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厚いサンプルの観察は、共焦点顕微鏡で十分?透明化すべき?

*最終更新 2023/01/11
トップの写真は、フリーの写真提供サイト「ぱくたそ」で提供の、『首を傾げる猫ちゃんの写真素材』になります。

ある装置担当者に、利用者から、「厚さ50um程度のサンプルの光学顕微鏡観察を検討しているが、この場合は透明化処理を行うほうがよいか?」と、問い合わせが寄せられた。
こちらについて、さまざまな装置担当者から提案などが寄せられたため、以下にまとめておく。

装置担当者Aからのコメントなど

上の質問を受けたのが担当者Aは、「たぶんそのくらいならいらないと思うが、ガラス基板付近の明るさと比べて、深いところが明らかに暗くて物足りないと認識できるなら、そのときに透明化処理を考えてもいいかも」と回答。
2光子顕微鏡を使う必要があるか、あるいは共焦点顕微鏡で十分かーといった装置の選択についても、まずはこのあたりを提案すれば妥当だろうか。

装置担当者Bからのコメントなど

封入剤だけでも透明化効果が得られるものがあり、厚めのスライスでも手軽に綺麗な画像を撮ることができるとのこと。油浸対物レンズとの組み合わせ次第でもあるが、透明化を行わない場合に満足できないなら、提案してみるのも適切かもしれない。

※なおサンプルと水の屈折率が完全に一致していると、光がすべて素通しになるので、ファルコンチューブにサンプルが入ってても、「サンプルがあるかわからない!?」、「水が入っているだけのチューブと区別できない」状態であるので、要注意。ラベルを貼るなどすべき。

SlowFade Glass: 封入剤の屈折率は、油浸オイルとほぼ同じ1.52になるので、球面収差を低減できるだけでなく、メーカーによると、ある程度の透明化効果がある。担当者Bの施設利用者では、100um厚の組織サンプルを封入して、共焦点、60x油浸レンズで3D観察している方もいたとのこと。
SlowFade™ Glass Soft-set Antifade Mountant

Bさんから挙がった封入剤1

ProLong Glass: こちらも屈折率は油浸オイルと同じ1.52で、固化するタイプで長期保存に向いた封入剤。こちらについては、透明化は謳っていないものの、100umの深さまできれいに撮れるーと、下記の試薬紹介でも記載がある。
ProLong™ Glass Antifade Mountant

Bさんから挙がった封入剤2

*封入剤などについては、試薬メーカーのサーモフィッシャーがまとめている。

装置担当者Cからのコメントなど

なにはなくとも透明化必須!ではない場合もあり、そのような場合の対応例として、24x60mmのカバーガラスでスペーサーを使いマウントし、そして同じカバーガラスを載せることで、両面から撮影が可能となる。これによって、100µmのサンプルでも、60µmづつぐらい撮影することで、サンプル内部の観察が可能である。

最後に、または最初に。

サンプルの透明化については、数種類の試薬・透明化手法があり、それぞれで一長一短があって、「この試薬で、すべてOK!」とは言えないのが実状である(2022年現在は)。
そのため、過去の事例に基づいてもらう、あるいは同種のサンプルでの対応状況を調べてもらいつつ、適切そうな数種類の透明化試薬を使って比較するのが最適かとも思われるが、一概にどの方法がよいとは言いにくく、そしてサンプル全体の透明化には時間もかかってしまううえ、透明化処理による蛍光標識の変性や失活、あるいは構造が変わることも起こり得る。
そのため、「そもそも、透明化を行う必要があるか?」→「サンプルの表面付近のみでも構わないので、透明化の有無で観え方が異なっていないか?」といった検証も重要かと思われる。
とはいえ、透明化を行うことによって、サンプル深部までも明瞭な観察ができることは、他の手法では達成できないため、ぜひ提案してみたい。

なお基礎生物学研究所の野中茂紀先生のWebサイトでは、光シート顕微鏡と2光子顕微鏡、そして共焦点顕微鏡の比較があり、本件以外でも参考となる。


「ぱくたそ」の、「透明度の高いモネの池と鯉(岐阜県関市板取白谷)の写真素材」です。