明渡義務の代執行
収用裁決→行政代執行ってセットで語られることが多いと思うけど、混乱しがちな部分もあるので一度整理しておく。
熊本県では「人が住む家では初」の行政代執行が行われたらしい。→リンク
「人が住む」以上は占有している人間がいるわけで、収用の対象となった事業を行うためには、占有を解かなければならない。
一方で、行政代執行の対象となる義務は「他人が代わってなすことのできる行為に限る(=代替的作為義務)」とされているところ(行政代執行法第2条)、占有の移転は当人しかなすことのできない義務(=非代替的作為義務)の典型であり、これを代執行することは法に違反するのでは?という疑問が生じる。
土地収用に関してはその性質上、特別の規定が置かれているのでは?ということで土地収用法の規定を見てみると…
代執行については行政代執行法による、としか規定されていないので、要件が変わるということはないということになる。
条文上、行政代執行の対象とされている義務は「土地若しくは物件を引き渡」す義務及び「物件を移転す」る義務である。物件の移転義務は代替性があるとしても、土地若しくは物件をひきわたす義務は、「非代替的作為義務」つまり義務者に代わって履行することができない義務の典型例とされているのではなかったか。
単純に考えるなら、土地・物件の引渡し義務は、本来(行政代執行法上の)代執行の対象とはなり得ないのでは?と、条文を読んでも疑問は拭えない。
この「土地・物件の引渡義務」の解釈は、学説・判例も多岐に渡っていて明確な結論が見当たらない(土地収用法の解説書として不動の地位を築いている『逐条解説土地収用法(著:小沢道一)』は、『土地・物件の引渡しの代執行を定める部分は無意味』としている)。
司法判断においては、直接同条の解釈について判断したものではないが、大阪地裁平成21年3月25日判決(除却命令の代執行について、占有の移転を強制するため行政代執行法に違反している、と主張されたケース)が参考になる。
つまり、代替的作為義務である「建物等の除却」を代執行した結果、占有者が占有を放棄して事実上引渡しの効果が発現しただけであって、非代替的作為義務である「土地の明け渡し」について代執行したものではないよ、という理屈。
うん。難しいね。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?