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わたしは、ぼくは、なにでできているか?

こんにちは。
今日もお越しくださり、誠にありがとうございます。

私事ですが…。
今月、上の息子が30歳になりました。
この夏の大片付けの最中に見つけた子育て日記をぱらぱらめくっていたら、彼が幼稚園年長の時、初めてお小遣いでわたし(の誕生日)に買ってくれたイヤリングの記述があり。
年と共に涙もろくなっているわたしの涙腺は、またまた大崩壊してしまったワケです(笑)

その時、彼はひとりで(おじいちゃんに貰った)千円札を握りしめ、歩いていける雑貨屋さんに行き、「いま32歳のお母さんに似合うイヤリングをください」と店員さんに言ったようです。
優しい店員さんは「お母さんは何色が好き?」と訊いてくれたらしく、息子は「かわいい色」と答えたそう。店員さんが選んでくれたビーズが連なったイヤリングは小さな箱に入れてもらいラッピングされ、それを息子から手渡してもらった…32歳のわたしも大いに泣きました。

ピンク色と空色の透き通ったビーズのイヤリングは、今でもわたしの宝物です。

わたしの思い出話が長くなってしまいましたが…。
神沢利子さんの『くまの子ウーフ』(井上洋介/絵 ポプラ社)にも、お母さんのためにプレゼントを考える優しいクマの男の子が登場します。

〈「今日はおかあさんのたんじょう日だから、プレゼントをあげなくちゃ。なにがいいかな。ビー玉、花火、野球のバットは、どうだろ。」たちどまって、かんがえました。・・・
すると、木の枝で、小鳥がわらいました。
「おかしなウーちゃんね。それ、みんな、ウーちゃんのすきなものばかりじゃないの。おかあさんのすきなものを、あげなくちゃだめよ。」・・・
「ぼくのおかあさんも、木の実がすきだよ。それから、はちみつも、かにも。」〉

くまの子ウーフ①

ウーフは山ぶどうやカニやはちみつを、お母さんのために採ろうとするのですが、すべて失敗。
ズボンを山ぶどうの色で汚して、カニに指をはさまれ、みつばちに攻撃されてあえなく撃沈。
おでこを蜂に刺され、仕方なくウーフは野の花をつんで帰りました。
すっかりしょんぼりしたウーフにお母さんはおでこの手当てをしながら言うのです。

くまの子ウーフおかあさん


〈「おかあさんのだいすきなものは、ちゃんとここにあるのよ。・・・ほら、おとうさんがいるでしょ。それから、ここよ。はちにさされても、ころんでも元気なくまの子ウーフがね。」
「わあ。」 ウーフは、おかあさんにだきつきました。おかあさんはウーフをだきあげました。
「おかあさん、おたんじょう日おめでとう。」とウーフがいいました。
「ありがとう、ウーフ。」と、おかあさんがいいました。 『続・くまの子ウーフ』より〉

もう…これは親子の蜜月の物語。
蜜月は長く続かないから、貴重で意義深い。
ウーフの年齢は、たぶん4歳~5歳といったところでしょう。幼児期ど真ん中。
人間として生まれて、この時期にしか得られない最高の高揚感と好奇心と哲学的思考というものがあるとわたしは思っています。

世の中のものすべてに疑問を持つ。「なんで?どうして?」の時期です。
それだけではなく…事象を自分なりに受け止めて、「こうなのかな?」「どうすればいいのかな?」と、思考を深めていくこともする。
親も、子育ての醍醐味が味わえる時期に入って来るんですよね。

この幼児の持つすべての要素を詰め込んだのが、『くまの子ウーフ』ではなかろうかとおもうわけです。

くまの子ウーフ単行本


自分以外のものになりたいと思いつくウーフに、魚が「魚になりたければ、目を開け続ける訓練が必要だし、魚には舌がないから引っこ抜かなくちゃならない」と言われて驚くウーフ。

毎日卵を産み続けるめんどりのカラダはたくさんの卵で出来ていると思うウーフ。じゃあ、自分は何でできているのか?と疑問がわいて友人のキツネに相談すれば、ウーフはおしっこするからおしっこで出来ているんだ!と言われショックを受ける。その後、さまざまな出来事を経験し、最後に「ぼくはぼくでできている!」と確信を持つウーフ。

可愛がっていた青いチョウチョをあやまって死なせてしまったウーフ。お墓を作って、その前で泣いていると、またまたキツネの友だちに「この前、トンボをとって遊んだ時にトンボの羽がもげたけど、ウーフは泣かなかった。魚も肉もぱくぱく食べるくせに、チョウチョだけはなぜかわいそうなの?」と訊かれ、益々かなしくなるウーフ。

くまの子ウーフ三人家族


これらはすべて読み切りのエピソードとして挿入されているんですけど、なんとも根源的な疑問なんですよねー。

これが人間の成長期として最もエネルギッシュな幼児期というもの。
すべての人にあった幼児期。
リアル幼児期を過ごしている子も、その子を育てている親にも同じ日々がある(あった)。だから、親子で読んで楽しめる最高の物語になっているんだなぁ。

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作者の神沢利子さんは、少女時代を樺太で過ごし、大自然の豊かさと同時に、非情さ、恐ろしさも経験しています。その経験をもとにした傑作に『ちびっこカムのぼうけん』(昭和35年初版 理論社)があります。


それを皮切りに多くの作品を生み続けた神沢利子さんの打ち建てた金字塔が、まさに、この『くまの子ウーフ』ではないかと感じます。

「彼女(神沢さん)が自伝的小説で追及した生きることへの意味がここ(「くまの子ウーフ」)には集約されている。しかも、お話の面白さを忘れずにだ。幼児でなくても、『くまの子ウーフ』は何度読んでも飽きることがない。」と児童文学者で評論家の西本鶏介さんは著作(『子どもの本の作家たち・現代の児童文学』)の中で述べられています。

くまの子ウーフ絵本

小さな子には彩色がついた絵本バージョンもあります。かわいい。


ウーフはやはり、井上洋介さんの描くウーフ以外にはあり得ませんねー。


「ストーリー性によりかからず、もっと端的にものの本質に迫る仕事がしたい」(『禱りにつながるもの』)との想いを常にもっていた神沢利子さん。

神沢さんは幼年童話を書かれるときに意識されていることがあるそう。
「その子(登場人物)を常に生き生きさせておくのが大事だと思っています。だから、私はしょっちゅう子どものころに飛んで行って、そこにもぐり込んで書いています」(『子どもの本の書き手たち』)とのこと。

これが出来るって、なんともスゴイことですよね~。


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