天下井と須嵜について考える。

2022年はとにかくザワXというか瀬ノ門に狂っていたので、その当時の文章を公開します。
ザワX3回目の鑑賞を終えた段階での感想文です。

●「友達だから」が伝わらない

あの状態の2人を見て、「2人は元々幼馴染で友達同士だったけれど、今はいろいろあって対等な友達同士ではなくなってしまったんだな」と考えるのは絶対に不可能。なので、最初はあまり頭を使わずに状況を見てどういうことか予想してみると「天下井が須嵜の弱みを握っているかなにかで、須嵜は仕方なく天下井に従うしかないのではないか」という可能性が浮かんでくる。ただ実際のところ、「須嵜は天下井と一緒にいたくない」という事実そのものがまず存在していない。須嵜は天下井が常に何かに怒っている状況や、昔とは変わってしまったいろいろなことについて悩んだり悲しんだりはしているけれど、それはいつかなんとかなると期待しているので。
須嵜が天下井と一緒にいたいという前提で考えた時に次に思いつくのは「だとしたらなんで一緒にいるのか?(または一緒にいたいのか)」という疑問。これも「須嵜はなんかされてるんじゃないか?大丈夫か?」という最初の心配と同様、鮫岡や司、轟くんなどから発せられる。瀬ノ門の2人を見ている周囲の人々の頭の中に「天下井と須嵜が友達同士」という可能性がないとすれば、仲間になるもう一つのパターンとして「リーダーについて行く」ということが考えられそう。これはある人の強さだとか、考え方などから伝わる人間性とかに魅力を感じたり憧れたりして一緒にいたいと思うようになるということ。しかしながら、須嵜の方が天下井より圧倒的に強いし、天下井の強さとか戦うことへの考え方は楓士雄たちがやっているテッペンを目指すケンカとは完全にズレている。そうなれば当然「何が良くてあんなやつと一緒にいるんだ?」と思われることになる。周りは須嵜は天下井と一緒いない方がいいのではと感じるので、そう伝えるけれど須嵜はそれに同意することはないし、それについて事情を話すだとか議論するということもしない。なので、「須嵜はなぜかは分からないが天下井と一緒にいる」でみんなの考えは止まってしまう。これでは助けようがないというか、どうしようもない。楓士雄は天下井に対して「うるせぇな」と言っていたけれど、天下井を自分の考えをべらべら話すものの、それについての他人の意見など許していないので対話にはならない。なので一人でずっとうるせぇをやっている状態。須嵜もまた、昔の約束というものだけを頼みにしてそもそも天下井との関係に他人の意見やその他の介入を望んでいないので、誰かに理解してもらって関係が良くなる手助けをしてもらいたいという考えもない。2人がちゃんと会話をしないどころか、その他の人々ともまともに関わっていないという。
そんな中で須嵜が天下井について行く理由は「一緒にテッペンを目指そうと約束した友達同士だから」という至ってシンプルなもの。この約束をしたから、2人でこの夢を叶えたい。だから今がどんな状況でも傍にいようとする。須嵜には「自分を守ってくれた公ちゃん」という思い出がある。その時天下井は友達だからというただそれだけの理由で戦ってくれたから、須嵜も同じことを天下井に対してやっているのではないだろうか。そこではお金だの、立場だの、強さだのという要素はまるで問題にならない。あの約束がある時点で、須嵜にとって天下井は「あんなやつ」にはなり得ないのだと思う。さらに、もう一つの約束である「強くなって公ちゃんを守る」と、自分の離れていた期間に変わってしまった天下井への理解が天下井を否定しないという須嵜のあり方を補強してしまっている。
須嵜は天下井を守るために強くなったので、「お前の方が天下井より強いのになんで」という指摘は意味をなさない。守らなきゃいけないのでそりゃあ公ちゃんより強い方が良い。
