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卵が液卵になるまで

イフジ産業の歴史は、1964年に藤井社長の父・徳夫氏が養鶏場を持ったことに始まる。その後1972年には事業を卵一本に絞り、液卵・冷凍卵、卵加工品の製造・販売で規模を拡大。その後業績を伸ばし、2021年には液卵専業メーカーとしては全国トップとなる143億円超えの売上高を記録した。(専業以外を含めても液卵を扱うメーカーとしてはキユーピーに次いで2位)

そんな彼らの朝は、卵の荷受けから始まる。
養鶏場やGPセンター(*)から持ち込まれた大量の卵を受け入れる作業は朝7時台にスタート。運び込まれた卵はすべて3日以内に製造ラインへと渡され、製品に加工される。

*GPは“Grading&Packing”の略。生産農場で生まれた鶏卵を洗浄殺菌し、重量ごとにサイズ格付け(Grading)、包装(Packing)する施設のことをGPセンターという。

工場スタッフの手に渡った卵は殻の表面を機械で洗浄し、次亜塩素酸ナトリウム液に漬け殺菌を行う。ラインに流される卵は福岡工場で一日およそ40〜50トン(殻を含む)、個数にしておよそ100万個にもなるという。

殺菌液に卵が次々と投げ込まれる
表面を綺麗にした卵はベルトコンベアに乗り壁を越えて次の工程へ

殺菌を終えた卵は高速で動く割卵機で次々と割られ、スキャナで白身と黄身に自動分離される。

一時間で約8万個(1分当た#りに換算すると約1333個)というスピードで大量の卵が割られていく

その後ろ過し、配管のなかを通過させながら再度殺菌を行うが、ここに液卵の品質を安定させる上で重要なポイントがあると藤井社長は話す。

割卵・分離を終えた卵はろ過器へ

液卵の製造において特に気をつけなければならないのは、菌の繁殖を抑えるための温度管理。いつでも一定の品質で衛生的であるという液卵の強みはこの工程を着実に押さえていくことで実現します。

当社では60℃で3〜5分殺菌処理を行っていますが、この温度が然るべき全ての地点で一定に保たれるように、配管のなかにはセンサーを仕込んで秒単位で温度のチェックを行います」

1時間あたり1000〜6000Lの殺菌能力を持つ連続式殺菌機で殺菌を行う

卵を汚染するサルモネラ菌は、この「60℃で3〜5分」によって大幅に減少する。一般の調理においては75℃以上で1分間加熱することによって菌はほぼ死滅すると言われるが、65℃を超えると黄身の凝固が始まってしまうため、生の製品をつくる液卵メーカーの場合はそれが難しいのだという。

そのため、次に待ち受ける工程も合わせて考えることが肝心なのだと藤井社長は話す。

「殺菌とは言っても菌をゼロにできるわけではありませんから、ということはつまり、常温で放っておけばまたすぐ菌が増えてしまうんですよ。そうさせないためには、とにかく素早く冷却して素早く詰めることがポイントになってきます」

【“菌”にまつわる言葉の定義】
菌にまつわる言葉には様々なものが存在する。
「殺菌」は文字通り「細菌を殺す」という意味。しかしこの用語には、殺す対象や殺した程度は含まれない。そのため全体の一部分を殺しただけでも「殺菌」にあたり、厳密には有効性を保証したものではないとされている。
「滅菌」は「病原体・非病原体を問わず、すべての微生物を死滅、または除去すること」を指す。「滅」とは「全滅」の滅であり、菌に対しては最も厳しい対応。日本薬局方では微生物の生存する確率が100万分の1以下になることを以て「滅菌」と定義している。
「除菌」は「物体や液体といった対象物や、限られた空間に含まれる微生物の数を減らし、清浄度を高める」という意味。 ポイントは、菌を完全に失くすわけではなくあくまでも「減らす」行為であるということ。食品衛生法の省令では「ろ過等により、原水等に由来して当該食品中に存在し、かつ発育し得る微生物を除去すること」と定義されている。
「消毒」は「物体や生体に、付着または含まれている病原性微生物を死滅または除去させ、害のない程度まで減らしたり、あるいは感染力を失わせるなどして毒性を無力化させる」ことを指す。
これらの用語については薬事法や日本薬局方に決まりがあるものの、その定義にはやや曖昧な部分がある。菌を失くす確かさは、滅菌→殺菌→消毒→除菌の順。

60℃で殺菌した液卵を、菌の増殖が停止する5℃以下まで一気に冷やし、充填。製品化された液卵は、その後菌が再び増える時間を与えず素早く冷蔵庫へと運び入れられる。一方、冷凍卵の場合は充填後マイナス18℃(*)で急速凍結し、冷凍庫で出荷の時を待つ。

冷やした液卵は即充填、ヒートシーラーで密封し冷蔵(あるいは冷凍)庫へ

*日本の食品衛生法では、冷凍食品の品温は「微生物が増殖できない-15℃以下」にすることが定められている。その上で行政と業界団体は、生産・流通・販売の各段階で微生物の繁殖を抑えると同時に、食品の酸化や酵素反応などによる品質変化を抑制して長時間にわたり品質を保持する目的で、品温の自主基準値を「-18℃以下」としている。食品の国際規格であるコーデックス規格でも同じく「-18℃以下」が原則。