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道徳プラン〈ピンチの時に〉

●はじめに 

 みなさんは、どうしたらいいのかわからないほどの大ピンチになってしまったことがありますか? みなさんのまわりにいる大人、お家にいる人や先生のような大人は、とてもしっかりしているように見えますね。
 でも、大人になるまでには、たくさんの失敗をして、多くのピンチを味わって、今を生きているんですよ。人間、生きていると、どうしたらいいのかわからないほどのピンチにおちいってしまうことが、誰にでもあるようです。いや、みなさんぐらいの年でも、すでに、何度か大変なピンチを味わったことがある子もいるのではないでしょうか。
 今日は、ある小学校の先生が、小さい頃に味わった大ピンチのお話を紹介したいと思います。自分だったらこうするだろうなぁ、なんて考えながら読んでくれるとうれしいです。全部読み終わったら、最後に感想を教えてください。



 それは、僕が小学校4年生の時。そろそろ夏休みという頃のこと。一学期も終わりかけた7月の、暑い夏の日でした。授業も夏休みを前にまとめの時期。先生は、今までやった勉強のテストを、僕たちにさせていました。
 4時間目は算数の時間。この時間もテスト。一斉にプリントが配られ、テストが始まります。通知表をわたされる日が近いので、僕はとても真剣に、そのテストをやっていました。
 しかし、テストを始めて10分くらいしてから、急にトイレに行きたくなりました。そういえば、2時間目と3時間目の間の長い休み時間に、外でたくさん遊んで汗をかき、すご~くのどが渇いたので、大量の水を飲んだのでした。ギリギリまで遊んでいたので、僕はその時、トイレに行けなかったのです。

 そして、今です。4時間目。算数のテスト中。初めは我慢していましたが、テストが半分終わるくらいで、もう我慢できなくなりました。

  今すぐトイレに行きたい! でも、ちょっと恥ずかしいな。

 何で3時間目が終わってからこの授業が始まるまでに、トイレに行っておかなかったんだろう。僕は後悔しました。

  ああ、でも、もう我慢できないほど、つらい!

 これを我慢しながらやっても、きっと計算まちがいをするに違いない。普通の時だって計算まちがいが多いのだから、おしっこを我慢しながらやった問題なんて、きっとまちがいまくるに決まってるよ…。
 そう考えていた時…

問題1 そう考えていた時、何があったでしょう? 

ア 我慢しながらだと、テストの問題がすらすら解けることに気づいた。
イ 先生が気づいて、「どうした?」と聞いてくれた。
ウ 僕ではなく僕の友達が「先生、トイレに行きたいです!」と言った。
エ 何と、おしっこをもらしてしまった!
オ その他(                    )






 もう我慢できない! そう考えていたその時、なんと、僕ではなく、友達のてっちゃんが、「先生、トイレに行きたいです!」と言ったのです。僕はラッキー!と思いました。一緒に行けるじゃん! 恥ずかしくないよ~。てっちゃん、ありがとう!! 心の中で感謝しました。

(問題1の答えはウ)

 ところが、その勇気あるてっちゃんの申し出に、先生は厳しくこう言ったのです。

「ダメだよ、てつお君。トイレは休み時間のうちに行きなさいって言ってある だろう。先生は、テストが始まる前の休み時間にも、みんなに言ったよ ね? トイレは今のうちに行きなさいって。この時間は、我慢しなさい。」

 てっちゃんは、だまってうなずくと、席に戻りました。

 驚いたのは僕です。

 え~!てっちゃん、素直に戻りすぎだろう~! 我慢できるくらいなら、 そんなこと言い出すなよ~!

 僕は、今さっき心から感謝したことなんて忘れて、てっちゃんを恨みました。

 僕がトイレに行くことは、さっきよりもずっと難しくなり、僕は一気にピンチになりました。
 そして、また後悔しました。どうして4時間目が始まる前、先生がトイレに行けって言った時に行かなかったのか。なんで、てっちゃんより先に「トイレに行きたい」と言い出せなかったのか。
 でも、そんなことを考えても、何も始まりません。僕の膀胱(おしっこをためておくところ)は、待ってはくれないのです。

問題2 そのピンチに、僕はどうしたでしょう? 

ア しょうがないから「トイレに行きたいです。」と、僕も先生に言った。
イ 「気持ち悪いです。」とウソをつき、教室を出ようとした。
ウ 問題を解くのをあきらめて、ひたすら最後まで我慢した。
エ パンツが少しぬれるくらいにおしっこを出し、楽にしてから、     問題を解こうとした。
オ その他(                    )







 僕はもう、かなり限界に来ていました。今にもおしっこがもれそうになるのを我慢しながら、どうするか考えました。
 目の前の算数の文章題なんて、もはや日本語として僕の頭の中に入ってくることはありません。このまま、問題を解かないで、最後まで我慢しようかとも考えましたが、もうそれすらできないだろうと思いました。それほどギリギリでした。
 しかし、「トイレに行きたいです。」と先生に言っても、さっきのてっちゃんのようになるのは目に見えています。僕は残された最後の手段を使うことにしました。

 ちょっとだけ出そう。

 ようは、みんなにバレなければいいのです。ちょっと「ちびった」ところで、僕のズボンの中が気持ち悪くなるだけ。それよりも、少しでも膀胱を楽にして、問題を解けるようになること方が、今の僕にとっては大切でした。
 ビックリしておしっこが「ちびる」ことなんて、よくあります。それとおんなじだ! 僕は自分にそう言い聞かせました。

 僕はものすごく慎重に、おしっこの栓を開きました。パンツが少しだけ濡れるくらいに……。(問題2の答えはエ)



 ところが!