お金目当てで自分に近づいてくる人たちによる掌返しに何度もあってきたと思われる天下井。自然と人はどうせ本心を語らない、信用ならないと思うようになっていく。父親の存在も会話の中に出てくるけれど、天下井は持て余されている感じ。須嵜親子に自分の子の面倒を見させ、とりあえずどこかしらの学校に入れておくことで体面を保ちつつ学校も押し付ける先にしているのかもしれない。期待も、叱責もなく、関心を寄せないというやんわりとした拒絶。どれだけ学校で問題を起こそうが、金を使おうが、その結果何事も起こらないことを考えると放っておかれているんだなというのが伝わってきて余計に辛い。上か下かみたいな、天下井がよく語っている価値観は親の影響があるようだけれど、天下井は親との関係について言及しない。尊敬しているとも、親のやり方に反抗しているとも言わない。エリートの葛藤のパターンとして、親を目標にして大切に想う気持ちは捨てられないけれど、認めてもらえないだとか、本心では逃げ出したいみたいなものがあるけれど天下井の場合はそういうのではなさそう。向こうが関心を持ってくれないならと開きなおって好き勝手してるみたいな。親の期待に応えるっていうのもある意味でお金のことと同じというか、親にとって都合が良いかで価値を判断するわけだから、ある要素を持っているからこそ認めてもらえるということの一つだと思う。そういうものを抜きにして、ただいるだけで良いと言ってくれることを望んでいるのになかなか上手くいかない。そもそもない親の期待など裏切りようがないので、いっそ金くらいは好きに使うのかも。それから冷たい考え方してるようで実際には割り切れてないし、やつ当たり的なとこもあるので喋り方にもそれが出てる。気分の浮き沈みが激しくて、他人のことを気にしてるからこそイライラしたり、拗ねたみたいな喋り方になる。感情を乗せずに自分の得だけを考えて命令をするという感じじゃない。自分の思い通りになる環境が当たり前じゃないのを本当はちゃんと分かってるからこそ、上手く行ってる時の機嫌がやたらと良い。嫌な奴ではあるけれど、一方的に周りの人間を傷つけるんじゃなくて自分も何かするたびにダメージを受けているのでなんとなく大丈夫かなこの子……って気持ちにさせられる。
この辺りの天下井が傷ついていて、これ以上嫌な目に遭いたくないがゆえに今の考え方を押し通そうと躍起になってる感じをおそらく須嵜は汲んでる。昔仲良くしていた時の公ちゃんとは変わってしまったところがたくさんあるから、その度に天下井が言っていることが気になっているようだけれど何をしてあげたらいいのか迷っているみたいな様子。だから怒っているわけではないのだと思う。むしろ、須嵜にとって問題なのは2人でテッペンからの景色を見るという夢が叶わないこと。三校連合の集まりの場面でも、天下井が「与えるのは恐怖だけだ」と言ってるのを聞いている時よりも、その後の「絶景を見せてやるよ」みたいな台詞を聞いた時の方が須嵜の表情が険しくなっている。テッペンからの景色を見るというのは天下井だけの夢じゃない。須嵜は天下井の邪魔になるものを全部排除しているので、事情を知らない人たちからすると「天下井がテッペンを獲れるように須嵜が支えている」というように見えるけれど、須嵜はあくまで「公ちゃんと一緒にテッペンを目指している」つもりなんじゃないだろうか。天下井があれこれ命令してくるのは良いけれど、自分達2人の夢に天下井が勝手に他人を介入させてしまったことを須嵜はすごく嫌がっているように見える。
須嵜の実力からしてあんな大したことないやつの言うことを聞いているのはおかしいと感じて、鮫岡が須嵜に声をかけている。三校連合が集まって、天下井の話を聞いてる最初の段階からして鮫岡は天下井の方を馬鹿にしたような顔で見てからすぐにそっぽを向いてどうでもいいという態度を見せている。それから天下井のことは無視して須嵜を観察している感じ。鮫岡は最初の段階から天下井の考え方は合わないと判断していて、三校連合なんかはくだらないと思っているけれど風神雷神が轟くんを倒すまでは付き合うことにしてる。鮫岡は須嵜の喧嘩に対する姿勢とかは自分達に近いんじゃないかと考えているんだと思うし、そこは当たっていると思う。