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ミュージカル「アンドレ・デジール最後の作品」感想

お久しぶりです。最近日記更新せず申し訳ないのに、歌会始の歌をまだ読めてないのに、書きたくなっちゃったので書かせてください。

アンドレデジール最後の作品というオリジナルミュージカルを観てきました。
脚本を書かれた高橋亜子さんのことは、ミュージカルマチルダの翻訳をされたときに知って、かっこいいなーと思っていました。本作は観る予定はなかったのですが、フォローしていたtwitterで絶賛tweetが日々回ってきて、これは観ざるをえないなとなり、東京千秋楽前日に当日券で滑り込みました。

帰りの電車の中で、わたしはたぶん、クールベの絶望と麗子微笑をないまぜにしたような顔をしていた気がします。

彼らの絶望を覗き込んで、彼らと希望の光を見て、混乱し考えさせられました。

以下ネタバレ含みます。
不確かな記憶なので間違ってたらすみません。


↓↓↓

始まりは現代の美術館。額縁がツラに置いてあるので、美術館のお客さん役が額縁を通して客席を覗く形になります。
時々作品によっては役者が観客に語りかけることで第四の壁をを破って一体感を生み出す演出があります。しかし今回は自分が額縁に入れられて観られているという、あくまでも壁はあるけど、自分たち観客はその世界の一部になったかのような、舞台上の世界を自分ごとに感じられるけど異世界を見せてもらっている新しい距離感になりました。

そこにおじいさんがやってきて、座って額縁(絵)を眺める。この絵はアンドレ・デジール最後の作品で、このお爺さんはエミールということが示され混乱しました。すっかりおじいさんがアンデレだと思っていたので…。どういうことだ、なんでこの人はそんな慈しみの目で他人の作品を毎日見てるんだ!?と混乱したところで、時間が巻き戻りそこに至る物語が始まりました。

それは若い画家エミールとおしゃべりジャンの共鳴の物語であり、アンドレデジールと少女の共鳴の物語でした。


海の幸せ、湖の幸せ


アンドレは水辺を旅した画家。劇中には海、湖、船などのモチーフが出てきます。

その中でも「蒼ざめた海」という表現に痺れました。海はいつも青いものだから青いとはなかなか言わないし、綺麗で好きなので青ざめたっていうマイナスな形容が合うなんて思いもしなかったです。
(調べたら中島みゆきさんの歌詞にありました。中島さんも高橋さんも天才かよ)

綺麗であるはずの海を、そんな表現にしたくなる心境ってどれだけのものなのだろうか。
思えば海が普段と違ってそう見えた経験をしたことがあります。震災の後でした。いつ見ても好きだった、生まれた時から遊んでいた地元の海が、震災の後急に敵わない敵に見えました。癒しだったはずの波の音は、街を噛み砕く音に聞こえました。海は、たしかに青ざめていました。
一旦気づいてしまうと、海は気まぐれに獰猛で、寄瀬のない広大さは不安を掻き立てられます。舟のないアンデレやエミールから人生はそう見えたのでしょうか。

一方で広大さは無限の可能性も感じさせます。
お互いに出会えたジャンとエミールにとって、その海は漕ぎ出したい、空は飛びたいものとなっていました。「二人なら~ジャンとエミール~」で二人は共鳴し、増大された振幅は恐れることなく漕ぎ出します。この先に何があるのかわくわくする冒険の人生の始まりです。

アンドレ・デジールが最後に書いたのは湖でした。その作品は焼失しており誰もみたことはありません。果たして彼が描いたのは希望の光か絶望か、それをジャンとエミールが探り、贋作として描き出す過程が物語の主軸です。

湖は海とは違い、閉鎖された空間です。
二人が最初に描いた贋作・アンドレ・デジール最後の作品は、絶望を表現していました。大海原に漕ぎ出した二人には、湖の先のなさは絶望に見えたのだと思います。
しかし実際は、デジールが書こうとしたのは希望の光だと判明します。

デジールは湖で少女マルセリーナと出会い恋に落ちていました。
そこで歌われる「二人なら~デジールとマルセリーナ~」で、二人は愛に満たされています。湖は、水に満たされています。どこかに行けるわけじゃない、でも波風のない、二人だけでいいと思える。そんな湖にデジールは希望を見ました。

エミールとジャンは、キャンバスという、水平線という同じ方向を見ていました。
二人で共鳴しながら新しい世界に行くことができましたが、その視線は平行で、少しのズレで全く違う場所に進んでしまいます。

デジールとマルセリーナは、お互いを見つめあいました。
向かい合って共鳴して、その音はどこに行くでもなく湖の内で籠りながら増大していきます。

海の幸せ、湖の幸せ、どっちもあるなと思います。
一生懸命働いで世界をちょっとでも良い方向に進めたい、そんな使命感がある時期もありました。そうじゃなきゃ仕事の意味ってなんだとさえ思っていました。
でも誰かと出会って、家庭という小さな世界を守る生き方もあるんだと思えるようになってきました。そんな自分の変遷を見ているかのような気分になりました。

まだ私には共鳴できた体験が少ないですが、最後の介護士とエミールのような、そういう小さな共鳴でもできたらいいな、できるんじゃないかなと思わされて、幕は下りました。



デジールの絵をみた人は「これは私を描いた絵だ」と歌います。
「これは私を描いたミュージカルだ」
とまで思わなかった(というか思えるような経験をしてこなかった)けど、そう思える人もたくさんいるんだと思わさせる作品でした。

きっと今後広く歌い演じ継がれていく作品。その初演を観られたのは贅沢でした。まだ大阪公演があるので行ける方はぜひ。







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