 少しだけ開いたはずの栓から、おしっこが大量に吹き出したのです!!
 急いで、栓を閉じようと必死に脳から信号を送りますが、なぜか栓が閉まりません!!

うわあ!なんでだ~!!

心の中で僕は叫びました。

ストップ!!ストーーップ!!

 僕の願いとは裏腹に、おしっこは流れ出し、パンツで吸収できる量を大幅にオーバーし、ズボンを濡らし、イスからしたたり落ち、僕の席の下には、小さな水たまりができてしまいました。

 栓がようやく閉じたのは、出したいおしっこの半分ぐらいが出たところぐらいでした。

 ……止まった…。

 僕はボー然としました。まさか、自分から「ちびる」ことは、できないことだったなんて…。そして、一度出はじめたおしっこを止めることが、こんなにも難しいことだったとは…!
 僕はそれをこの時、4年生にして初めて知ったのです。

 しかし、そんなことをゆっくり確認しているヒマは、その時の僕にはありませんでした。僕のピンチは、大ピンチに変わってしまったのです。

問題3 その大ピンチに、僕はどうしたでしょう? 

ア 「すいません、おしっこもれました。」と先生に言った。
イ ばれないように、自分でふいた。
ウ どうすることもできず、かたまった。
エ となりの席の女の子に、「おしっこもれちゃった。」と小声で言った。
オ その他(                    )






 僕は、4年生にもなって、おもらしをしてしまった…。ショックでした。今まで、友達の「おもらし」を何度か見てきましたが、もしかしたら、みんな、少しだけ出そうと思って失敗してきたのかもしれません。その子たちの気持ちが、今、初めてわかった気がしました。

 ただ、こういうのを「不幸中の幸い」というのでしょうか。
 みんな、算数のテストに夢中なので、まだ、僕がおしっこをもらしたことに気づいていないようなのです。周りを見ても、みんな一生懸命、問題を解いてました。教室はしーんとした中で、カリカリえんぴつの音だけがしていて、僕のおしっこがしたたり落ちた音は、全く聞こえていないみたいです。

 僕は、机の横にかけてあった、かわいた自分のぞうきんを下に落とすと、問題を解くフリをしながら、自分の足でおしっこをふきました。おしっこがもれそうだった、さっきまでとは違い、周りの様子がよくわかるし、どう行動したら一番いいのかも、冷静に考えられる自分に気づきました。
 考えてみたら、さっきだって「気持ちが悪い」とウソをついてでも、教室を出てトイレに行くべきでした。でも、そんなこと思いつくなんて、おしっこがもれそうなときには全くできませんでした。(問題3の答えはイ)

 床にこぼれたおしっこをふき終わると、僕は残りの算数の問題を解きました。最後まで一気に解き終わると、見直しなんかしないで、これからのことを考えました。どうにか、みんなにバレないで、このピンチを切り抜けることはできないものか…。

問題4 この後、テストが終わってすぐ、僕はどうしたでしょう?

ア 体育着をトイレにもっていき、ぬれたズボンをはきかえた。
イ おしっこぞうきんをトイレにもって行き、洗った。
ウ 教室にかざってあった花びんの水を、わざとこぼした。
  (それで、「おもらし」をごまかそうとした。)
エ 廊下に出ていき、ながしの水で水遊びを始めた。
  (それで、「おもらし」をごまかそうとした。)
オ その他(                    )





 テストが終わると、みんながテストを集めたり、教科書で見直しをしているスキをついて、おしっこをふいたぞうきんを手に取ると、素早く後ろにある自分のロッカーに押し込み、同じロッカーから体育着のズボンだけを取り出すと、それをお腹に隠してトイレに逃げ込みました。
 ズボンだけ体育着になるのは勇気のいることでしたが、ぬれたままのズボンでは、明らかに「おもらし」がバレてしまいます。パンツもびちょびちょだったので、僕は「ノーパン体育着小僧」となってしまいました。自分が、とても、みじめでした。
 トイレでパンツとズボンをしぼり、またお腹に隠すと、さっきのようにロッカーまで行ってランドセルの奥に押し込みました。とても汚いと思いましたが、しょうがありません。ぞうきんもズボンもパンツも、ながしで洗っていたらバレるかもしれないじゃないですか。僕は、どうしてもバレたくなかったのです。4年生にもなって、夜寝ている時でもないのに、「おもらし」してしまったなんて…!  

 かといって、教室に花びんの水をまいたり、廊下にながしの水をまいたりして、みんなに迷惑をかけてまでごまかすのは、卑怯だと思いました。これがそのときの僕の、ささやかな道徳でした。 (問題4の答えはア)

 しかし、この事件は、このままでは終わりませんでした。集団生活というのは、そんなに甘いものでもなければ、簡単にごまかしきれる場所でもないらしいのです。

問題5 この後、どんなことが僕に起こったのでしょう?

ア 「なんでズボンだけ体育着なの?」と、男友達に聞かれた。
イ 女の子が僕の所に来て、「おしっこしちゃったでしょう?」と言った。
ウ ロッカーに隠しておいたぞうきんやズボンを見つけられてしまった。
エ おしっこのにおいで、クラスのみんなにバレてしまった。
オ その他(                    )




出典:『道徳大好き!子どもが喜ぶ道徳プラン集』(仮説社)より

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