司を鉄パイプでで殴って倒すところで須嵜は本気で驚いているし、楓士雄をナイフで刺そうとした時もそれでは勝ちどころか取り返しがつかないことになってしまうと思って必死で止めているから。しかしながら、天下井とくっついていなかったら須嵜は考え方がまともで他の人間とも関われるかといったら、それも疑問ではある。そもそもなみ高にいた時も、ひたすら強かっただけで誰ともつるんでいない一匹狼だったし。天下井が来たから仲間とかと離れたりいろんなものを捨ててそっちに行ったとかじゃなく、なみ高にいる時も須嵜の世界は「公ちゃんと俺」と「それ以外」という形で切り分けられている可能性。だとすれば鮫岡が天下井のことをついて行く価値のないやつのように言うのは須嵜にとっては的外れだし、全部が余計なお世話。天下井は他人を遠ざけようとしてるけど、須嵜はそもそも基本あんまり他人に関心がなさそう。この、他の人間は自分達の夢に関係ないみたいな姿勢と、「負けたら夢が永久に叶わなくなる」という気持ちがあるから、なんとしてでも須嵜は相手に勝とうとする。天下井の今の状況についてよりもそっちに必死になってる。このあたりも他人の理解が追いつかない点かなと思った。
そうは言っても、突き詰めたら「友達だから」に行き着く。須嵜には天下井のことを好きでいる理由がちゃんとある。そして友達だから、完璧じゃなくても許せるし、傍にいようとする。伝わらないだけで、根っこの部分は楓士雄と司の関係と実は同じという。ただ、信じられないレベルで赦し続けていて、「俺のことはどうしても信じてほしい」とか、そんな風に気持ちを伝えられないだけ。

●天下井から見た須嵜、心の揺らぎの過程

やっぱり人のことを完全に駒として見てるわけじゃないから、他人は自分の思い通りに動いて当然と思い込めてない天下井。連合で残った人間には金払ってんだからちゃんとやれよ!と怒り狂ってるけど、同じく金で繋がってる関係だと断じたはずの須嵜に対してはそれができていないし。圧倒的に不利な状況になって自分の負けを悟った時に、須嵜が諦めなかったので困惑してしまっている。そんなわけで天下井は態度のわりにそこまで傲慢な考えを貫けてない。息をするように他人を駒として扱ってるのではなくて、駒にしてやると意識してやってる。だから八つ当たりみたいに見えるし、天下井の行動からは恐怖を感じない。須嵜が自分のために戦ってるのを当然と思ってれば冷静さを取り戻していたはずなので、あの場面で訳が分からないといった様子で須嵜を見つめているのは須嵜の気持ちをちゃんと考えてしまっている証拠だと思う。本当に冷酷なら自分が鬼邪高を潰すって言ったんだから須嵜はそのために戦うのが当たり前で、無理でもなんでも最初に命令した通りに敵を全員倒すのが須嵜の仕事だと考えることができる。それが、なんで須嵜がこんな勝てないようなことに自分より必死になるんだって思っている。そこまでして自分に尽くすことはないと分かっているし、無意識に須嵜にいろいろ察してもらおうとしてきたけれど須嵜を傷つけることを自分が傷つかないためにさんざんやってきた自覚もある。天下井は須崎が自分のことを裏切らないんじゃないかと思っているけれど、もしもそうじゃなかったらと思うと手放しに仲間だと言えなかったんじゃないだろうか。「どうせ最初から信じてなんかいなかった」と言える状況を作っておかなかったら、須嵜が自分のもとを去った時に耐えられない。
信頼することよりも、期待に対する不安の方が常に大きいので一人でも自分のために懸命に戦ってくれる須嵜を見ても、「やっぱこいつは自分のことを本心から信頼してくれていたんだ」と安心できない。自分の須嵜に対する接し方からして須嵜が自分のために心から尽くしたいと思うわけないとちゃんと分かってるやつの困惑の仕方。釣り合ってない、そんな価値がそこにはないと感じてる。楓士雄が倒れた時に「俺の勝ちだ!!!」みたいになってたけど、これに楓士雄が怒りを感じてもう一度立ち上がってくれて良かった。じゃなきゃ、ここまで気持ちが揺らいだのにまたそれをひっこめて、いつもの自論で壁を作ってしまう。勝てば自分のやり方が正しかったんだと思うことになるから。
