
『じゃあそんな奴がカードの引き落とし日にどうしてるのか』はこの世の七不思議の一つなんだけど、それは野暮だから彼には聞いてない。
どうにかしてるんだろうし、どうしてるかなんとなく想像がつくから。


この日は そんな高橋と一緒に映画鑑賞に行った。
映画まで時間があったから、人生初の猫カフェに行って、「この子達は本当に幸せかな?」と高橋に尋ねて「少なくともその話をしてくるお前といる俺は幸せじゃない」と怒られたりだとか、高橋の地元、北海道でも有名だと言う、彼オススメのジンギスカンを食べて、僕だけ食あたりを起こしたりしたのだが、それらは今回あまり重要ではないので、嘔吐と一緒にトイレに流すとして。

僕はこの日、痛恨のミスをした。
もちろん猫カフェも。胃袋には一つも残ってやしないジンギスカンも。
高橋がカードでまとめて会計を済ませていて、僕は彼に現金を渡す。
世の不変の真理だ。

しかし、映画は違った。
あろうことか間違って僕がまとめてネットで購入してしまっていたのだ。

取り返しのつかないミスだ。
何故なら高橋は現金を全く持っていないのだから。

「いやいや、猫カフェとジンギスカンの時、お前が高橋に渡した現金を受け取れば解決するじゃん!」とでも思ったあなたには申し訳ないけど大声を出させてもらう。

高橋が今握りしめている現金は、月末に高橋が走ってでもカード会社に納める大切なお金なんだよ!今の幻の生活を続けるための!!


僕は高橋の親友だ。
ヤツの大切なお金を奪い取ることなんて出来るわけがない。こういうのはツベコベ言わない。野暮ってやつだ。
持ちつ持たれつ。芸人ってのは助け合いなのだ。
なんて美しいんだろう。

僕が強烈な腹痛で30分しか見ずに外で待っていた映画は無事終わり、そのタイミングでちょうど良く共通の知人から突然連絡があって、数人のサラリーマンの集まりに僕と高橋も顔を出すことになった。
会は大いに盛り上がり、程なくして、運命の会計の時間がやってきた。
サラリーマンAはまとめて会計を済ますべく、大きく叫んだ。

「一人2500円で〜!」

僕はそれが言い終わらないうちに高橋に目をやった。高橋と目が合う。
親友よ。お前も同じことを考えていたんだな。
大丈夫だ。高橋。
こういうのは持ちつ持たれつ。野暮野暮。
僕はまとめて5千円を払った。

帰り道。あのサラリーマンAが駆け寄ってきて、「芸人は大変だから」と、こっそり釣りの2000円を渡してもらった。涙が出そうだった。
2000円を受けとった僕は「交通費が必要」という高橋に1000円を渡した。


さて、寅さん顔負けの人情劇に涙を流している皆さんはお気づきだろうか??
今日、僕は『ウンコ嘔吐芸人・改』には許されないくらい現金を使っているのだ。
事もあろうか自分でもいっぱいいっぱいの映画代と飲み代を奢ってしまっている。

え??なにが持ちつ持たれつ??
オレ、持って持っちゃってるよな??
てか、普通に現金持ってない高橋キモくない???

優しさとは脆いものだ。店を後にする夜風が教えてくれる。
明日を生きる金が尽きる恐怖に気づいた僕は、
人目も気にせず、高橋と飲み代を巡って借金の金額を確認することとなる。

こっからがもう泥試合。
僕は2000円を要求。高橋の主張は1500円。
さて、皆さんは高橋はいくらの借金だと思いますか???
僕は以下の3つのパターンがあると思ってる。



①5000円払って2000円もらった。
二人で3000円だから飲み代は1500円。
さらに電車賃1000円を貸したから、借金は2500円。

②5000円払って1000円帰ってきた。
4000円を二人で割るので、飲み代と借金は共に2000円。

③5000円÷2で飲み代は2500円。
1000円戻ってきたので、借金は1500円。





朝のHRで抜き打ちテストを始める担任の先生はこういう気持ちだったんだろうなぁ〜とノスタルジックな気持ちになっていますが、皆さんどれだと思います??

どれもそれとなく理屈は通っていて、
これこそが本日の主題。「数字のトリック」です。
健全な皆さんにとっては興味の無い、たかが500円だろうから、朗報を一つ。

実はこれは心理テストにもなってるんです。
優しいサラリーマンにもらった二千円の出どころを何と考えるか。

①貰った二千円は僕のもの。そもそも全ての金の出どころは僕なんだから。という考え


②貰った二千円は高橋と僕2人のものだろうという
考え

③貰った二千円は高橋のもの。という考え



心理テストなので正解はありません。
ただ、500円で人目を憚らず大揉めする我々は不正解で、それを見るサラリーマンの目は冷ややかだっただけで。

結果、高橋は2000円分のタバコをコンビニで。
1500円のスーパー銭湯とコーヒー牛乳代を。
後日、それぞれカードで奢ってくれた。

持ちつ持たれつ。持ちつ持たれつ。

あなたのおかげでバイトの時間を減らせます。 マジで助かります。マジで