06「白身の魚にイカとタコ わさびを抜いてくださいな」

槇原敬之は「シンガーソングライター」だ。

幼い頃から音楽に浸かり続けた彼は、
日々培ってきた感覚と天性の才能を掛けわせて
作詞から作曲まで自身で手がける。

発表してきた曲は200曲オーバー。
そのほぼ全てが「作詞/作曲:槇原敬之」である。
(編曲に関してはちょこちょこあるけどね)

歌詞を先に書いた後に曲をのせる「詞先」を得意とする彼が他者から歌詞の提供を受ける例も存在する。

その一曲がダウンタウンが司会を務めていた音楽番組
「HEY!HEY!HEY!」がきっかけで誕生した「チキンライス」

作詞を松本人志が誕生し、作曲を槇原敬之が担当。
コーラスは浜田雅功と槇原敬之。
まさにダウンタウンと槇原によって生まれた作品だ。
(この曲は本当に素晴らしい作品なのでまた改めて書こう)

宜候に収録された「わさび」も他者から歌詞提供を受けた曲の1つ。
(なんとチキンライス以来17年ぶりの歌詞提供!)
※日刊スポーツ 2021年10月19日(日刊スポーツ新聞社)

提供者は須藤晃。
尾崎豊の「I LOVE YOU」「15の夜」「卒業」や、玉置浩二の「田園」など数々の名曲を手がけた音楽プロデューサーである。
(調べてわかったけど、息子さんは槇原とよく共演しているミュージシャンTomi Yo)

そんな槇原にとって珍しい形の作品について考察していこう。

彼がこの曲に乗せたメロディーはピアノだけのシンプルなもの。
いろんなメディアで彼は須藤氏が作った歌詞について「自分もこんな歌詞を書けるようになりたい!」と絶賛している。そんな作品の世界観を崩さないように、この曲編成にしたのだろう。

またサビの部分は人生という壮大な物語の中で大切にしたい/心がけたい大切な心得を描いているのだが、その部分を強調するように、Bメロからサビに移る部分を力強いピアノの旋律で導いている。

さて、恐縮ではあるが須藤氏の歌詞も読み解いていきたい。

まずこの曲の主人公は認知症のおばあさんだ。
そんなおばあさんの下にお孫さんが訪れて交わされるいろんなやりとりを短編小説のように歌詞している。曲の始まりが「どちら様かは存じませんが」とされるあたり、おばあさんはお孫さんのことすら覚えていないのだろう。

ただそんな見ず知らずの誰かにも、おばあさんは人生とは何かを説く。

夢なんて叶わぬうちが華だけど 静かに明日を待ちなさい
待ってるだけではダメだから 行きたい場所を目指しなさい
Aサビ
先頭に立たないように気をつけて 争い事はやめなさい
じゃんけんぽんはあいこでしょ いつまで経ってもあいこでしょ
Bサビ
人生は思うようにはなりません それでも希望を持ちなさい
神様なんていないけど 私はずっと私でしょ
大サビA
変わっていくものを嘆くより 変わらぬものを愛しなさい
笑うかどには福来たる あなたはずっとあなたでしょ 
あなたはずっとあなたでしょ
大サビB

このサビの部分は誰にでも心に刺さるフレーズではないだろうか。僕が特に好きなのはBサビの言い回し。争いごとはいけないと言うのを、ジャンケンというすごく日常的なものにまで及ばせている。このワードチョイスは圧巻である。

曲全体を通して伝えたいのは、結局人生は誰に決められるわけでもなく自分自身で決める以外ないと言うこと。以前の槇原は神様的な表現を多用していたが、最近はあまりしていないイメージ。そのスタイルに須藤氏の歌詞もマッチしている。

そして誰に何と言われようと「私は私」だし、「あなたはあなた」だ。よく「そんな人だと思わなかったよ、、、」て言葉を聞くけど、結局その人自身は変わってない。その人自身に自分の理想をのせていて、そのイメージから逸脱したにすぎないのだ。この曲を聴いている時、僕も自分自身に迷いがあったのでこの曲は心の支えになった。

さて、最後にこの曲のタイトルにもなっているわさび。

この表現についてはセルフで理解は出来なかった。
ただ書籍「槇原敬之 歌の履歴書」にその解説が書いてある。皆さんもこの言葉に持たせた意味を想像しながら、ぜひ書籍で答え合わせをしてほしい。

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