もしも須嵜が勝てていたら、天下井は内心動揺しているくせに「ちゃんと働いたから褒めてやるよ」とかやるんだろうなと思ってしまった。無意識に須嵜を他と区別してるがゆえにそういう歪んだ優しさみたいなのを見せるけど、たぶん公ちゃんが喜んでくれて自分達の夢が叶うかもしれないってだけで十分で、須嵜は素直に「ありがとうございます」とか返してたんじゃないかと思うと怖くなる。そうなるといざ、テッペンからの景色を見た時に初めて自分が見たかったのはこれじゃないって気づいてしまいそう。バッドエンドすぎるからそうならなくて良かった。友達として2人でその景色を見るはずだったのにっていう。
天下井ははじめのうちは確かに「須嵜はこの関係を嫌がってない」と思っていたけど、途中から「自分は須嵜を傷つけているのではないか」ということに気づいたというように解釈している。天下井が機嫌の良い時は須嵜に対してなんとなく親しげな態度をとってるところからそう感じた。
須嵜が「自分のことを守ってくれた公ちゃん」を知ってるように、天下井の中には「なみ高の須嵜」じゃなくて「いじめられてて泣いてた亮」の印象がある。で、今の須嵜も天下井の言うことを聞いて素直についてくるもんだから昔と変わらないと思ってしまっているのでは。「あいつは昔っから、俺の駒だ」
って笑ってたところ、別に何を言いつけてもその通りに行動する須嵜のことを馬鹿にしてるわけじゃなくて「あいつは昔からいっつも俺のあとついてきててさ」くらいの感じで言っているように見えた。他の人間に対しては怒りを多く含んでるけど、須嵜に対してはなんだかんだ昔の関係性があるから言うこときいてんだろうな、そんなに嫌じゃないんだろうなみたいな甘えがある説。子どもの頃の回想シーンの様子を見ていると、須嵜が困ったりああやって泣いたりしてる時に「亮、行くぞ!」って前に立って引っ張っていってあげてたんじゃないかと思わせるところがある。その認識を高3まで続けちゃってる。天下井はサボテンがタメ語で話しかけてきてもキレてないから別に敬語で話せよとは思ってないんだろう(タメ語もそうだけど、ふつうに昔のことサボテンに話したりとか上下の話するわりに機嫌が良いとすぐ気軽にペラペラ喋っちゃったりしてる。こういうところが人が良いというか、扱いやすい感じ。天下井は下手に逆らわずに良い感じでおだてとけば簡単に操縦できそうなところがあるので、過去に裏切られたりしてそうなのもこの辺りから伝わってくる)けど須嵜は再会した時から天下井に対して「えぇ」と丁寧に返事をしている。これについては父親から坊っちゃんに尽くすようにと言われてるからなんだろうけど、かと言ってやたらと媚びたりもしてないから天下井は「ふーん」て感じでスルーしたのだろうか。友達がこういう感じだったらもっと気にした方がいいと思うけど、まぁお互いに大人になったし須嵜が前よりももっと大人しくなったのとかもそんなもんかと納得したのかも。それでそれなりに上手くやってるつもりだったのに「駒なんですか?」と聞いてきた須嵜は今の関係に傷ついているような、悲しそうな様子を見せた。自分がこれでいいと思ってやっていたことが須嵜に伝わっていなかったと気づいたのはこの時で、これが最初の揺らぎだと思う。このやりとりに入る前に須嵜が缶ジュース買ってきて、ジュース渡してからお釣りを天下井に返そうとするんだけど天下井は「ん、やるよ」と言っている。須嵜は遠慮がちに軽く頭を下げてお釣りを貰う。これに天下井は微笑みながら「おぅ」って感じで頷いていて、ここまではすごく友達っぽい雰囲気。この後修羅場になるとも知らず……。そして「駒なんですか?」と問われた時の天下井は別にきつい表情をしていない。むしろ、唐突な質問に「え?」という感じの反応をしている。だから、今の今まで須嵜が駒扱いのこととか、自分達の関係のことを気にしているなんて考えてもみなかったんだろうなという。それで、天下井は須嵜が自分の傍を離れないだろうということに自信を持てなくなってくる。