2DK part7【短編小説】

前作を読んでからお読みください。


20.終わり
夏季休暇が終わって大学が始まった。雪乃さんの居ない家は広くて何かが欠けたような感覚だった。講義は何も無かったかのように始まり、季節も何も無かったかのように変わっていく。いや、何かあったから寒くなったのだろうか。
「奈々、入院したけど、退院したってさ」
そうひなのが言ってきた。俺と奈々さんの関係を知っていたかのように。
「なんでお前がそれを俺に言うの?」
「なんとなく。だって好きだったんでしょ?」
「まあ、そうだけど、、、」
「私さ、恋愛は男と女がすべきだと思うんだ。飲み会の時は空気壊しちゃったけどこれは本音。だって、私が女の子好きでも、結婚はできない。子供も産めない。そうしている間に周りは結婚して子供も産まれて、親に孫の顔がみたいといわれるに決まってる。だから私はこの恋が両思いだとしても隠すことにしたの。それでその相手の子は心を壊しちゃったけど。あいるには酷いことをしたとは思ってない。でもあの子には酷いことをした。幸せになって欲しいだけだった。じゃあね。」
そう言ってひなのは去っていった。ひなのも同性愛者だったのは驚いた。いや、同性愛者なのではなく、ただ奈々さんに惹かれただけなのかもしれない。

その後奈々さんから一通の手紙が来た。
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久しぶり。元気にしてる?ちゃんとご飯食べてる?
私は精神病棟を出て自宅療養をすることにしました。今は群馬にいます。
学校は退学しました。教師になりたかった訳でもないし。未練は無いです。
私の学生生活に関わってくれてありがとう。
色々なことを助けてくれてありがとう。
一緒に暮らしてくれてありがとう。
もう、そっちには行けません。
私の居場所を守るためにずっと同じ家に住んでいるのなら、家は解約して下さい。
本当にありがとうね。
もう、二度と会えないと思います。
私のことを忘れて元気に暮らしてねって言いたいけど、
忘れられたら悲しいな、ちょっとだけ覚えといて下さい。
今までありがとう。
白河奈々
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読み終えた頃には過呼吸を起こしていた。なんでもう二度と会えないんだ、同じ空の下なら会えるだろ。苦しかった。苦しくなって、何となく雪乃さんが置いていったタバコを吸った。噎せるのかと思ったけれど、意外と吸えるもんだ。


奈々さんの為に生きてきたつもりだった。
ああ、これからどう生きていけばいいのだろうか。

タバコを吸って考えても何も浮かばなかった。
これは僕の大学の頃の日記である。

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