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夢はみるものじゃなく、実現するもの!

1990年代、日本にもファンタジー小説ブームが巻き起こりましたねー。
それまで本などに目もくれなかった男の子たちが夢中になって読んだのが、『ハリーポッターと賢者の石』(J.K.ローリング/著 静山社)。

我が家の息子たちも例外ではありませんでした。一時、野球よりサッカーよりハリーポッター!という時期がありました。
でもそれは初めてのブームではなく、1970年代、J.R.Rトールキンの『指輪物語』やC.S.ルイスの『ナルニア国物語』などが邦訳され、当時の子どもたち(いや、大人も)を熱狂させました。

ファンタジーは西欧からやってきた文学と思われがちですが、日本独自の本格ファンタジー小説も存在します。そのさきがけと言えば、佐藤さとる著『だれも知らない小さな国』(1959年 講談社)ではないかと私は思っているんですが、いかがでしょうか?
(当時、あの物語を読んだ子どもたちはコロボックルに会いたくてたまらなかったハズ!)

わたしの子ども時代(1970年代)にはファンタジーというジャンルが日本では明確になっていなくて、空想物語とかメルヘンとか言われていたように記憶しています。
空想科学映画…なんていう言葉も使っていましたっけ。

さて、前置きが長くなりましたが、今日ご紹介する絵本は、佐藤さとるさんの絵本『おおきな きが ほしい』(さとうさとる/文 むらかみつとむ/絵 偕成社)です。

わたしが一読して感じるのは、子どもの穏やかなる日常。
昔を知らない若い世代の人には(もちろん)感じられないと思いますが、絵本の中に流れるゆったりとした子どもの時間は、時代と共に失われてしまったもののひとつではないかと思います(昭和30~40年代のわたしの子ども時代はとにかく暇でした(〃艸〃)ムフッ)。

主人公のかおる少年も、あれこれと空想して楽しむ時間のゆとりがある。
大人が読むと懐かしい情景がよみがえってくる絵本です。

〈…せまい ちっぽけな にわには、ちっぽけな 木が、たった三ぼんしか ありません。 つつじが 二ほんと、やつでが 一ぽんです。 とても、木のぼりは できません。
「ぼく、おおきな 木が ほしいなあ。」
かおるは、ためいきをつきました。
だって、かおるの かんがえている おおきな 木は こんな すてきな 木だったからです。〉

おおきなきがほしい①

庭に大きな木があってツリーハウスなんかもあって、木陰があって、花壇があって…ついでに薔薇の温室があって…なんて、実際、日本の極狭住宅では夢のまた夢でしょう。
けれど、わたしたちには、想像という〈知の翼〉があります。
翼を広げればどこまでも行ける、何でも手に入る。

かおる少年は、知の翼を大きく羽ばたかせ…、根っこに近い太い幹の部分から木の梢へ向かって登りはじめます。

〈うーんと ふとくて、もちろん、かおる ひとりでてを まわしたくらいでは かかえられないような ふとい 木です。…
「だから、どうしたって はしごが いるんだ。」
…ぐらぐらすると あぶないので、 はしごは えだに しっかり しばっておくのです。〉

おおきなきがほしい②

 うん!いいねぇ…。建築家みたいな面持ちで基礎を頑丈に造ることをかおる少年は想像する。
木にあいたいくつかの〈ほらあな〉にもはしごをくぐらせ、そこを通って上へ上へ。
途中には可愛いツリーハウス。

〈「ここはね、えだが 三つに わかれていて、その えだに まるたんぼうを わたして、なわで しばりつけて、その まるたんぼうの うえに いたを ならべて、くぎで とめて、その いたの うえに ぼくの こやを つくってあるのさ。」
かおるの こやの なかには、 すみっこに だいどころが あります。みずも でますし、こんろも おいてあります。へやの まんなかには、テーブルが 一つと、ちいさい いすが 一つ あります。かおるは ここで ホットケーキを やいて たべたりするのです。〉

益々、素敵だ!かおる少年は、ちゃんと妹のかよちゃんを連れてくることも考えている。
小さくてまだ木に登れないかよちゃんのための〈つりかご〉をつくる。
そして、動物や鳥たちの家。
〈みはらしだい〉には、かおると一緒に、かけすややまがらたちが憩う。

おおきなきがほしい③

〈「ぼく、とりに なった みたいだ。」 ほんとうに すてきな きぶんです。 「わーい。」
かおるは、おおきな こえを あげます。 この みはらしだいに のぼったら、かおるでなくたって きっと そうするでしょう。〉

その後も、かおる少年の想像の翼は衰えることを知りません。木の上での春夏秋冬をつぶさに思い描くのです。

そして、いよいよ かおるは夢の実現に向けて一歩を踏み出します。
構想を絵に描いてお父さんに見せます。
お父さんも同じ夢を持っていたことを知り、かおるの目は輝きを増していく。

おおきなきがほしい⑤

現代の様々な科学技術のもとをたどれば、実はかおるのような少年時代の思いつき、空想、夢が少なくないのでは?と思います。
想像したことは実現できる可能性を秘めているんですよね。

子どもの夢の後押しをしてくれる美しい絵本。

最後に作者である佐藤さとるさんの言葉をご紹介して本日のブログを終えたいと思います。

〈ファンタジーでは、文章だけを使う。空想というのも“人の考え”であり、人は言葉とイメージによって考える。言葉は無論のこと、イメージも文章に置きかえられるから(言葉は元来イメージを伝達することから発達したようなものだから)、空想は文章によってつかまえるのが、もっとも正当で、より自由により完全に表現できる可能性が高いのである。しかし、だからやさしいとはけっしていえない。 『ファンタジーの世界』(講談社現代新書より抜粋)〉

起きて醒めてしまう夢ではなく、見るごとに精密に鮮やかになり、生きて成長する夢…。それを厳しいまでに言葉で表現しようとした佐藤さとるの精神は、今の子どもたちはもちろん、昔子どもであった私たち大人も元気づけてくれるでしょう。

おおきなきがほしい④


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