ここで謝らないし仲間かどうかについては答えなくても「お前は他の駒とは別。そんなこと分かってんだろ?」くらい言えそうなもんなのに、突然機嫌が最悪になるあたり、天下井が生きるの下手くそなんだろうなって感じが出ていて良い。あからさまに自分もダメージ受けている。でも、別に須嵜をいじめたくてやってたわけじゃないし、今の考えを正しいと信じないと辛いという気持ちがあるから結局はまた須嵜の優しさに甘えて嫌な態度をとる。悪気があってやったんじゃないのに俺が悪いみたいに思うな、とか、なんでこういう考え方してるか知ってるくせに非難するなよと怒り出す。寂しそうな須嵜を見て、責められてると思い込んでいる感じ。勿論、須嵜にはそんなことする気はないしただ昔みたいに仲良くできたらと思って言っただけ。「俺に群がってくる奴らは金目当てだ」の後に「お前だってそうだろ?」と言って、天下井はすぐに須嵜を見るのをやめている。それから仲間なんて信用できない、自分に必要なのは駒だけと続ける様子は須嵜に対して言ってるのではなく、自分に言い聞かせるような調子。「お前も他のやつと同じ。どうせ金で繋がっているだけの駒」というようなことを須嵜に言ってしまい、須嵜の目を見ることができなくなっている。動揺し、怒っていたからそのはずみで言ってしまったんじゃないかと思う。だから、その言葉と須嵜を他の人とは違うと思っている自分の本心が強烈にズレて苦しくなる。そうなるともうこれ以上話すのは無理で、拗ねて須嵜を突っぱねるしかなくなる。すごい子どもっぽい態度だけどこの場面で天下井の気持ちがぐらぐらになってるのが痛いほど伝わるので見ていられない。
ジュース買ってこさせてるのもまぁパシリではあるけど、自分の分も買わせてたりお釣りあげてるあたりもやはり無意識に友達してる。自分のジュースだけ買ってこさせてお釣りだけあげてるんだと施し感出て嫌な感じだけど、須嵜が勝手に2人分買ってきてるわけがないから、最初におつかいさせたタイミングで「お前、自分の分は?」って聞いて買ってきてなかったからそれ使って買っていいと伝えたんじゃないかと思ってる。須嵜はそのことも嬉しくて、やっぱり公ちゃんは昔と同じで優しいとかって考えていそう。(存在しない記憶)
他にも友達っぽさが出てる場面として、再会するところで須嵜が瀬ノ門に通うって分かったとたん、急に機嫌が直ったり「久しぶりだな」って自分から声かけたりしてるのがある。須嵜が「えぇ」って返事したら、「悪くない」みたいな感じに満足げな顔してついてこさせてるし。嬉しそう。須嵜も、天下井についていきながら何か話しかけたそうにそわそわしてるのが可愛い。瀬ノ門を制圧するシーン、死体の山を築くみたいな感じで見た目は完全なる地獄なんだけどたぶん須嵜は悲しいとかって考えていない。それどころか、これから2人でテッペン目指して行くんだなっていう明るい気持ちだと思う。張り切って全員半殺しにしちゃってる。なんの因縁もないのに。公ちゃんも喜んでいるし、須嵜的に悪いことが起きていない。天下井の変化もそんなに深刻だと分かってなくて、あれなんか昔と違う?くらいのイメージ。そもそも、瀬ノ門に来る前からお父さんの話を聞いてるから公ちゃんが手がつけられないほどヤバいやつになって受け入れ先がどんどんなくなってるのも知ってるはずだし。「いきいきしているようです」っていうの、天下井からしたら「駒なんですか」のやりとりした後だからそんな訳ねぇだろふざけんなよと思ってるのかもしれないけど、須嵜が天下井と一緒にいられて嬉しいのは本当だというの、なかなかにややこしい。
「しっかり働けよ」も天下井なりに「頑張ってね」を伝えてるのかなと思うとマジで不器用で切ない。素直になれないから変にこじれていく友達関係。

●須嵜の目

