見出し画像

この星の摂理をめぐる~星野道夫の旅~

『クマよ』(星野道夫/文・写真 福音館書店)

 あけましておめでとうございます。
すっかりご無沙汰している間に年も改まってしまいましたが、今年も精力的に楽しみながら、絵本や児童書をご紹介してゆきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

 昨年10月にブログをアップしてのち、次にご紹介するならこの一冊…と、決めていた絵本があります。

 それが今日ご紹介する写真家・星野道夫さん作『クマよ』です。
この絵本は小学校高学年を中心に、数え切れないほど、子どもたちに聞いてもらいました。
 この他にも『ナヌークの贈り物』や『アラスカたんけん記』、『森へ』、『アラスカ 光と風』なども読み聞かせやブックトークで子どもたちに紹介し、手に取ってもらいました。

 読み聞かせを通じて、わたしも星野さんの大ファンになり、2016年東京で開催された「星野道夫没後20年特別展 星野道夫の旅」にも出かけました(下の写真はその時買い求めた図録です)。

星野道夫の旅

 環境破壊や気候変動など、地球の危機的状況が私たちの耳に届いて久しいです。人間は気づき、歩みを緩め、僅かずつでも自然環境を取り戻そうと努力しているとは思いますが、それでも破壊、破滅への道が途絶えたわけではありません。

 星野道夫さんが急逝されて今年で26年。
「…どうして人間はここにいるのか。そして、どういう方向へ行こうとしているのか」という根源的な問いを生涯のテーマとして作品を世に送り出してきた星野さんの遺稿とメモを元に、没後最初に作られた絵本、『クマよ』(福音館書店)を今年初めの一冊にしたかった。

クマよ①

 星野さんは町を歩いていて、ふと気づきます。

「遠い 子どもの日 おまえは ものがたりの中にいた ところが あるとき ふしぎな体験をした 町の中で ふと おまえの存在を 感じたんだ 電車にゆられているとき 横断歩道を わたろうとする しゅんかん おまえは 見知らぬ 山の中で ぐいぐいと 草をかきわけながら 大きな倒木を のりこえているかもしれないことに 気がついたんだ 
気がついたんだ おれたちに 同じ時間が 流れていることに」

そして
「いつか おまえ(クマ)に 会いたかった」 ことを鮮やかに思い出したのです。

 わたしにも覚えがあります。
気もちや想いが一足飛びに、遠い憧れの地へ行ってしまうこと。
そこで暮らす人々や動物たち、風景に、一瞬、気持ちを強く向けることが…。

クマよ③

 でも、そんなわたしと星野さんとの違いは、星野さんは想って間もなく、実際に(グリズリーのいる)アラスカへ向かったことです。大学の夏休みを利用してアラスカへ渡り、エスキモーの家族とひと夏を過ごしました。
そこから星野さんの人生は大きく動き始めます。

 日本の大学を卒業したのちアラスカへ渡り、現地の大学に入り直して野生動物管理学を学び、アラスカを中心に動物の観察と撮影を続け、大自然とそこに生きる動物たちを被写体とした作品で写真家として認められました。

まさに…「動ごくのは、自分(by 相田みつを)」ですねー。
自分から動かないとなんにも始まらない。

クマよ②

「おまえは こぐまと あそんでいる そっと 話しかけるように そっと だきしめるように おれも このまま 草原をかけ おまえの からだに ふれてみたい けれども おれと おまえは はなれている はるかな 星のように 遠く はなれている」

 グリズリーを観察するうち、星野さんの中に芽生えた動物たちと自分を隔てるもの。

 けれど、その後出会った極北インディアン、いわゆる先住民たちと生活を共にし、野生動物の狩りをして命をつなぐ毎日の中で、自らの中に動物の命が息づき、それが連綿と繋がっていくことを実感してゆきます。先住民たちが大切にしているもの…それは、目に見えないものへの畏怖。

クマよ⑤

「もう何日も おれたちは 同じ森の中で ねむっている (中略)おまえのすがたも 見えないが その気配が わかるんだ もう何日も おれたちは 同じ森の中で ねむっている」

 この絵本は星野さんの心の変遷を、撮影メモや遺稿ともとに辿っていく物語です。
星野さんの死の前年に出版された『ナヌークの贈りもの』(小学館)の中にこんな一節があります。

「人間はクジラに向かってもりを投げ、クジラはサケをのみこみ、サケはニシンをのみこむ。生まれかわっていく、いのちたち。(中略)いつの日か、わたしたちは、氷の世界で出会うだろう。そのとき、おまえがいのちを落としても、わたしがいのちを落としても、どちらでもよいのだ」

 旅の最後に星野さんが辿り着いた、ひとつの摂理。
あらゆる生命が深く結びつき、分かち難く繋がりながら、次の生命を生み出していく。その地球という壮大な循環システムの中の一部である自分。

 絵本『クマよ』には、長い旅で得た星野さんの答えがシンプルに語られています。

 星野さんはロシア・カムチャッカ半島クリル湖取材の途中、ヒグマとの遭遇事故で急逝しました。
『ナヌークの贈りもの』の達観したような一節が、改めて胸にひびきます。

 昨年9月に刊行したヒグマの生態を丁寧に追った『森と川、山と海 ヒグマの旅』(二神慎之介/文・写真 文一総合書店 )も併せて掲載しておきますね。

 ヒグマの一年がどれほどの苦労に満ちているか…がよくわかる一冊。

 

 星野さんが人類に遺したメッセージを受け取ったら、どうか、子どもたちにも伝えてください。

クマよ⑥


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?