2DK part5【短編小説】

前作を読んでからお読みください


13.1人の家
奈々さんがこの部屋を去ってから半年が経った。奈々さんのいない夏がやってくる。2DKは僕には広すぎて、毎晩友達を呼んで奈々さんがいない寂しさを埋めていた。奈々さんはあれから意識を取り戻し、今は精神病棟で入院している。もちろん連絡を取る手段もない。奈々さんのための毎日だった。奈々さんに人生を捧げていたと言っては言い過ぎるかもしれないけれど、それ程奈々さんのことばかり考えている日々だった。この家は奈々さんと僕の家なんだ。だから2DKなんだ。大切なものが消えて欠けたその部分を埋められるものなんてないと思った。今まで奈々さんと僕で家賃は半分こしていた。しかし今奈々さんは居ない。僕だけで払うには高すぎる。しかし奈々さんの帰る場所を守っておかなければ。そう思って、今までの倍の分の家賃や生活費を払えるようにバイトを増やした。そこで始めたのは、奈々さんが働いてたシーシャバーだった。少しでも奈々さんを感じたかったからだ。シーシャバーでの仕事は新鮮だった。奈々さんがいつも吸ってるバニラローズを吸わせて貰った。ああ、奈々さんはこれを感じていたのかと、会いたくなってしまった。会えないのに。そんなある日の事だった。

14.再会
シーシャバーでとある人が、人影が似ていると思った。高校の先輩、文乃先輩だ。目元や鼻のかたち、横顔がそっくりだった。気になってずっと見詰めてしまった。ちょうど自分のシフトが終わる瞬間に彼女は去っていったので、気がついたら後を追いかけていた。今考えたらストーカー行為だ、異常である。するとその女性は振り返ってきた。やばい、何か言われる、必死に普通を装おうとした。
「ねぇ、松下愛琉くんだよね?私のこと、覚えてて話しかけずらかった?」
女性から話しかけてくれた。が、身に覚えがない。
「えっと、、、どちら様ですか?すみません、、、。」
「私だよ、私。永野雪乃。文乃の姉です。何度か会ったよね、文化祭とかでさ!文乃と私1個違いだから、私が3年の時1年だったでしょ?」
思い出した。文乃先輩のお姉さん雪乃さんだ。
「どうしてここにいるんですか?」
「いや!私こそだよ!どうしてここで働いてるの!私行きつけだったんだけど、最近来てなかったから気づかなかったのかな!」
「えっと、何故都会に雪乃さんが?文乃先輩がお亡くなりになったあとはずっと長崎でしたよね?」
「うーんとね、、、話したら長くなるんだけど、どうする?シーシャバーもう1回行ってお話する?」
シーシャバーで雪乃さんと沢山話した。話したというか、聞かれたというか。
「奈々ちゃん私仲良かったよ!まさかここが繋がってるとはね~!それでどうなの?」
とグイグイ来られて困っていた。
「と言いますか、雪乃さんの方が何故ここにいるのですか?長崎に住んでるのでは?」
「うーんと、それを話すと長くなるかな、時間大丈夫?」

15.永野雪乃
私永野雪乃は妹を失った。2年前。自殺だった。双極性障害を患っていた妹は、SNSで殺された。
幼少期の頃、東京で暮らしていた文乃と私雪乃は姉妹で子役をしていた。文乃の方が演技は上手いなと思っていた。しかし現実は違った。私の仕事ばかり増えてきて、文乃は演劇を辞めた。その後、父の仕事で長崎へ行った。私はそのまま役者をやりながら新幹線で移動して長崎の高校に入った。文乃も私と同じ高校に通った。その高校は文化祭が盛んだった。2年生と3年生は演劇をやる。それが暗黙のルールだった。私はみんなの推薦により、主役をやる予定だったが、事務所が高校での演技披露にNGを出したので、音響をしていた。正直、役者がやりたかった。仕事の演技と学校の行事の1つの演技は全く違う。そんな私の姿を見た文乃は、演劇をもう一度やりたいと誓っていた。2年生の時は演劇部で主役を務め、3年生の頃は監督・脚本・主役を勤めていた。私雪乃に演技をしてる姿をもう一度見せたいんだ、そう言ってくれて私は嬉しかった。しかし3年生の頃の文乃はおかしかった。朝早く起きて高校に行き、鍵をとって1人で練習、夕方になったら生徒会の仕事をして、夜になって脚本を治したり指導する所をチェックしてまた1人で練習。寝る暇すら無かった。というか、寝てるところを私は見ていなかった。1度文乃はそれで倒れた。食べ物も食べてなかったから栄養失調かと思った。でも違った。クラスのみんなに省かれていて苦しくなって過呼吸が出たらしい。救急車から出てきた文乃は、駆けつけた私に気付き、
「だ、、、い、、、じ、よ、、、うぶ、、、だ、、、よ、、、ご、、、め、、んね、、、」
と言葉にならない声で私に声をかけてきた。そんなことはいいから、あやまらなくていいから、文乃が元気出いればいいから、そう心から願った。
その後病気と戦いながら彼女はまた演劇を始めた。子役をやっていたからであろう、文乃は演技が逸脱して上手だった。文乃の舞台を見に行った時に、彼女の輝きが明らかに他の役者より光っている、悪い言い方で言うと悪目立ちしていた。それがSNSに沢山書き込まれた。
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きもい
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下手
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なんでやってるの
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死ね
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殺してやる
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彼女は2度もSNSに殺された。高校の友達に。そして見ず知らずの他人に。私が東京から帰ってきたとき、家に入り嫌な予感がすると思ったら、文乃の部屋で首を吊って死んでいた。
演劇なんかなければ妹は死ななかったのに。演劇なんて、大嫌いだ。そう思って役者の仕事を辞めて長崎へ帰ってきた。しかし実家は予想以上に酷かった。母はおかしくなりヒステリックが増していった。父はパチンコと酒ばかりするようになり、たまに若い女の子と文乃を重ね、パパ活をしていた。気持ち悪い。

そんなある日の事だった。パチンコに勝って陽気になり、ベロンベロンに酔った父が家に帰ってきた時に私を文乃と勘違いした。
「文乃、やっぱり俺の所へ帰ってきてくれたのか?またいいことしてあげよう」
この言葉でゾッとした。まさか、文乃は私と母に内緒で父の性処理をしていたのではないか。という憶測。恐らくそうであろう。そんな素振りはヒステリックな母のために出さなかったのだろう。あのこはどれだけのものを抱えていたのだろうか。苦しくなって言葉が出ず、動くことも出来なかった。そして何も出来ずに私は実の父に犯された。ここにいてはいけない。でも行く場所がない。無我夢中で走り、電車に乗り、高校時代通っていた事務所にたどり着いた。今は事務所の事務の手伝いをしながら、その部屋で寝させて貰ってる。つまり家なしだ。シーシャを吸うのが好きだから、唯一の娯楽はそれだった。そしたらそこに妹文乃の好きだった人が働いていた。そして勇気を出して一言放つ。

「ねぇ、1度2人で長崎に帰って、文乃に逢いに行かない?」

続きます

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