見出し画像

カスタマーマーケティングの生みの親Jason Lemkinが語る「NDR」-Gainsight代表ニックメータ対談より

カスタマーマーケティングを語るうえでは、カスタマーサクセスマーケティングという言葉の生みの親であるJason Lemkin(ジェイソン・レムキン)氏の最新の考えを知るべきです。
タイミングよく、2021年の9月にご自身のイベントSaaStrにて、Jason Lemkin氏がGainsight代表のニックメータ氏とカスタマーサクセスを語った内容がYou Tubeにて公開されています。
本記事は、cmkt(カスタマーマーケティングミートアップ) Advent Calendar 2021の記事の一つですので、内容的にもちょうど良いと思いました。
カスタマーマーケティングの概念は完全にブラッシュアップされており、その紹介をしながらSaaS経営の最新潮流を解説したいと思います。キーワードは「NDR」です。

PR:カスタマーサクセスのデジタル化・テックタッチ化ならopenpageを導入しましょう!

カスタマーサクセスの指標「NDR」の重要性

二人の会話の中で、「上場したSaaS企業の目論見書の見出しが、NDRであることが増えた」と語られています。
NDRとは、昨年獲得した顧客の、今年のMRR(売上)がどうなっているか%でみるものです。契約継続を維持し、アップセル/クロスセルが上手くいっていればこの数値は100%以上になります。一方、解約が増え、売上が下がってしまえば100%未満になります。
Jason Lemkin氏は語ります。「マーケットシェアを失っていても、NDRが高ければ素晴らしい企業を作れる。私がいまスタートアップにしてるアドバイスは「ポストセールス」の強化だ」
そう、これからはカスタマーマーケティングだ!と語ったJason Lemkin氏は、今はその言葉をあまり使っておらず、既存顧客へのポストセールス売上を高めていく(NDRを高める)発言に進化しているのです。

NDRを高める方法①:複数プロダクト展開

二人はNDRについて更に語ります。「NDRを高めるにはエンジニア力が重要。第2の製品が必要になるからだ。BOXが例で、複数の製品で顧客提供価値を高めていく。複数の製品が粘着性を高め顧客維持率にも貢献する」
NDRは既存顧客に対するポストセールス売上を高めることで伸ばしていくことが出来るため、そのための製品設計が必要であることが話題になりました。

直近でわかりやすい国内SaaS事例は、SansanのBillOneです。「決算が読めるようになるノート」シバタナオキさんの記事では、Sansanの既存契約アセットを活用してBillOneの契約件数を爆伸びさせていることがニュースになりました。

このようなシナジー戦略を意図的に設計している企業は既に出来ているのですが、「CEOはグロスのリテンションを注意深くモニターするべき」と対談では語られました。
なお、「もちろんグロスのリテンションよりネットリテンションのほうが重要だけどね」と付け加えられております。
先日SmartHRのプロダクトマネージャーのRyo Kaneokaさんも発表されていたのですが、そもそもの主力製品の活用がうまくいっていなければアップセルの確率が下がってしまうゆえの発言だと思います。

私もビズリーチ時代に、ビズリーチのオンボーディング済顧客のセグメントを設計し、HR-Tech製品のHRMOSのクロスセル体制を強化することで製品併用率を高める案を進めていたのですが、当然ながら他製品の販売に先立つものは本体製品のカスタマーサクセスだったと感じています。

NDRを高める方法②:顧客中心の価格設計

複数プロダクト展開に加えて、もう一つ語られたNDRを高めるための方法は「価格モデルを従量課金など”顧客中心”にするべき」というものです。
米国だとZuoraのような製品の機能利用量やユーザー数に応じた価格設計を導入するSaaSが増えていて、日本でもScalebaseという「日本版Zuora」を導入するSaaSが増えています。

面白い発言だな、と思ったのは「ARRのR(リカーリング)が偽物の企業がある。年間契約が常に再発するとは限らない」という発言です。
セールス主導で高単価の製品にし、フルサポート付きの年間契約で契約するSaaSは米国でも日本でもまだまだ多いのですが、その年間契約は実はチャーンリスクがあります。
短期的に見ればチャーンは発生していないものの、実態としてはROIが出ていない/顧客満足がない。結果的に数年に1度大規模な解約が発生する、というのは日本のスタートアップでも実はよくおきております。「ARRのR(リカーリング)が偽物」はその戒めになる言葉でしょう。

なお、従量課金の価格設計についてはZuora出身の吉村さんが書いたこちらの書籍が詳しく、製品開発や財務の観点で要チェックです。

カスタマーサクセスの「ジュニアチーム」を脱する

Gainsightのニックメータさんも語っていたのは、「カスタマーサクセスがジュニアチームに留まっている問題」です。

米国では、少しずつプロダクト主導の成長(PLG)にSaaSの戦略が移りつつあり、製品内のオンボーディング、従量課金の価格設計、アップセルの機能設計などを進めている企業がある一方、旧態的なカスタマーサクセスにとどまっている会社が多いです。これはまさに日本でも同じ状況です。

Gainsightは既にGainsight PX(プロダクトと連携しテックタッチのカスタマーサクセスを実現する製品)の製品展開を進め、2021年はプロダクト内のカスタマーサクセスに特化したPulseのイベントを開催しました。

今後は、米国のトレンドに遅れてくる形で、日本でもプロダクトを中心としたテックタッチのカスタマーサクセスが主流になってくると思われます。

NDRが高い第2世代のSaaS戦略

2021年の9月に、ALL STAR SAAS FUNDの前田ヒロさんが、「SaaSの第2世代の登場」についてイベントの中で発表をされていました。

PLG、複数製品展開、従量課金、これらを進めている企業は、第2世代のSlack、Shopfy、Notion、Dropbox、Atlassian、Zoomのような企業です。
下記の記事でも解説がなされていますが、日本では「SaaSはACVが大きい大企業にフォーカスすべき」というSLG戦略が主流になっている中で、実は米国SaaSは次のステージであるPLG戦略での勝負が始まっていることがわかります。

カスタマーマーケティングの発言から2年が経ち、NDR、プロダクト主導、従量課金とより具体な輪郭が見え始めました。
カスタマーマーケティングは事例作成などに留まった概念ではなく、NDRを高めるための総合的な経営戦略に昇華しているのです。
カスタマーサクセスとして米国企業は次のフェーズに向かっており、この流れは遅かれ早かれ日本企業にも強い影響を与えていくでしょう。

おわりに

お読みいただきありがとうございました。
もしよろしければ、記事のシェア・Twitterのフォローをお願いします。

※数社限定で、弊社テックタッチ製品のカスタマーサクセスクラウド「openpage」のトライアルを提供しております。ご興味がある方は製品フォームないしTwitterよりお問い合わせください。

藤島 誓也:Twitterアカウント
https://twitter.com/seiya_fujishima