3回目の鑑賞は須嵜の表情、特に目のあたりに注目してみた。敵に対する時はどこか無感動なので、そこに得体の知れないおそろしさがある。対して、天下井と一緒にいる時はそこに戸惑いとか、悲しみが乗っている感じ。昔と変わってしまった天下井のこととか、そのことに2人の夢はどうなってしまうんだろうかということを考えているからか、辛そうではあるけれど天下井といる時の須嵜の表情にはずっと険がある。ただ、このきつい感じは最初からではなくて再会した場面にはない。缶ジュースを買って戻ってきたところでも、天下井の話し声を聞いて「何を話しているんだろう?」という感じでそちらを見ていてそこにも緊張した感じはない。その後で天下井からはっきり「お前もそうだろ?」と言われて気持ちを否定したところから明らかに顔つきが変わっている。須嵜は天下井との約束を大事にして信じているけれど、最初の頃ほど強く信じきれなくなってしまっている揺らぎをこの目つきの変化から感じた。
空を見上げている時や、一人でいる時は心ここにあらずという様子だけれど天下井といる時よりも穏やかな目をしている。
司が「お前がさらわれても、誰も来てくれないだろうと思ってな」と天下井に告げている。ここで天下井が信じられないくらい激しく怒るのは、他人をどうでも良いと思っていないから。お金が無ければ誰にも大切に思ってもらえないのではないかということを天下井は恐れている。それから司は須嵜に「弱みでも握られてんのか」と声をかけるけれど、須嵜はこれを無視して立ち去る。仲間がいて、それをまっすぐに信じている司。それとは反対に天下井の仲間になれず、たくさんの迷いの中にいる須嵜。司は須嵜がぼんやりと自分を見つめているのに気づいて「何を見てるんだ?」と問いかける。ここで須嵜が司を睨んだり、完全に無視するわけではなく、目を逸らす時にその瞳が揺れているので動揺したのだということが分かる。おそらく、須嵜は司を見ているつもりはなく、今の状況について考え込んでいているうちに司の方を見ていたのだと思う。須嵜が缶ジュースを見つめながらまた何か考えている様子なのを見て、司は天下井と須嵜の間にはもっと別な事情があると気づいた様子。やはり賢い。
戦闘シーンでも須嵜は淡々としていることがほとんどだが、司との戦いで2人の目があった時に、急に燃えるような目をしていた。須嵜は天下井との約束のために絶対に負けられないと思っているので、司が歯向かってくることに対して反応を示したように見える。この場面での須嵜の表情の意味も、司は後になって理解しているのかもしれない。この明らかに相手に対しての敵意が見える目はラストの楓士雄との戦いの場面にも共通する。
天下井の傍にいる時はずっと気を張っている須嵜。ナイフを止めた後から少しずつ表情が変化していく。「ダメじゃないっすか」のところで須嵜はようやく天下井に意見する。それからまっすぐに天下井の方を見て語りかける。天下井に何も言わなければ何も変わるはずがなく、2人の約束の形も今まで歪み続けていたことに向き合う場面。そしてもう夢が叶わないと感じながら、天下井ともう友達になれないということまで受け入れようとする。それでも別れを告げないのだから、須嵜は自分から天下井のもとを去る気はないのだなと思ってすごく切なくなった。どこまでも優しい。一緒にいるだけでも辛いだろうに。「すみません、お役に立てずに」と言ったのも、駒としての言葉。役に立たない駒を天下井の方から手放すなら、受け入れてしまうんだろうなという気がする。
またやり直せばいいということを楓士雄が教えてくれたから、須嵜は天下井と友達になろうとする。ここで「俺と友達になってくれねぇかな、公ちゃん」と言う須嵜はどこかあどけなく、それこそ子どもの頃の姿がそのまま
重なるような目をしている。中本悠太さんの演技が素晴らしすぎる。雰囲気があまりにも大きく変わるので、ものすごく衝撃を受ける場面。(ザワXを見て中本悠太さんのことが気になったのでNCT127の動画をいくつか見たんだけど、ふだんはすごく可愛らしい表情をする方でした。可愛いし面白いし、みんなへの気遣いのできる優しさとかとにかく非の打ち所がない人……。それが須嵜の鋭い感じをあれだけ出していることもすごすぎる。)
天下井がまた意地を張って素直に友達だと返してやらないので、楓士雄がすぐに怒った顔をしているのが良い。楓士雄はまっすぐな子だから、友達にああいうこと言うのが許せないんだな。次こそ鬼邪高に勝つと宣言するところで天下井が「俺と、亮でな!」と須嵜のことを顎で指すような動きしてるの、熱さが出ていて良かった。やっぱり須嵜のこと大事じゃんこの子。
回想と重なるところの描き方もすごく良くて、須嵜が最初床に倒れて天井を見ながら楓士雄の言葉を聞いているんだけど、途中で天下井のことをじっと見ている。その後で天下井がその視線に気づくという。これ、回想シーンも同じ。同じ空の下にいる2人が一緒に空を見上げている。空からしたら上も下もないというハイローシリーズに一貫した価値観。その後、亮は公ちゃんの方を見つめている。それから公ちゃんが気づいて笑いかけてから、見つめ合う。この時亮は座っていて、公ちゃんは立ってるので、ちょうど視線の合い方も現在の須嵜と天下井と同じになる。思えば、須嵜が天下井を見つめている場面はたくさんある。決して目が合わなくても、ずっと天下井のことを見ているんだよな……。それはそのまま、須嵜がこれほど長い間天下井を信じてきたということを示している。
そして2人で体育館の天井を見つめる天下井と須嵜。ここで変則的に「空を見る」が反復されている。今は空が見えないけれど、また一から始めることにする2人。テッペンからの景色はまだ遠いけれど、「2人で同じ景色を見る」という形で子どもの頃の約束が少しだけ叶っているのである。
ここで互いに顔を見合わせて笑い合う天下井と須嵜。再会した場面でも須嵜は少しだけ微笑んでいるようだったけれど、その時とは全く違う屈託のない笑顔を見せている。すごい可愛い。その後の一緒に車で帰るところでも同じ笑顔を見せている(天下井も当然ニッコニコ)ので、本来こういう風に笑う子なんだろうなと思うんだけど、楓士雄と再戦しに行った時には表情は穏やかになったものの、そこまで楽しそうな様子を見せていなかったのもなんだか良い。公ちゃんにはああいう笑顔を見せるということなのかも。

●その他好きなところ

・須嵜、公ちゃんの現在のステータスがどうなってても大丈夫なのに自分が負けたらその瞬間全部が絶望に変わるし夢も消えるって思ってるの危機感がバグっている。これによる戦闘描写の変化も見事。最初のうちはすごいテクニックのある動きしていて、速くて強いし、膝崩されても直ぐに後ろに下がって間合いとったり、攻撃完全にくらう前に蹴り飛ばしたりということをやっている。楓士雄は素早く動いて回りこんだりするのを強みとしているのに、それを封じている。壁と挟んで動ける範囲を少なくしてから背負い投げして床に叩きつけたりとか。さらに、轟くん(実力でいうと基本楓士雄より上)と小田島を両方相手にする化け物っぷり。轟くんの蹴りを食らわなかったのもすごいし、小田島をおさえて動けなくさせながらもう片方の手で轟くんの攻撃を捌ききってるのでどんな力してるんだと思った。それほどの強さを見せていたのに、ラストの意地で戦ってる時は一切避ける動きをしなくなってる。とにかくゼロ距離で力一杯殴って倒すに変わってるのが、本当に自分が相手より先にぶっ壊れなきゃなんとかなるっていう必死さで泣いてしまう。

・涙拭うとこ、最初ぐすぐすって音に反応して須嵜のこと見てそのまま顎をつかまえて涙をぐいってやって拭き取ってる。優しいんだけどこのちょっと雑な仕草が天下井らしい。「泣いてんじゃねぇよ」って言われてちょっと目を逸らして「ごめん」て返す須嵜。苦笑いが可愛い。それ見て天下井もしょうがねぇなって顔で笑うのさぁ……。小さい頃に亮がめそめそしてるのを見てきたという態度だ。

・ラオウのエピソード、友達というテーマの導入でもあるし、人は生まれながらに決まっているを覆してるのがラオウの生き方だなと思うし、さらにはジャム男調べのスナックルビーのエピソードがでたらめだったというのが真実の伝わらなさを示唆してる。瀬ノ門は伝わらないの連続だった。ラオウの場面の使い方が上手いなということを強く感じる。

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